『死にたがりAのラメント 八.伍 〜赤色のマスタマインド〜』
作:緑野仁

 一連の出来事の後、春日部は車で逃げるようにして学校を出た。

(このままじゃ警察に捕まって俺の人生台無しだっ……とっとと此処を出ないとっ! )
 そんなことを考えながら春日部は自分の家へと向かう。

 家の前にたどり着くと、玄関の前に一人の少女が立っていた。それを見て春日部が驚く。

「こんにちはー」
「お前は……さっきのクラスにいた……!」
「覚えててくれました? 嬉しいなぁ」
 少女が微笑む。それを見て春日部は錯乱しながら叫ぶ。

「貴様、何のつもりだっ……! そこをどけぇっ!」
 叫んでから、春日部は違和感に気付いた。

 此処から学校までは、歩けば30分はかかる。それを自分が車で来るより早く、しかも息ひとつ切らしていない目の前の少女は一体何なのだ。

「いやぁ、私も警察の真似事がしたくなって……それに」
 少女は楽しいおもちゃを見つけたかのように目をキラキラさせる。

「改造した結果、試したくなって。先生が第一号ですよ」
「……は?」
 少女の言った突飛な言動に春日部は目を点にする。その間に少女は何かを準備していた。

「先生、何か言い残したいことあります? 皆に伝えておきますよ」
 そう言うと少女は突然上着を脱ぎ始めた。突然のことに春日部は驚く。

「何を……!」


「死ね」
 短く言い残すと、少女は自分の身体に手を突っ込んだ。手は不自然なほどめり込み、奇妙な音とともに身体から何かを抜き出す。

 その手には投げナイフが握られていた。今まさに身体の中から「抜き出した」それを、春日部に投げつける。

「ひぃっ!」
 春日部は思わず顔を覆った。

 春日部に刃が刺さる直前のところで金属同士のぶつかり合う音がする。少女の投げたナイフは地面に弾かれた。

「……何のつもりですか? 椿さん」
 少女が不機嫌そうに言う。春日部の目の前には真っ赤な着物を着た女性が立っていた。腰には日本刀を差している。

「それはこちらの台詞です、No.555様。貴女はわが社のルールを忘れておいでで?」
 それを聞いて少女が口をつぐむ。

「『鉄血人間結社』第三条、″ナチュラルには手を出さない″。破った場合には即刻制裁を下します」
「っ……」
「わかったらまずは服を着てください。風邪をひきます」
 椿に言われて少女は渋々服を着始めた。椿がため息をつきながら言う。

「貴女は戦闘要員であるとともに武器調達係でもあるのですよ。社長も目をつけていらっしゃるんですから、あまり勝手な行動はとらないでくださいませ」
「はいはい」
 服を着終わると、興味なさそうに少女はケータイを見始めた。すると春日部は腰を抜かしながら椿にすがりはじめた。

「た、頼む! 俺を守ってくれ! 此処の奴らはどうかしている! 少女警察だとか改造人間だとか……!」
 その様子を見て、椿はニコリと微笑んだ。

「忘れておりました。第四条……″ナチュラルに改造人間について知られた場合、幹部に限り、その者を勧誘、または隠蔽する″」
「へ?」
 突然の言葉に春日部は戸惑う。その彼に椿は諭すように言った。

「つまりですね……勧誘はわが社に貴方を入れること。隠蔽は……」
 椿は腰の刀にゆっくり手を当てた。

「処分すること、ですね」
 そこまで言い終える前に春日部は細切れになっていた。いつの間にか抜かれていた刃の血を拭い、椿は懐からケータイを取り出す。

「すみません、椿ですが。掃除をお願い致します。場所は……」
 人を斬った後も淡々と話す椿に少女は憧れを抱いた。人の命を掌握する快感。それは今すぐにでも体験したいものだった。

「さて、これで一時間後には綺麗になっているでしょう。貴女のせいで仕事が一つ増えてしまいましたが」
「すみませんでしたっ! あ、あのっ……」
 思い当たる節があって、少女は椿に訊ねた。

「改造人間相手だったら、思い切りやって良いんですよね?」
「構いませんが……人に見られないようにしなければいけませんよ」
「大丈夫ですっ!」
 少女が言う。


「心当たりがあるんです」
 少女が嬉しそうに微笑んだ。まるで待ち望んでいた時がやってきたかのように。



「あれ、愛子ちゃんは? さっきドロップキックまで決めてたのに」
 未だに歓喜の声が上がる教室の中で、一人の少女がポツリと呟いた。

「そういえばいないね。……まあいっか」
「そうだね」
 お互いに納得して少女達はまた別のことを話し始める。


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