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『死にたがりAのラメント 八 〜少女のジャスティス〜』 作:緑野仁
学校から大分離れたビル。その屋上で紗英華と、双眼鏡を覗く正実がスタンバイしていた。 「どうなってる?」 「死にたがりが話し出した。面白いことになるぞ」 紗英華はニヤニヤと笑いながら言った。 「悪趣味だなぁ、紗英華ちゃんも」 「お前も楽しんでるだろ。……美里、頼んだぞ」 少女と話しているのとは別の通信機に紗英華が喋る。通信機の向こうから美里、もといパソ子の声がした。 「貴方の、榊原梨香さんに対しての性的な暴力についてですよ」 少女の言葉を聞いて春日部と梨香の顔色が変わった。周りの生徒がより一層ざわつく。 「ななな、何を言うかっ! 教師とあろうものがそんなことを……!」 「しらばっくれないでください。なんなら本人に聞いてみますか?」 それを聞いて春日部の顔がみるみる青ざめていく。少女は終始うつ向いている梨香に向かって問う。 「梨香さん、正直に言ってください。あなたはあの男から性的な暴行を受けていますね?」 梨香は、ビクリと身体を震えさせた。その様子を見て少女は諭すように言う。 「大丈夫、梨香さん。私が守ってあげるから……誰もあなたを責めたりしないから」 微笑む少女を見て、梨香は泣き出しそうな顔をしながら、だが決心したような面持ちで言う。 「私……この間のテストで日本史が赤点だった時にそこの先生に言われたんです。『俺の言うとおりにしたら追試は取り消しにしてやる』って……」 そしてまずは服を脱ぐことを強要されたらしい。その後も暴行は続き、次第にエスカレートしていったそうだ。 「どうして言わなかったんですか?」 「言ったら、ネットにお前の裸を流すって言われて……だから私……」 梨香が泣き出す。少女はそれを慰めながら、春日部の方を睨んだ。春日部はたじろぎながら少女に反論する。 「お、お前ら、これは教師に対しての反抗程度じゃすまんぞ! そんなでたらめを……!」 「でたらめですって? この人がどんな思いで告白したか……!」 少女が叫ぶ。他の生徒達も非難する目で春日部を見ていた。 「な、なんだお前ら……そもそも俺がそんなことをするはずが……」 「なんなら、貴方のケータイのデータフォルダでも見させてもらいましょうか。それで全てわかるはずです」 「ふん、良いだろう」 そう言って春日部は少女にケータイを手渡した。 (どうせあの画像はプライベートフォルダに入っている。パスワードがわかるもんか) 春日部がせせら笑う。そんな春日部に少女はケータイの画面を突きつけた。 「これ、何ですか?」 少女が言う。その画面には裸の梨香の姿が映っていた。春日部の顔がみるみる青ざめていく。 「おい正実、あの顔見ろ。傑作だぞ」 「自白してるようなもんだね」 遠くからその様子を見て正実達が笑う。 「でも、パスワードなんてわかるもんなの?」 「人間っていうのは案外パターンで出来てる生き物だからね。そいつの動きを見てりゃわかるもんだよ」 「そりゃ凄いな。……俺の性格とかもわかったりする?」 「見んでもわかるわ。バカで変態で間抜け」 「変態は余計だよ、紗英華ちゃん。この純粋な瞳を見てくれ」 「止めろ、気色悪い」 紗英華は無視して教室を見る。 「これでも、言い逃れするつもりですか?」 少女が携帯を突き付けながら言う。 「こ、これは……何かの間違いで……」 「どんな間違いですか、ケータイの中に生徒の裸が入ってるって」 少女が呆れる。 「この……お前は一体何様だっ!」 春日部の言葉に、うっ、と少女がどもる。逆ギレも甚だしいところだが、確かに我ながらかなり差し出がましい。 「何だ、お前ただの生徒のくせしてしゃしゃり出てきたのか。どうせさっきのもお前のイタズラだろう」 春日部の顔に余裕の笑みが浮かび上がってくる。少女の額を汗が伝った。 「どうした? やっぱりただのイタズラか!」 「ぐっ……!」 少女が悔しそうにうめく。たしかにこのままでは不利である。 「ふん、くだらん。おい榊原、お前もグルなんだろう? 覚えておけよ」 それを聞いて梨香が怯える。すかさず少女は口を開いた。 「待ちなさいっ!」 「何だ、おい? まだ何か言うつもりか?」 嫌らしい笑みを浮かべる春日部に、少女は負けじと叫ぶ。 「わ、私は……!」 「ほう、何だ?」 「私はっ……全国の悩める女子高生を守る正義の味方、特殊少女保護警察ですっ!」 周りの空気が凍りつくのを少女は肌で感じる。顔が段々火照るのが良くわかった。 「……は? 何だと?」 「で、ですからね……私は……と、特殊少女保護警察……」 「……くっ……ははは!」 春日部は声を上げて笑い始めた。 「何だって? 特殊……警察? 何の遊びだ?」 「遊びじゃありません! 私は極秘に動いている警察の……」 「冗談もそれぐらいにしておけ。授業を妨害しおって」 春日部がため息をつく。少女はそれを見て焦り始めた。 「っ……! 私がどうであれ、貴方が梨香さんに性的な暴行に働いていたのは間違いありません! ちゃんと罪を償ってください!」 「どうせそれもお前らの嘘だろう? 大がかりな芝居をしおって」 「このっ……しらばっくれるつもりかっ!」 「だから、最初からやっておらんと言っとるだろう。どうだ、榊原? あんな嘘をつきおって」 春日部は嘲るように笑った。梨香は完全に怯えている。 (どうする……? ) 少女は考える。このままだとこいつは何が何でも嘘だと言い張るだろう。確かに生徒と教師ならあちらの方が有利だ。 『おい、死にたがり。何かお困りか? 』 耳元から紗英華の声がした。紗英華の声はどことなく笑っている気がする。 「紗英華ちゃん。……私、どうしよう」 『何だ、やることがわからないのか? なら私がアドバイスしてやる』 そう言って紗英華はある事を耳打ちした。少女はそれを聞いて勇気をもらう。 これなら奴を追い込める。そう確信して少女は春日部に問う。 「春日部先生。……貴方、家でパソコンしますよね?」 「? ……ああ」 「そして、パソコンの中にも梨香さんの画像が入ってますよね?」 「さて、何のことだ?」 春日部は見下した目で少女を見る。 「その画像、ネットに流出させておきましたから。もちろん貴方の知り合いとかにも」 春日部の顔が青くなった。慌てて少女に問う。 「ば、バカな! そんなこと出来るはずが……」 それを聞いて少女がニコリと笑う。 「先生、やってないんですよね? 何でそんなに慌ててるんですか?」 「あっ……」 しまった、という顔で春日部は呆然とする。ハメられたのだ。 「このっ……嘘をつきおったな!」 「嘘も方便ですよ。性犯罪よりよっぽど罪は軽いと思います」 少女が言う。 「この野郎がっ!」 そう言って春日部は少女に掴みかかった。体重差がありすぎて、少女は簡単に押し倒される。 「はんっ、どうせ捕まるぐらいなら一人ぐらいズタズタにしないとなっ! 皆の前で襲われる気分はどうだ、おい!?」 春日部は錯乱しながら少女の胸元に掴みかかる。少女は必死にその腕を振りほどこうとした。周りの生徒もざわつきながら止めに入ろうとする。 「おら、泣けっ! 泣かんか! もっと苦し……」 「スーパーライジングエレクトリカルドロップキーック!」 ぐぇっ、といううめき声と共に春日部は壁に叩きつけられた。少女の前には今まさにドロップキックを決めた生徒が立っている。 「大丈夫、少女警察さん?」 「……ええ、ありがとう」 立っていたのは愛子だった。少女は素直に礼を言う。 「お、お前らただですむと思うなよ! 必ず……」 「あら、今この状況でもそんなこと言えるんだ?」 愛子が言った。周りには春日部を睨む生徒達が立っている。 「ひっ……お、覚えてろよっ!」 ひと昔前の捨て台詞を吐きながら春日部は教室を出ていった。教室で歓喜の声が舞い上がる。 「すげぇぞ、少女警察! カスケベの罪を暴きやがった」 「やってそうな顔してたけど、本当にやってたとはねぇ」 生徒達は口々に呟く。その中で、梨香がこちらに近づいてきた。梨香はおずおずと口を開く。 「あの……本当にありがとうございました、少女警察さん」 「いいえ、構いません。えっと……これが私の仕事、ですから」 頭の中で設定をでっち上げながら少女はしどろもどろに話す。その姿はさっきまでのしっかりした姿とはまるで別人だった。 『終わったようだな』 「はい」 耳元からした声に少女が答える。するとそれを見て梨香がこちらに近づいてきた。 ビルの上。 「良かったな、何もされなくて」 『はい、危ないところで……うわっ、ちょっ、だぁっ! 』 向こう側から何かが転ぶ音がする。多少の物音と共に聞きなれない声が入ってきた。 『あの、あなたも少女警察の方ですか? 』 「……ああ」 必死に笑いをこらえながら紗英華は話す。 『あの、本当にありがとうございました! 私……』 「良いんだよ、別に。それよりそこにいるそいつに感謝しておけ」 紗英華が言う。 「あ、ちなみに俺は正実って言うんだけどいつかデートでも……」 割り込んできた正実に紗英華は容赦なく釘を打ち込んだ。短い悲鳴が響く。 学校。 「……?」 「どうしたの、梨香さん?」 「いえ、急に何かが刺さる音とうめき声が……」 「ああ、それはきっと少女警察が仕事したんだね」 ある意味間違ってはいない、と少女は思う。 「あの、警察さん! どうかお礼を……!」 「要らないわ、仕事だし。それに……この仕事はあまり人と関わってはいけないから」 「そうですか……」 本当はでっち上げを誤魔化すためなのだが、もちろん本当のことは言えないので隠しておくことにした。 「警察さん、ありがとうございました。……ところで」 「はい?」 「……名前、何でしたっけ?」 少女がずっこけた。 |
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