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『死にたがりAのラメント 六 〜彼らとのディファレンス〜』 作:緑野仁
「次は誰のところだ?」 「えーとね……あ、此処だね」 いつの間にか復活した正実が立ち止まる。 「もしもーし。はろー?」 「外国人?」 正実の気の抜けた言葉に少女が疑問に思う。 中から出てきたのは金髪碧眼の美少女だった。少女が驚く。 「ΑΕÅ&ゑヵ£◇?」 「え!? は、はろー……?」 「中に入って、だとよ」 紗英華が言った。それを見て少女が感動する。 「紗英華さん、言葉わかるんですか?」 「分からねぇよ。仕草で判断してるんだ」 それを聞いて少女は納得した。 「えーと……じゃあ、おじゃまします」 少女も必死に全身でアピールした。金髪の女性が笑う。 部屋の中は、とても普通だった。自分の部屋と同じような雰囲気を感じる。 「凄く普通の人ですね」 それを聞いて二人が驚いた。金髪は不思議そうな目で見ている。 「お前……誰かわかってて言ってるのか?」 「え?」 紗英華の言葉に少女が不思議がる。 「死にたがりちゃん。この娘、ジェイミーちゃんね」 「あぁはいジェイミーさん……」 少女が凍りつく。職場にいた金髪碧眼の女を思い出した。 「いや、え……だ、だって背が高かったし……」 「いつもはハイヒールだからな」 「そのっ! あの、嘘ですよね!?」 少女がジェイミーに詰め寄る。ジェイミーはおろおろしていた。 「死にたがりちゃん、ジェイミーちゃん怖がってる。どうどう」 「あ、すみません……」 反省して少女が縮こまる。そんな彼女を見て、ジェイミーは少し笑いながら紙を取り出した。そしてそこにすらすらと字を書いて少女に見せる。 ″私、字ならわかります。ぜひ書いてください″ それを見て少女は慌てて近くのペンを取り出してメモに書く。 ″私は死にたがりです。こんにちは″ 書いてみて、これは酷いと思った。 ″死にたがりさんですね。はじめまして″ ″はじめまして″ その後に少女は少し悩んでから紙に書き足した。 ″ジェイミーさんはどこを改造したんですか? ″ それを見てジェイミーの動きが止まった。やっぱり聞かなかった方が良かったかも、と少女は少し後悔する。するとジェイミーの手が再び動き始めた。 ″実は、良く知らないんです″ 「え?」 声に出して少女が驚いた。ジェイミーが書き足す。 ″改造されたんですけど、どんな風なのかは詳しく知らないんです社長さんも話してくれなくて″ あの夜の様子を思い出しながら少女は苦笑いする。知らない方が良いのかもしれない。 「あの、ところでこれは一体……」 「ジェイミーちゃんは変わった改造人間でね。『スイッチ』が入ると人格が変わるんだ」 「人格ですか」 「ちなみにスイッチの入った彼女の身体能力は当社比で普段の五倍、さらに動体視力や反射神経も……」 「というわけだ。あまり不用意に漏らすなよ」 正実の言葉を遮って紗英華が言った。 ″変なこと聞いてすみませんでした。でも、同じぐらいの年の人と会えて良かったです″ 少女が書いて微笑む。するとジェイミーは戸惑いながら紙に書き始めた。 ″実は私、童顔なんです。良く間違われるんですが″ ″それはすみませんでした。何歳なんですか?″ ″25です″ ″なるほ 書いてる途中で少女の手が止まった。 「……25?」 「ああ」 「私より9個上?」 「そうだな」 少女は呆然とした。見た目はどう見たって自分と同じか少し下だ。 「肉体強化系の改造人間には良くあることだよ。細胞の活動がおかしくなるとかで」 「なんですか……」 「ちなみに俺は何歳かわかる? びっくりすると思うけど」 「えっ」 正実の質問に少女が詰まる。自分より下に見える女性が25なら、自分より上のコイツは何歳になるのだ。 「実は……20なんだ」 「妥当ですね」 「妥当だな。むしろ精神的に大人になれ」 コイツは本当にバカだということがわかって少女は心の底から安心した。 「うるさいなぁ、そんなこと言うなら紗英華ちゃんももっと大人なパンツを履きなさいよ」 「ばっ……! 八歳に何を求めてやがるっ!」 「ほらー、ジェイミーちゃんだってこんな大胆な下着を……」 タンスから何かを取り出そうとした正実に容赦なく紗英華が釘を撃ち込む。 「死にたがり、他行くぞ。コイツを此処に長居させるのは良くない」 「あ、はい。ちょっと待ってください。えーと……」 ″今日はこれで帰りますね。おじゃましました″ 慌てて紙に書くと、少女は手を振りながら紗英華についていった。それを見てジェイミーが笑う。 少女達が出ていってから数分後。ケータイの着信音が鳴った。ジェイミーが中を見る。社長からだった。 ″すまないが、今日も仕事だ。風邪をひかないようにマスクを着けて出てくれ″ それを見てジェイミーが微笑む。 ″はい、わかりました″ そう返信して、彼女はタンスに入っていたマスクを着けた。 彼女の青い瞳が、静かに暗くなる。さっきまでの穏やかな表情は消えていた。 ジェイミーは床の端を触り始めた。すると隅に人が1人入る程の空間が姿を見せる。 中にはチェーンソーが入っていた。ジェイミーはそれを取り出す。 「次は?」 「えーと、今日いる人は次で最後かな」 いつの間にか復活した正実が紙を見て言う。 「誰だ?」 「長角(ながすみ)さん」 「あー……アイツか」 「どんな人なんですか?」 少女が不安そうに訊ねる。 「一言で言うなら……強い」 「あまり答えになってない気が……」 「長角さんはうちの主力戦闘メンバーだからね。数少ない身体改造系だし」 正実が言う。そこに紗英華が付け足す。 「感覚の強化に比べると、身体能力の強化はどうしてもキツいからな。適応力もかなり要る」 「だから俺みたいな男の身体改造系は本当に希少なんだよね。いや、自慢してるわけじゃないよ? 別に自慢は」 「わかりました、じゃあ無視しますね」 立ち尽くす正実を置いて少女と紗英華は歩く。 「こちらが長角さんの部屋っぷっ!?」 「おらぁっ、何しに来た正実っ……ん?」 いきなり扉を蹴飛ばして出てきて女性がこちらをいぶかしげに見る。 「アンタは……見ない感じね」 「えーと、死にたがりって言えばわかりますか?」 「ああ、アンタが例の娘ね! 良いよ良いよ、入りな!」 「ところで、あの……正実さんが……」 「ん?」 長角はさっき自分がぶっ飛ばした人影を探す。正実は廊下から転げ落ちて手すりに必死で捕まっていた。 「長角さ……落ち、落ちる……!」 「あぁそうか、じゃあ落ちろ」 そう言って長角は正実の手を払いのけた。正実の血の気がひくのが良くわかる。 「いやあああぁぁぁ……」 正実の叫びが徐々に小さくなっていくのが聞こえる。最後に何かがつぶれる音がした。 「あの、大丈夫なんですか!?」 少女は下を見ないようにしながら長角に言った。 「何が? たまに鍛えておかないと鈍っちゃうでしょ」 「いやでも、ここ五階……」 「平気、平気。改造人間なんて十階から落としても死にゃしないわよ」 そう言う途中で、突如長角が咳をしだした。 「さぁ、早く入りな。外は寒いし」 「あ、はい」 それを聞いて少女達は中に入った。 二人が中に入ると長角が鍵をかけた。少女が苦笑いする。 「……強い、ですね」 「だろ?」 さっきの紗英華の言葉に少女が納得する。 部屋に入ると、長角は引き出しから薬入れを出した。三錠の薬を手際良く飲む。 「病気か何かなんですか?」 「ん? ああ、違う違う! これは調整剤ね」 長角が笑いながら言った。 「実は私、持病持ちでさ。治らないって言われた時は本当に絶望したね」 「それで、改造人間に?」 「そう。突然社長が目の前に来てね、『病気に勝てるような強い身体になりたくないかい? 』って。その時は本当に死んでも良いかなぁって思ってたから受けたら、今度は強くなりすぎて薬を飲まなきゃいけないっていう。思うに、アイツは加減ってものを知らないね」 長角が笑う。少女はそれを聞いて少し意外だった。 改造とは言っても、色々な種類がある。人を守るためや、人を助けるためだったりする。彼女の中で彼らへの意識は変わりつつあった。 「長角さーん、入れてー! 寒いよー!」 外から聞こえる声で少女は我に帰った。 「さて、そろそろ暗くなってきたわね。何か食べてく?」 「あ、いえ。そこまでお世話には……」 「遠慮しないで。良いでしょ?」 「は、はい。それじゃあ」 「ああ、その前にちょっと待っててね」 そう言って長角はわめき声のする玄関の方へと向かった。扉の開く音がする。 具体的には定かではないが、扉の先からした音は壮絶だった。骨の折れる音やら肉の潰れる音やら叫び声やらが混ざり合う。少女は怯えながら紗英華を見るが、紗英華は至って普通に寛いでいた。 「さあ、ご飯にしましょ」 そう言って戻ってきた長角には返り血らしきものが付いていたが、少女はスルーした。少女がブンブンと首を縦に振る。 「長角さんのご飯、美味しかったです」 「ありがと。誰かにご馳走するなんて久しぶりだったから心配だったけど」 「またご馳走してください」 「そうね。じゃ、また」 「おやすみなさい」 「じゃあな、長角さん」 「アンタも早く寝なさいよ、紗英華。まだ子どもなんだから」 「子ども扱いするなっ」 紗英華が怒鳴る。長角は笑いながら二人を見送った。 「……お前、今日色んな奴を見てどう思った?」 正実だった塊を引きずりながら、エレベーターの中で紗英華が訊ねる。 「えーと……意外でした。皆普通の人と変わらない所があったりして」 「そうか。まあ改造してる以外は変わらないからな」 自分に言い聞かせるようにして紗英華が言う。 「紗英華ちゃんも普通の子と同じで可愛いですよ」 「黙れっ。そろそろ本気で穴開けるぞ?」 照れながら怒鳴る紗英華を見て、少女は笑った。こうやって見れば普通の子と何ら変わりはない。 「じゃ、私はコイツを部屋に置いて帰るからここでお別れな」 「わかりました。さよなら、紗英華ちゃん」 エレベーターから出て、紗英華は少女を見る。 「……死にたがり、最後に言っておく」 「はい?」 「改造人間は普通と変わりないとは言うが、普通の奴らにも頭のおかしい奴がいる。それと同じで、改造人間にもおかしい奴がいる。それを忘れるな」 紗英華が忠告する。そして付け足した。 「……だが、そいつらから守るのは私たちだ。忘れるなよ」 「……はい」 少女が微笑む。 「じゃあ紗英華ちゃん、おやすみ」 「ああ。……おやすみ」 エレベーターの中から紗英華が手を振る。そして扉が閉まった。 |
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