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『死にたがりAのラメント 四 〜残念なレジデンス〜』 作:緑野仁
「はーい皆、グルコサミーン☆! 永久魔法五分子少女、マジカルペンたんだよっ! 今日も皆を誘惑するジクロロヘキさんやジブロモエたんをバラバラに分子分解っ……」 テレビに延々と映る映像を正実は興味深そうに見ている。 「……それ、マジカルペンたん……」 「へぇー。この娘だれ?」 正実が言うと美里は足元に落ちていたケースを指差す。 「えーと……『マジカルペンたんはモレキュール星の第五王女様。女王に成り上がるため、次々とほかの王女を分子分解(撲殺)していく……』」 酷い内容だ。何が面白いんだろうか。少女は疑問に思う。 「で、なん……の、依頼……?」 「あれ、言ってなかったっけ? 今日はただの顔合わせで」 正実がこちらを見る。 「こちらが死にたがりちゃん。死にたがりちゃん、この人が美里ちゃんね」 「さっき聞きました」 少女が素っ気なく言う。 「そうだったっけ。で、美里ちゃんは情報収集専門……」 「さっき聞きました」 少女が言う。なるべくこいつと話したくないのだ。 「死にたがりちゃん……貴女が……」 「は、はい」 美里は興味深そうに少女を見る。 「死にたくなったら、言ってね……場所探して、あげる……」 「ありがとうございます……」 少女は苦笑いしながら言う。この人の紹介した所では死にたくないのは何故だろう。 「しかし美里ちゃんの部屋、また物が増えた? 凄いことになってるけど」 「好きだから……」 若干照れながら美里が呟く。 その周りには色々なものが散乱していた。床も足の置き場を探すのでやっとだ。 「美里さんは何の改造人間なんですか?」 少女が何気なく訊ねると、美里はうつ向いて黙ってしまった。少女は慌てて正実に聞く。 「私、何かまずいこと言っちゃいました!?」 「あー……基本俺たちは改造人間ってことを隠してるからかな、そういうこと訊かれると不愉快になるんだ」 隠しきれてないお前が言うな。少女が心の中で突っ込みを入れる。 「まあ紗英華ちゃんみたいに全く気にしてない人もいるけどね。でもそういうわけだから、街中で改造人間を見かけてもうかつに改造人間ですか、って訊ねない方が良いよ」 そもそも街中で改造人間を見かけることがない気がする、と少女は思う。その時美里が突然パソコンを指差した。 「……あれ……」 「え、パソコン?」 「美里ちゃんの脳はあのパソコンと直結してるの」 「え!?」 少女はまず美里を見てから、そのパソコンを見た。どう見ても普通のパソコンだ。 「でもこれ、店で売ってるようなパソコンですよね?」 「違う……パソ子はわたしが作ったの……」 「パソ子?」 再び少女は美里を見た。 「コンピュー田 パソ子……その子の名前……」 「名前、ですか……」 少女が若干ひき気味でパソコンの画面を見た。何の絵かは知らないが、何かキャラクターが描いてある。 「これも例のマジカルペンたんとかいうのの仲間なんですか?」 「……パソ子に、触らないで……」 「はぁ……」 微妙な表情で少女は美里を見る。 『こら、あんまり美里を苛めないでよ! 』 「ひぇっ!」 突然後ろからした声に慌てて少女は振り返る。 「だ、誰?」 『ちょっとー、さっき美里が言ってたでしょ? パソ子よ』 「パソ……」 少女の目が点になった。パソコンが喋っているのは初めて見た。 「死にたがりちゃーん、大丈夫?」 「だ、だってパソコンが喋っ……」 「だから、美里ちゃんはあのパソコンと直結してるんだってば」 「えっ」 少女が呆然とする。それを見てパソ子は大爆笑した。 『正実、この子バカねー。改造した方が良いんじゃないの? 』 その言葉に少女はムッとする。 「美里さんだってパソコンないとマトモに喋れないじゃないですか」 『だから、私はパソ子だってば。日本語通じてる? 』 「美里ちゃん、死にたがりちゃんをからかうのもそれぐらいにしておきなよ」 正実が苦笑いする。少女は何より正実にフォローされているのに腹がたった。 「もう良いです。こんなパソコンヲタクの部屋、とっとと出ましょうっ。根暗菌がうつっちゃいます」 『なかなか言うじゃないの、死にたがり。でも情報の力は嘗めない方が良いわよ』 さっさと部屋を出ようとした少女にパソ子が話しかける。 『アンタの顔から割り出して年齢、名前、高校、果ては身体測定の結果まで知っちゃってるわ。何ならここで言いましょうか? 』 「うっ……」 少女がたじろぐ。何よりも正実がキラキラした瞳で美里を見ているのが一番危険だ。 『忘れるなよ、死にたがり。情報は敵を殺す武器になる』 「……」 少女が押し黙る。さすがに改造人間だけあってこういう時の迫力は並ではない。 『……ま、でも逆に仲間を守る盾にもなるけどね』 「えっ?」 『私の力がいる時には何時でも言いなよ、死にたがり』 パソ子が言う。美里もこちらを見て心なしか微笑んでいる。 「……ありがとうございます、美里さん」 『どういたしまして。またね』 画面の中でパソ子が手を振る。美里も緩慢な動きで手を動かした。 「死にたがりちゃんのスリーサイズ聞きたかったなぁ……」 ぼやく正実に少女が一発蹴りを入れる。 「美里さん、良い人でしたね」 「そうでしょ? うちの会社は基本良い人ばっかりだよ」 廊下を歩きながら二人が話す。 「はい、正実さんを除きそうですね!」 「思い切り俺を除外したね!? 何でー……?」 「真っ先に人のスリーサイズ聞きたがるような人は良い人とは言いません」 少女が言い張る。 そんなこんなで正実がまた扉の前で立ち止まる。 「ここは……小次郎(こじろう)さんの部屋だね。もしもーし」 正実がドアを叩く。中から何かが動く音がした。 「あぁん? 何だコラ正実、ろくな用事じゃなかったら殺……」 「あ、小次郎さん。こちら例の死にたがりちゃん」 中から出てきた男に正実が紹介する。 男は白シャツにジーパンというかなり適当な格好だった。年は社長と同じぐらいだろうか、髪は相当長く前髪をゴムで適当に縛っている。 「死にたがりちゃん、この人が小次郎さんね。小次郎さんはうちの斬り込み……」 言い終わる前に突然小次郎がドアを閉めた。何事かと二人は驚く。 中で慌てて何かを探す音やら片付ける音がする。少女と正実は呆然としながらドアの前に立っていた。 「待たせたな、嬢ちゃんたち。さぁ入りな」 少しして、身なりを整えた小次郎が出てきた。服装はさっきよりかなり綺麗になっている。そして、 「小次郎さん大変そうだから行こうか。えーと、次は……」 「ちょっと待てお前らっ!」 廊下を歩く二人を小次郎が呼び止める。 「じゃあ小次郎さんと社長さんは昔から知り合いなんですか?」 「おう。アイツは昔からいけすかないヤツだった」 多少片付いた部屋の中で、小次郎が言う。 部屋は、片付いていると言ってもただ単に端に寄せたという感じだった。 「んで、アイツが俺にだな……」 「小次郎さん、このDVD見て良いー?」 「だぁー、そういうのは女の子がいない時に見ろっ!」 正実が持ってたのは大人向けのDVDであった。少女は心底蔑むような目で正実を見る。 「おほんっ。まあそんなこんなで俺は改造人間になったわけよ。嬢ちゃんはナチュラルなんだっけか?」 「ナチュラル?」 「改造してない人のこと」 部屋をまさぐりながら正実が付け足す。 「ああ、はい。やるつもりもないですけど」 「そうか、そりゃ良い。やっぱり人間本来の姿が一番だよ」 「改造人間の社員がそれ言うのって間違ってません?」 「良いんだよっ! うちの女性社員を見てみろっ!」 小次郎が嘆く。 「一人はチビッコ……一人はマスクで無口でメイド……一人は根暗で何考えてるかわからんヤツ……果てに大家は幼児だぞ!? 俺の夢を返しやがれっ!」 「凛々(りり)さんとかいるじゃないですか」 「あんな物騒なの女じゃねぇよ」 「えーと……」 少女が反応に困る。 「というわけでだ、嬢ちゃん。うちに入れ。大丈夫だ、待遇は良いだ」 「いえ、あの……私高校生ですし……」 「うちには八歳と五歳がいる」 正論である。 「え、えーとっ! 小次郎さんはどこを改造したんですか!?」 話題転換のために咄嗟に彼女から出た言葉に小次郎が顔をしかめる。正実はため息をついた。 「だから死にたがりちゃん、それはあんまり聞いちゃダメだって……」 「まあ良いんじゃねぇの? 俺はあんまり気にしねぇよ」 言いながら小次郎が立ち上がった。 「あー、そうだな……言葉じゃ言いにくいが……走馬灯ってあるだろ? 時間が遅く感じるやつ」 「はあ」 「俺の場合、ずっとそういう風に見えるんだよ。脳の運動とかなんかで」 小次郎が外を見つめる。 「小次郎さんはうちの斬り込み隊長なんだよ。危険な所に真っ先に出向いて最前線で戦ってる」 「まだ死ぬ危険が少ないからな。0じゃねぇけど」 「……凄いんですね」 少女は素直に言った。よく見れば彼の顔にはかすり傷が多数付いている。 「ただ、ゆっくりに見えても身体が間に合わねぇからな。避けれんものは避けれん」 「……」 「でもまあ、俺が一番適切なんだろうよ。だから俺はこの仕事は嫌いじゃないぜ」 「……頑張ってくださいね」 「ああ、当たり前だ」 笑いながら小次郎が言った。 「入社の話、考えておいてくれよ」 「じゃあ一応。さよなら」 「じゃあな」 小次郎に別れを告げてから二人は再び廊下を歩く。そのまま一つ上の階を目指す。 「さて、次は……ここだ」 正実が立ち止まった。 「おーい。起きてるー?」 言いながら正実が扉を叩く。中で何かの動く音がする。誰かがこちらに歩いてくるのが聞こえる。 「何だよ正実、今日は確か死にたがりと一緒って……」 中から眠そうに目を擦りながら可愛らしい着ぐるみのパジャマの紗英華が出てきた。少女と目が合う。 「あ、紗英華ちゃん。よろしくって言われちゃったから来ちゃった」 「……こ」 「こ?」 「殺すぞお前らぁっ!」 紗英華は顔を真っ赤にしながら正実を思い切り蹴り飛ばした。 |
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