『Oblivion Tale 〜第一話 拾い物〜』*3
作:kousaka−saguru


その夜。
人気も無い団地、入り口には黄色いテープに立ち入り禁止とかかれているものが張られている。ルーカはその前に立つ見張りと話していた。

「入らせろ」

高圧的かつ、恐喝的に凄んでいるが、目の前の見張りは通さない。それは見張りとして正解かつ、まともだった。

「……ダメだ、いったいどこの誰かもわからん者を入れさせるわけが無い」

その反応にほっとしつつもルーカは胸ポケットから一枚のカードを取り出し見せる。

「これでもダメか?」

『特例高等軍人 元陸軍教官兼第三大隊隊長兼大将補佐』

それを見て見張りはすぐに態度を改める。仰々しいカードの記述にはそうさせるだけの裏打ちと実績が込められている。

「わかりました、少々お待ちを」

そう言って手元にあった機械を持ち上げ目に向ける。
『網膜認証 PASS』

「本人確認終了、ではどうぞお通りください」

軍属、その中でも、元が高位であればこの場に入れるのだ本人と認証できれば。

「おう、ありがとよ」

口泉団地、表向きには会社の倒産によって放棄された土地、現在は軍の土地。多くの集合住宅が夜の帳に怪しい姿を浮かべている。
ルーカはその中を隈なく調べていく、入り口付近よりどんどんと奥へ。また、奥へ行くほどに建っている建造物は完成度を上げていくのだった。
どれだけ時間がたっただろうか、ルーカは一番奥の建物にたどりつく。何故か一棟だけ完成しているその建物は周りの廃墟のようになっている場所とは別の不気味さを醸していた。
ルーカはその建物を見上げ、眉根を寄せる。
そして、すぐに外に張り出している階段を上り一部屋、一部屋を確かめていった。
しかし、彼はそのうちにおかしなことが多いことに気がつく。

「なんで生活の痕があるんだ」

部屋の中にはお菓子の空き袋や水垢、洗ったまま干されているコップなどがそのままにされている。
上へ上へ、上がれば上がるほど疑念が大きくなっていった。それに伴い、腐臭に似た奇妙な臭いが鼻につき始める。

「まさかな…………」

ルーカは頬を引きつらせ階段を上る。
しかし、嫌な予感は得てして当たるもの。彼は最後の一段を上り、手すりを持ちながらその光景を目に焼き付けていた。

「まさかだな……」

そこには綺麗に死体が並べられていた。一列に五人ずつ、男女問わず、老若問わず、腐敗進行度問わず、ただ死んだ人間が手を組んで横たわっている。
中央には一本の道のように中途半端に満ちた月を指しているのだった。

「……………」

踵を返す。
ルーカは何も見なかったとばかりに体を反転させて階段を下りようとした。
しかし、その瞬間……音が聞こえた、下からではなく上から、前ではなく後ろから。
トサッ……。
そんな人が倒れような音にルーカはつい後ろを振り向く。

「――ッ!!」

光が見えた、どんどん巨大化していく。それはスローモーションなのかも知れない、実際はもっと早いかもしれないがルーカはとっさに踊り場まで身を投げた。
光は轟と音を立ててさっきまでルーカのいた場所を根こそぎ蒸発させている。
………ルーカは唖然としてその場に固まってしまった。
誰も来ない……数分の間何も起こらないことを不思議に思ったルーカは確認に行く、しかし、階段の一番上の段は蒸発しなくなっている。数段下からのぞくように見ると、中央の道のようなそこに何かが床を削り取ったような線があり、その先に子供が倒れている。
月明かりに照らされて黒い髪と、血のようなもので赤く濡れた半袖の白いシャツがやけに目立っていた。
さっきまでいなかったその子供は、まだ生きているようでよく見ると呼吸のため少し体が上下している。それを見てルーカは上半身の力だけで数段分の高さのある壁をよじ登り子供のところまで行く。
子供は気絶しているのかルーカに反応することは無かった。

「いったい……なんなんだろうか」

彼は目の前の少女の姿に明確な答えも浮かばず、途方に暮れて少女を見ていた。すると、突然、少女は目を覚ます。

「……うぁ……ひゃっ死ねぇ!!」

「はぁ!?」

目を覚ましたのにルーカが安心すると、彼女は彼に突然殴りかかった。
しかし、彼はそれをひょいと避けて彼女の腕を持ち上げる。

「あうっ!?」

それに驚いたのか、少女は涙を浮かべた。

「……お前誰だ? ここは軍の立ち入り禁止区域だが?」

しかし、その言葉に、少女は首を傾げる。

「軍?」

ルーカが返答しようとすると、下の方から声が聞こえた。

「何かありましたかぁ!!!!!」

どうやらさっきの光が見張りに気付かれたらしい。

「おい、お前静かにしろよ」

万が一にも気付かれる訳にはいけない。現状、何が起きているのか詳しくわからない中で、彼は少女を無闇に引き渡すのには気が引けた。

「?」

「何でもない!! 転んだときにオレの持っていたライトが飛んだんだ!!! 壊れてしまってもう使えないだけだ、心配ない!!」

「そうですかぁ!! わかりました!!」

そう言って建物のすぐ下まで来ていた見張りは去っていく。

「さて」

「?」

「お前をどうするか……はぁ」

「…………」

「もうしゃべってもいいぞ」

「…………」

子供は訝しげな目で彼を見ている。それも当たり前だろう。そして、辺りを見回して静かに口を開く。

「ここはどこなんですか?」

「ん? 日本、四蔵市だが?」

「どこですか、その市は?」

少女は国自体は理解しているようだが、市について尋ねられたことに彼は苦笑いを浮かべた。

「わからないのか……? 記憶喪失?」

「わからないです」

ルーカはどうしたらいいのかと悩むような仕草をして数秒。

「とりあえず、ここを出るか……お前ちょっとついて来い」

怪しいながらも、最初に攻撃を仕掛けて以来の攻撃も無く、ルーカは少女をどうするかは安全な場所でやることに決めた。
そして二人はこっそりと下りていく。



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