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『何故解通−ナゼトキツウ− 事件編』 作:武士道さむらぃ 「そう、次のゲームが」 ウサギは意味深につぶやいた。 そして時計の針が廻る― 屋敷の前には既に4人の参加者が集まっていた。 「じゃあアンタが楠田探偵?」 赤いジャケットの男性はまるで信じていないかのように言う。 「ええ、名探偵の楠田です」 楠田は堂々と宣言した。 そしてすぐに失敗したと気づく。 隣にいた女性はキラキラとした目で楠田を見つめた。 そして口を開く、 「名探偵様でいらっしゃいましたか! 一度そういう方にお会いしたかったのです。初めまして、桜坂ナナと申します」 桜坂はポケットから手帳を取り出した。 その表紙には『職業調査ノート』と記されている。 「今まではどのような事件を?」 桜坂はメモを取る体勢だ。 「……今までにですか?」 楠田が解決した事件はまだ一つしかない。 しかし彼はそれを発表する気にはなれなかった。 「そう、ですね……。は、犯人を自白させた事もありますが、残念ながら事件の内容を明かすことは出来ません。プライバシーに関わる案件ですから」 楠田は苦し紛れにそう吐いた。 (……無理か?) 場は一瞬沈黙した。 再び桜坂が口を開ける、 「素晴らしい方なのですね! 犯人に罪を認めさせるとは……。ありがとうございました!」 そう言って彼女は手帳に何かを書き込み、ポケットにしまった。 赤いジャケットの男も半信半疑の様子ではあったが、 「俺は紀野正だ」 と名乗り、手を差し出した。 楠田と正が握手を交わす。 「あ、僕は佐手月」 名乗るタイミングを逸していた佐手も手を差し出した。 「探偵、『□→4→7→13→16→13→16→13』最初の□に入る数は何か」 ベンチに座っていた黒いパーカーの男が小さく呟いた。 フードのせいで顔はよく見えない。 楠田は考えるポーズをとる。 (……雰囲気的に4より小さい数、ここは、ええと……) 「2」 楠田は自信なさ気に答えた。 それにパーカーの男は舌打ちをする。 「……正解だ。俺は水城悠」 「さて、自己紹介は済んだようですね。それでは門をお開けします」 佐手は行き場のなくなった手を引っ込めた。 そして5人はウサギに続き、屋敷の中へと入っていく。 「へえ、綺麗な屋敷ですね」 屋敷の中は、大理石にシャンデリア、赤い絨毯……いわゆる大豪邸というやつである。 桜坂でさえも感心しているのか首を上下に振っている。 ウサギは急に立ち止まり、5人の方を振り返った。 「では、最初のナゾトキです。これが解けないと今日一日『不幸』かもしれません」 そして壁に刻まれた文字を示す。 ―ここに大小二つのビーカーがある。片方には満タンに1Lの水が入っており、もう片方には満タンに2Lの水が入っている。大きい方のビーカーに触れることなくそのビーカー内の水を1Lにするにはどうすればよいか。 尚、二つのビーカーは共に厚さ0.05oであり、相似な関係にあるものとする。 「答えはそれぞれこの、」 ウサギは全員に板を手渡す。 「ホワイトボードに記入してください」 (相似なビーカー、厚さ0.05o……つまりは、) 楠田が顔を上げると既に他の参加者は解答をし始めていた。 「さあ、楠田さんも書いてください」 ウサギが身振り手振りで急かす。 ようやく楠田もペンを持ち、筆を進めていく。 そして数分後、ウサギが手を叩く。 「解答が済んだみたいですね。では回収します」 全ての解答をウサギが添削している光景は不自然極まりない。 そしてつぶらな瞳で遠くの方を見つめる。 「正解者は……、3名。桜坂さん、水城さん、そして楠田さんです」 ウサギはクラッカーを取り出し、糸を思い切り引く。 音が長い廊下に寂しげに響いた。 「く……、俺と佐手はどうなるんだ?」 紀野が恐る恐る尋ねる。 ウサギはそれには答えず扉を開けた。 「それでは、夕食に致しましょう」 広間のテーブルには豪華な料理が並べられていた。 「ええと、そろそろ朝食、じゃないですか?」 「夕食です。設定には遵守してください。それと―」 ウサギは紀野と佐手の手を引いた。 「アナタ方はカップラーメンで」 二人が連れられたテーブルにはカップラーメンが5つ用意されていた。 普段の生活においては彼らには特に不満な物ではないのだが、隣に燦然と輝く高級な料理達を見た後では落胆をせざるを得ない。 むしろ怒れてくる。 「他の方々も、パーティーのランクは成績に応じてリアルタイムに反映されていきますので、ご注意くださいね」 ウサギは無情にも二人分のごちそうをカートに乗せ、下げていく。 紀野と佐手は未練がましく料理に羨望の眼差しをぶつけた。 「うおー!」 佐手は意を決して料理に突進した。 食べた者勝ち、というわけである。 「……甘いですよ」 ウサギは佐手の後ろに回り込み、背中に手を添えた。 もう片方の腕で頭を真下に押さえ付ける。 そして最後におもいきり足を払った。 佐手は不自然な体勢で宙に浮き、そのまま地面に衝突した。 「設定には遵守してください」 ウサギは涼しい顔でカートを押していった。 元々表情に変化はないが。 「……ハイ」 佐手は小さな声で呟いた。 他の4人もウサギに逆らってはいけないと確信する。 絶対にアレは、プロだ。 “夕食”を食べ終えると、次に連れられたのは寝室だった。 「ええと、パーティーは終わりですか?」 楠田が尋ねた。 「目覚めた時に次のナゾトキが始まります。ゆっくりお休み下さい」 (ナゾトキ、か) 楠田は自分に与えられた部屋に入りベッドに潜り込んだ。 そして静かに目を閉じる。 朝、楠田はすっと目を覚ました。 部屋を見渡す限りではウサギが言っていたようなナゾは見当たらない。 仕方なく楠田は寝ぼけ眼でふらふらと扉に向かっていく。 ガチャ するとそこには― 「きゃあああああ!」 桜坂が悲鳴を上げた。 何かを指さしている。 「どうしたんですか!?」 楠田は桜坂の示す方向を確認する。 そして息をのんだ。 「……おはよう、ございます……」 そこにいたのは、血に染まったウサギ。 そして、背中から深々と刃物が刺されている、佐手だ。 「どうした!?」 桜坂の悲鳴を聞き付けて紀野と水城が部屋を出てきた。 そしてソレを見付ける。 「……おい、ウサギ。ナゾトキってのはコイツのことか? 冗談じゃねえよ」 紀野はウサギを睨みつけた。 ぴくりとも動かない佐手に楠田は駆け寄り、脈を取った。 そして首を横に振る。 「ち、違います! 私じゃな……」 「警察に連絡をっ!」 桜坂はケータイを取り出した。 「……あれ、アレ?」 しかし様子が変だ。 「桜坂さん、一体……」 桜坂の手の平には、画面の潰されたケータイが横たわっていた。 3人もすぐに確認するが、どのケータイも壊されていた。 「……人殺し!」 桜坂はウサギを思い切り睨みつけ、その場にへなへなと座り込んだ。 「綾崎さん、アナタが?」 「……違います。ホントに違うんです!」 綾崎は必死に訴えた。 しかしこの状況で彼女を信用出来るものはそうはいない。 「とりあえず警察に連絡するのが優先だ。……ウサギ。屋敷に電話はあるのか?」 水城が問い掛ける。 「……一台だけ。屋敷の入り口に」 綾崎は小さな声で答えた。 「す、すぐに帰りましょうよ! こんな殺人犯がいるところにはいられないわ!」 桜坂が泣きそうになりながら訴える。 「……ダメだ。犯人を逃がす訳には行かない」 楠田が強く言う。 「犯人はそいつだろ? 縛り上げて誰かが警察に連れていけばいいじゃねえか」 紀野はもっともらしく言うが、楠田には何故か綾崎が犯人であるようには思えなかった。 もし綾崎が犯人なら、何故『返り血を浴びた着ぐるみで呆然と立っていた』のだろうか。 「綾崎さん、とりあえずその着ぐるみは一旦脱いでください」 こんな状況でウサギの着ぐるみなんてふざけた存在はいらない。 綾崎は「……はい」と答え、着ぐるみを脱いだ。 「綾崎さん、確認のために聞いておきます。アナタはやっていないんですね?」 楠田は綾崎に問い掛けた。 「やってないです。私じゃありません。……本当です!」 綾崎はすがるような目で楠田を見つめた。 その目には涙がたまっていた。 「分かりました。ならいいです」 楠田は微笑む。 「何がいいんだよ?」 紀野がイライラと吐いた。 楠田が綾崎を庇う体勢にあることが気に入らないらしい。 確かに今の段階ではどうみても犯人はウサギである。 しかし彼女は犯人じゃないと楠田の内側が言う。 明るくなった空に、淡く白い月が浮かんでいる。 時計が午前零時の鐘を鳴らす― ゴォーン ゴォーン (……さあ見つけようか。本当の犯人を) |
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