『八猫伝』そのなな
作:璃歌音



「誰だ? お前たち?」
 ここは旧デス村。生活している気配のある家で、主が戻ってくるのを待っていたヴィーナス、マーキュリー、そしてサターンのもとに、一匹の黒猫がやってきました。
「私はマーキュリーと申します。私はエイトキャムライの一員でして……あ、エイトキャムライというのはですね……」マーキュリーが一歩前に出て、謎の黒猫に説明しました。
「《おかしなこと》なら俺も知っている。しかし、どうしてそれに俺が関係している事になっているんだ?」黒猫はいぶかしげに聞きました。
「いや、実はエイトキャムライと言いながら、まだ七匹しかいないんですよ。各部族から一匹ずつ選ばれているので、最後の一匹はデス族から選ばれるべきなのではと思いまして……。あなたはデス族でしょう? まだ残っていたのですね。よろしければ、お名前を教えてはいただけませんか?」マーキュリーは自慢の会話術を駆使します。
「……カロンだ」黒猫はぼそっと言いました。
「では、カロンさん。あなたがキャムライなのか確かめるために、ツラス村まで来ていただけませんか?」マーキュリーは笑顔を絶やさず、肝心なことを要求しました。
「いいだろう。案内してくれ」

 カロンが鮫の珠に触れると珠が輝き……ません。
どうやら、彼はキャムライではないようです。
「え? どうしてだろう? ねえ、あんた以外にデス族は残ってるの?」ヴィーナスが聞きました。
「いない。残っているのは俺だけだ」
「そうか……選ばれるべき八匹目のキャムライはもうこの世にはいないってことか……。残念だ。こんなことで正体不明の《ジアス》と闘えるんだろうか?」サターンがぼやきました。
「あ、ジアスの正体が分かったようですよ。なぜかこのリキャット島にヒトがいるようで、それが、ジアスという名前なんだそうです。何かよからぬことを企んでいるようなのですが……まだあまり調査が進んでいないようです」マーキュリーが言うと、
「なんでそんなことお前が知ってるんだ?」サターンが文句を言いました。
「ああ、ジュピターさんから伝書ネズミが来たんですよ。サターンさんは疲れているようでしたので、言うチャンスがなくて……」マーキュリーは申し訳なさそうです。
「まあ、いい。ところで、どうするんだ? 八匹目のキャムライ探しは」サターンはころりと話を変えました。
「そうね。ツサばあさんに話を聞きに行こうかしら」ヴィーナスが言った時、ちょうど残りのキャムライたちが戻ってきました。
「あれ? 黒猫……ってことはデス族の生き残り? 八匹目のキャムライなの? なんて名前?」マーズが嬉しそうに言いました。
「彼はカロン。でもね、マーズ。聞いて。カロンにさめ の珠に触れてもらったんだけど、珠は光らなかったの。彼はキャムライではないみたいよ」ヴィーナスが珍しく他猫を落ち着かせる側にまわりました。
「あんた……嘘ついてるね?」突然ネプチューンがカロンに向かって言い放ちました。
「は? なんのことだ?」カロンは不思議そうにネプチューンを見ます。
「そうよ。何言ってるの、ネプチューン?」ジュピターがネプチューンに近寄ると、
「あんたはカロンなんて名前じゃない」ネプチューンはなおも続けます。
「なんでそんなことが言えるのよ?」ヴィーナスもネプチューンを心配そうに見ています。
「わからない。でも、なんとなくそんな気がする」
 と、そこへツサばあさんが現れました。
「おお、ここに居たのか。八匹目のキャムライが見つかったそうじゃの?」
「それがね、ツサばあさん、彼は唯一のデス族の生き残りみたいなんだけど、さめ の珠が反応しないのよ」マーズが悲しそうに言いました。
「いや、そんなはずはないぞ。確かにこいつはキャムライじゃ。時空妖精がそう教えてくれた」ツサばあさんは誇らしげに言いました。
「教えてくれた……ってことは、時空妖精と話せるようになったのね!? ジアスは何をしようとしているの?」ジュピターは嬉しそうです。
「それより、まずはキャムライじゃ。そこの黒猫。名はなんという?」ツサばあさんは急に真剣な顔になってカロンに近づきました。
「カ……カロン」
「嘘じゃな」ツサばあさんは妙に冷たく言いました。
「ねぇ、ツサばあさん。ネプチューンもそんなことを言ってたけど、どういうことなの?」ヴィーナスが聞きました。
「ネプチューンはわしと同じような……いや、わしをもしのぐような能力をもっておるからな。初めて会ったときからなんとなくそう考えとったんじゃ。未来がちらっと垣間見えたりとか、そういう経験はないかね、ネプチューン?」ツサばあさんが言いました。
「そ……そういえば、小さいころよくちょっと先の未来が見えて、でも、みんなに言っても信じてもらえなくて。だから、気のせいだと思ってたんだけど……」ネプチューンは不安そうに言いました。
「そうじゃな、最初は誰も信じてくれん。わしだってそうじゃった。しかし理解者が一匹でもおればいいんじゃよ。わしがその理解者じゃ」ツサばあさんはうんうんとうなずきました。
「おっと、それより今はキャムライじゃ。おぬし、本当の名前を言わぬか」ツサばあさんはまた真剣な顔に戻っていいました。
「本当は……プルートだ」
 カロンが言ったとたん、さめ の珠が輝きだしました。美しい黒です。誰も見た事がないくらい美しい黒でした。
「そうか、なぜ嘘をついておった?」
「カロンというのは、弟の名前だ。デス族は、ヒトに絶滅させられたんだ。俺の家族も全員……。弟は特に酷い殺され方をした。思い出したくもない。俺は復讐を心に決めた。猫たちも信じられなくなって、偽名を……弟の名前を使っていたんだ」プルートはがっくりとうなだれて言いました。「でも、お前たちは違うようだ。申し訳ないことをした。許してくれ」
「へーき、へーき! 俺たち心の広いエイトキャムライだもんな!」ウラナスが言いました。なんとか会話に加われて嬉しそうです。
「よし、セブンキャムライからちゃんとエイトキャムライになったところで、さっそく作戦会議だ!」サターンもはりきっています。
「みんな、行くよ! ツサばあさんも来てください。いろいろと手伝ってもらえると嬉しいので」ジュピターがいいました。
 そして、ツサばあさんも、
「もちろんだよ!」
マーキュリー、ヴィーナス、マーズ、ジュピター、サターン、ウラナス、ネプチューン、そしてプルートと八人揃ったエイトキャムライはツサばあさんと共にジュピターの家、作戦会議室へと向かっていきました。


そのろく<<
>>そのはち