『八猫伝』そのろく
作:璃歌音



 ここはイレク湖。ガニメデとエウロパが磁場と空間のゆがみを調べています。
「この空間のゆがみの原因はどこか別の所にありそうだな」エウロパがつぶやくと、ガニメデがくいついてきました。
「やっぱりお前もそう思うか、エウロパ? 磁場のゆがみの原因も別の所にありそうなんだ。さあ、原因を辿ろうじゃないか!」ガニメデは楽しそうに言いました。
「めんどくさいなぁ……」エウロパもしぶしぶついていきますが、目は笑っています。
 キャムライたちも急いで動き出しました。専門的すぎて何も言えないので、ただただついていくだけです。

「ジュピター! 分かったぞ! 磁場と空間のゆがみの原因はこの洞窟の中だ!」海辺の洞窟の前に着いたとたん、ガニメデが叫びました。
 この洞窟はリキャット島の北側の海辺にあるのですが、恐ろしい怪物が棲んでいるという噂があるので誰も近づこうとしません。ところが、ガニメデとエウロパはそんなことはお構いなしというようにずんずん進んでいきます。それを見かねたウラナスが、
「ね、ねぇ! この洞窟には怪物がいるんじゃないの? 勝手に入って大丈夫なのかよ?」泣きそうな声でうったえました。
「はっ、研究者たるものそんな居るのか居ないのかわかんないような怪物に怯えてられないんだよ! なんなら帰ってもいいぞ? おちびちゃん♪」エウロパがにやにやしながら言うと、
「おちびちゃんじゃない! ウラナスだ! 俺はエイトキャムライに選ばれたんだぞ! 行くよ! 行くに決まってるだろ!!」ウラナスは必死に言い返しました。
 一行は洞窟の中をひたすら進みます。
 進みます。
 進みます。
 進みます。
 進みます。
 進みま……
「まだかよ!」ウラナスの文句が始まりました。
「もっと奥みたいだよ」マーズが答えると、
「しっ!」突然、ジュピターが会話を制しました。
 すると、洞窟のわき道から何か音が聞こえてきました。まるで、すすり泣きのような音です。
「何か居る……」ネプチューンがつぶやきました。
「よし、行ってみよう!」ガニメデは楽しそうにわき道に入っていきました。
「危なくないの? 噂の怪物なんじゃないの?」ウラナスは心配そうに言いました。
「……ぴぎゃっ!?」
「何?今の」ネプチューンが聞くと
「ガニメデの悲鳴みたいだね。行ってみよう!」マーズがわき道に走っていきました。
 残っていた猫たちがさっさとわき道に入っていくなか、ウラナスだけは渋っています。でも、一匹で残ったほうがより怖いということに気づき、みんなを追いかけていきました。

「うぎゃああああああああああああ!!!」
「ウラナス、うるさい」
 わき道にうずくまっていたのはそれはそれは恐ろしい生き物でした。とにかく恐ろしい容姿なのです。牙は鋭く、爪も長く、けむくじゃらでぼさぼさで、比較的大柄なエウロパの二倍以上の背丈があり……とにかく恐ろしいのです。
 ところが、その恐ろしい生き物とガニメデが楽しそうにお喋りしているではありませんか!
「なあ、ガニメデ? そんなのに近づくと喰われちまうぞ?」ウラナスの目にはうっすらと涙が浮かび始めています。
 すると、怪物が突然泣き出しました。
「ウラナス、こいつはな、見た目が恐ろしいからみんなに嫌われ、逃げられ、とてもつらい思いをしてきたそうなんだ。ホントはとてもいい奴だぞ。優しくてまっすぐな心の持ち主だ。ほら、お前からも何か言いな」ガニメデが怪物の肩をとんとんと叩きながら言いました。(ガニメデは高い椅子のようなものの上にいたので、怪物に手が届きました。)
「コンニチハ。ボクノ、ナマエハ、ひぎえあデス。ドウゾヨロシク」怪物……ではなくヒギエアは、たどたどしく自己紹介をしました。よく見ると、ヒギエアは容姿こそ恐ろしいものの、普通の猫のようでした。
「まだ、あんまり言葉は分からないみたいだが、これから勉強していきたいと思っているそうだ」ガニメデは終始にこにこしていました。新しい友猫ができて嬉しそうです。

 やはり、進みます。
 進みます。
 進みます。
 進みます。
 進みます。
 進み……
「まだかよぅ!」恒例のウラナスの文句タイムです。
「静かに!誰かいる!」いつの間にかガニメデやエウロパと共に一行の先頭を歩いていたマーズが全員を止めました。
 行き止まりになっているように見える場所なのですが、よく見ると壁の向こうに空間がありました。岩壁のすき間から中が見えるのですが、そこに何匹か猫影が見えます。いや、どうやら猫ではないようです。
「(ヒトだ! ヒトがいる!)」ネプチューンがひそひそ声で言いました。猫しかいないはずのこのリキャット島に、人間が来ているようです。
 すると、人間たちの会話が聞こえてきました。
「ジアスもすごいこと考えるよなぁ。猫しかいないこの島であんなことやこんなことを……くっくっく」
「ふふ、ありがとよ、フロン。早速、次の実験を始めるぞ。ん? オーラシャッターが開いてるぞ? 気をつけろ。いくら猫と言えどもあなどれないぞ」ジアスと呼ばれた男が答えました。
 フロンと呼ばれた男は猫たちが覗いているすき間に向かって歩いてきました。猫たちは急いで隠れます。
 すると、フロンが何かのスイッチを押し、すき間が岩でふさがれていました。ウラナスが触ると突き抜けたので、実体のない幻影のようなもののようですが、これで中が見えなくなってしまいました。
「《ジアス》の正体がわかったな。《ジアス》はヒトだったんだ。なんだか良からぬことを企んでいるようだが……中のようすがわからんな。よし、ツサばあさんと一緒に時空妖精とやらの力を借りに行こうじゃないか」エウロパが言いました。
「でも、ツサばあさんはまだ時空妖精と話せるようになってないんだよ?」マーズです。
「『時空』妖精だろ? それなら俺とカリストの手にかかれば朝飯前だ!」エウロパは誇らしげにそう言いました。

 ツラス村の東のはずれのカリスト研究所。
 例のごとく、時間を研究しているカリストの研究所です。
 例のごとく、ぼさぼさの毛でヒトの国から持ってきた眼鏡をかけたカリストと、今までどおりのやりとりを交わし、キャムライたちはエウロパとカリスト、二匹の研究者を連れてツサばあさんのもとへ行きました。
「なんだい? 時空妖精とはまだ話せるようになってないよ?」ツサばあさんはいかにもうっとうしそうに言いました。
「いや、それがね、《ジアス》の正体が分かったんだよ。《ジアス》はヒトだったんだ。海辺の洞窟の奥で何か良からぬことを企んでる」ジュピターが簡単に説明しました。
「そうかい。《ジアス》はヒトだったのかい。それなら時空妖精と話す必要はないね」
「いや、それがね。ジアスたちは変なシャッターを閉めちゃって、何をやっているのかわからないんだ。そこで、ツサばあさんの力が必要になったのよ。時空妖精に何か聞けないかと思って。でね、その手助けをするためにエウロパとカリストに来てもらったの」マーズが付け加えました。
「そうかい、エウロパとカリストが来てくれたのかい。それは助かるねぇ」
「早速だが、ツサばあさん。時空の○○が△△だから妖精と話せないのか?それとも□▲が▼■になってしまうのか?」
「いや、×●が◎◎で□■だから△▽なんだよ」
「そうかそうか。じゃあ■□を◎●にして……」
「じゃ、じゃあ、頑張ってね。私たちは他の用事があるから!」マーズが言い、キャムライたちはそそくさと去っていきました。




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