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『アースロッド 地の巻』第4章「《選ばれしロッド使い》」
作:璃歌音 《大地の神》は3人組の前に立ちはだかって入り口を塞ぐと、スドと呼ばれた男ともう1人の男をひょいと持ち上げ、神殿の奥まで投げ飛ばしてしまった。そして、リーダー格の男も同じく放り投げ、アディのほうへ歩み寄ってきた。 その時アディは、《大地の神》の後ろを暗い翠の石を持ったギギグルがすりぬけて逃げていくのを見たが、あまりにギギグルの動きが速すぎて何も出来なかった。 「アディ、怪我はないか?」《大地の神》の声は、直接心に響くような声だった。 アディは、炎、水、大地、雷、風、霊、と六種類の《ちからいし》の持つ力それぞれに神が存在することを本で読んでいたので、この大男が《大地の神》であることはわかったが、なぜ自分の名前まで知っているのか不思議に思った。 「大丈夫です……でも、なぜ僕の名前を?」 「お前が、《選ばれしロッド使い》だからだ」 大地の神が答えたとき、黒装束の3人組が走り抜けて逃げていった。 「しまった! 逃げられた! アディ、追うぞ! アーソルを取り返さなければ!」 今にも走り出しそうな《大地の神》を抑えてアディは聞いた。 「ちょ、ちょっと待ってください! アーソルってあの翠の石のことですか? だったら、少し前にギギグルが持って逃げちゃいましたよ!」 アディの言葉を聞いた途端、《大地の神》はぴたりと止まってうなだれた。 「そうか……大地の力を借りても、すばやいギギグルには追いつけまい」そういって《大地の神》は地面にどしんと座り込んだ。 「それより《大地の神》……様?」 「アーソルと呼んでくれ。」 「え? でも、それってさっきの《ちからいし》の名前じゃ……」 「あれは、《神の石》。神々と同じ名を持つ伝説の石だ。普通の《ちからいし》とは比べ物にならん力をもっておる。《神の石》には、それぞれ陰と陽の2種類があるのだが、今、そのうちの陰のほうを奪われてしまった……。一体、どんな災いが起きるか……」 「そんな……」 「そのためのお前だ!」 「は!?」 「さあ、早速行ってくれ。お前にはこの陽のアーソルを授けよう。なにせお前は《選ばれしロッド使い》なのだからな」 「いや、あの! その《選ばれしロッド使い》っていうのは……?」 アディは、ずっと訊き損ねていたことをやっと尋ねることが出来た。 「……なに? 《選ばれしロッド使い》の説明を聞いていないのか?」 「説明?」 アディにはなにがなんだかわからなかった。 「全く、アルキの奴、あれほど忘れるなと言ったのに……」 アルキという名前はよく知っていた。アルキ・ソルはアディの隣の家に住んでいて、アディと一緒によく遊んでいた少女だった。 しかし、最近はアルキがある勉強に追われ、ほとんど一緒に遊ぶことは出来なくなっていた。というのも、ソル家は神々に仕え、神々や《ちからいし》について学び、伝えていく《神に仕える家系》だったからだ。 すると、神殿に1人の少女が飛び込んできた。 「ごめんなさいアーソル! 今、思い出しました!」 アルキだ。肩から白くて大きなショルダーバッグを掛けている。たくさんの本が入っているのか、とても重そうだ。背中まで届く長いさらさらした黒髪を真ん中辺りでしばっている。 「ばかもんが! 今頃思い出しても遅いわ!」 「ご、ごめんなさい!」 「ア、アーソル。そんなに怒らなくても……」アルキがかわいそうで、アディは止めに入った。 「うむ、まあ今回はアディに免じて許してやろう」 《大地の神》がすんなり許してくれたのでアディはほっとした。 「ありがとうアディ! 久し振りね!」 アルキのくるりとした瞳にみつめられ、アディはなぜか気恥ずかしくなり、ぷいとそっぽを向いて言った。 「そ、そうだな。最近はアルキがいろいろと忙しくて、あんまり遊べなかったもんな」 アルキは、そんなアディの様子を見てくすりと笑った。 「じゃあ、アディ。遅くなっちゃったけど、《選ばれしロッド使い》について説明するわね」 彼女の説明はこういったものだった。 6人の神々が守る、神々の名を持つ六種類の伝説の《神の石》、紅の《フレムラ》、蒼の《アクーガ》、翠の《アーソル》、金の《ウィヌド》、銀の《ゴスタ》、黄の《エレクス》は、普通の人間が使う《ちからいし》とは比べ物にならないとてつもなく強大な力を持っているため、人間に悪用されると、大変な災いを招くことになってしまう。しかし、人間の起こしたことは人間が始末をつけなければいけない。その災いを食い止める人間が《選ばれしロッド使い》である。 《選ばれしロッド使い》に選ばれるには、正義の心を持っている、強い勇気がある、《神の石》についての知識がある、あるいは、《神に仕える家系》の人間が共に旅をすることが出来る、など様々な条件があり、それをクリアしたのがアディだった。 「どうして僕が? なんで今?」アディが不思議そうに呟くと、 「アディはたまたま条件に当てはまったのよ。たまたまね」アルキは少し皮肉を込めて言った。 「それより、なぜ今か、というほうが重要だろうが。」アーソルが、アディをからかうアルキを諫めた。 「そうでした。アディ、さっき村を襲ったやつらは『ダークス』って名乗っていて、神殿のある町や村に現れては、陰の《神の石》を盗んでいるの。既に、2つ、《神の石》がやつらの手に渡ってしまったわ。『ダークス』たちが何を目論んでいるのかはわからないけど、このままでは世界が滅びかねないの。」アルキが真剣な目でアディを見る。 「そんな!」 「世界を救うには、陽の《神の石》を集めて、やつらを止めないといけない。やってくれるよね……?」 アディの気持ちは、話を聞いている途中で既に決まっていた。 「もちろん。だって僕は、《選ばれしロッド使い》に選ばれるほどの正義の心を持っているんだからね」 その言葉を聞くと、《大地の神》は満面の笑みを浮かべ、アディに陽のアーソルを渡した。 「よく言ってくれた」 「よし! じゃあ、アディ。早速準備をしましょ!」 「えっ? アルキも行くの?」 「当たり前でしょ、わたしは《神に仕える家系》なんだから。さっき説明したでしょ。それとも何? アディが《神の石》の知識を充分持ってるって言うの? じゃあ、金の《神の石》の名前は?」 「う……ウィ、ウィンウィン?」 「……馬鹿にしてる?」 「ごめんなさい!」 「じゃあ、さっさと行くわよ。村のみんなにも挨拶しないと。」 「う、うん」 二人が神殿から出て行くと、《大地の神》が呟いた。 「頼んだぞ、2人とも。」 |
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