『アースロッド 地の巻』第3章「神の目覚め」
作:璃歌音



 アディは走りつかれて座り込んだ。
 気がつくと、アディは村のはずれの神殿の前にいた。この神殿は、シ・ミフラの守り神である《大地の神》が祀られているのだ。アディは、あいつらが目指してるのはここだ、と察した。そこで、神殿で待ち伏せしながら少し休憩することにした。
 建物の中に入ると、一番奥に《大地の神》の石像があった。近づいてみると、像はとても大きく、アディの身長の5倍以上はあった。《大地の神》は、屈強な男の姿をしていて、裸の上半身には隆々と筋肉がうねっていた。
 すると、像の胸の辺りで2つの光がきらめいた。よく見ると、そこには翠の石が2つはまっていた。アディには1つは若干明るく、もう1つは逆に暗く光っているように感じた。その石にただならぬ雰囲気を感じたアディは、像からは離れて、入り口の近くの暗がりに身を隠して待ち伏せることにした。
 アディは、黒装束が来るまでの間、ここでの攻撃方法について作戦を立てることにした。幸い、神殿には床がなく、土が表面に出ていたのでさっきと同じような攻撃はできるようだ。今度は小さな地震を起こしてみようか、泥人形を作って闘わせてみようか、などと考えていると外から足音が聞こえてきた。
 あの黒装束たちだ。
 しかし、地面に耳をつけて聞いてみると、足音は2、3人分しか聞こえない。
 これはチャンスだ。
 そう思ったアディは、入り口のそばに身を隠し、翠の石に心の力を込めた。すると、3人の黒ずくめの男たちと、1匹の小さな生き物が神殿の中に入ってきた。それはギギグルという名のすばしっこく知能が高くて手先が器用な2本足の生き物だった。
「全く、なんで俺たちがアーソルを取りに来なくちゃならねぇんだ」黒装束の1人が言う。
「ほんと、ダークスの幹部たちは人使いが荒いよな」別の声が言った。
「おい! 人がいたらどうするんだ! 大きな声を出すな!」3人目の男が2人を諫める。
 残念でした。もう聞いちゃってます。
アディは心の中でそう笑った。
 アーソルってなんだろう……取りに来たって言ってるってことは、ここにあるんだろうか。ダークスってなんだ?
 そんなことを考えているうちに、3人は《大地の神》の石像の前まで歩いていってしまった。
「さっさと仕事を済ませて帰ろうぜ!」最初の男が言った。
「うむ、ギギグル、頼む」3人目がそう言ってギギグルに目配せした瞬間、ギギグルは像の胸に埋め込まれた2つの翠の石のうち、もう1つよりは暗く見えるほうを瞬く間に奪い取った。
 あまりに事が早く進んだので、ついぼーっとみていたアディだが、ふと我に返り、暗がりから飛び出して叫んだ。
「何やってんだ! 泥棒は嘘つきの始まりだぞ!」
 焦っているときこそ、おかしな事を口走るものである。このときのアディもそうだった。
「ぶ……ぶあっはっはっはっはっはっは! な〜に言ってんだこいつ! 逆だろ逆! 嘘つきは泥棒の始まり! はっはっはっは」
 そんなことはわかってんだよ。
 アディは心の中で反論した。
「おい! そんなことよりスド! やっぱり人がいたじゃねぇか! ……おい坊主! いつからそこに居た? 何を聞いた? 答えろ!」
 アディはとぼけることにした。
「なんのこと? 僕は今この神殿に来たばかりだよ?」アディの声は緊張でふるえてしまい、嘘がばれないかと不安だったが、3人組のリーダー格の男は、
「そうか、それなら良いんだ。坊主、お兄さんたちは神殿で仕事をしているから、この翠の石を持ってくるように神様に頼まれてたんだよ。わかったら、早くお家に帰りなさい」
 嘘ばっかり。どうみてもお兄さんじゃないし。
 アディはそんなことを思ったが、もちろん黙っていた。だが、3人組はさっさと神殿を出て行こうとしていた。アディは焦って男たちを止めようとしたが、こんな時に限って、何も方法が思い浮かばない。さっきまであんなにいろいろと考えていたのに。
 その時だった。神殿の奥から、大地を揺るがすような唸り声が聞こえてきた。と、次の瞬間には、3人組の前にとてつもなく大きく屈強な男が立っていた。男の胸には、とても古そうな首飾りについた明るい翠の石が光っていたが、首飾りには不自然な隙間があった。しかもその男の姿は、険しい顔立ちといい、強靭な肉体といい、神殿の奥の石像そのままだった。
「《大地の……神》?」アディは思わず呟いていた。


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