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『アースロッド 地の巻』第1章「試練の始まり」
作:璃歌音 ジアースド地方の東に位置する村、シ・ミフラ。 アディ・ルナは今、アースロッドをもらうための試験の前に行われる、村の最北端にある黙祷の間で8分間の黙祷をしているところだった。やっと、あと1分になったところだった。ちなみに、黙祷の8分とは《ちからいし》の数に由来する。 アースロッドにとりつけて力を引き出す《ちからいし》について説明しておこう。アースロッドとは、《ちからいし》という不思議な魔力を持つ石が無ければただの木の棒である。《ちからいし》は、ロッド使い以外の人間でも日々の生活に活用しているが、ほとんどの人は、力はあまり強くない代わりに使い勝手の良い白の石を使う。石は他に、紅の石、蒼の石、翠の石、金の石、銀の石、黄の石、そして黒の石がある。それぞれの石には専門分野があり、鍛冶屋は炎の力をつかさどる紅の石、農家は植物や大地の力をつかさどる翠の石、というように使い分けている者もいる。ただ、黒の石だけは、闇の力をつかさどっているために、使うと闇の生き物を呼び寄せてしまうというリスクがあり、使っている人間はほとんどいない。 突然、大きな音とともに黙祷の間の扉が開いた。 「さあ、試験が始まるぞ」8分間の黙祷が終わり、アディの父が迎えに来たのだ。 しばらく歩いていくと、試験を行う村の中心の広場に着いた。この広場は、村のあらゆる行事にも使われる村人たちの憩いの場である。特にこれといったものはないが、タイル張りの広場の中心の地面に白の石が、その周りに円を描くように黒の石以外の《ちからいし》が埋め込まれ、村を守る役割を果たしている。 広場には、この村にこんなにも人がいたのかと思うほどたくさんの人々が集まっていた。といっても、シ・ミフラはそれほど大きな村ではないので、ほとんどがアディの顔見知りだ。 広場の真ん中には、この村の村長が立っていた。村長は、いつもは優しいおじいさんという感じなのだが、今日はいつになく厳しい表情を浮かべていて、アディはどきっとした。村長は、広場に今日アディが試験を受けるはずの異次元の空間をつくっているようだった。さすがに、あらゆる試練がある試験を行えるほどの広い場所はこの村にはないからだ。 アディは父から離れ、村長の前へと進み出た。村長はアディの顔を見ると無言でうなずき、 「それでは、只今よりアディ・ルナのロッド授与試験を始める」威厳のある声で高らかに宣言した。「これから六つの部屋を抜けて戻ってくる、それだけだ。部屋にはそれぞれ《ちからいし》が置いてあるから、その部屋に置かれている石だけを使って試練を突破しなさい。いいかい?」 「はい!」 アディは、村長の指示に従い、試験用のアースロッドを受け取ると、かがみこんで広場の中心の白の石に触れた。 すると、村中がまばゆい光に包まれた。 「健闘を祈る!」どこからか村長の声がするのが聞こえた。 気がつくと、アディは洞窟の中にいた。すぐ横には、アディの背丈の半分くらいのつるつるの石でできた台座があり、その上には紅の石が乗っていた。 「なるほど、これを使えってことか。」 アディは紅の石を手にとってみた。すこし考えてから、石をロッドの先端の木がねじれあっている空洞の部分にはめようとしたのだが、入れるための穴が見当たらない。試しに、石をロッドに押し付けてみたら、通り抜けるようにすんなりと入った。 すると、紅の石がロッドに反応するように紅く輝いた。 「さて。ここの試練は一体なんだ?」アディは早速歩き出す。 よく見ると、洞窟の側壁には蔦が張っていた。少し進んだ洞窟の奥は行き止まりになっていて、その壁が最もうっそうと蔦が茂っており、向こう側の石の壁が見えないほどだった。 「ん? 他に進めそうなところは見当たらないし……これじゃ次に行けないなぁ」 アディが悩んでいると、突然、ロッドの紅の石が強く輝きだした。 「……そうか! ここで《ちからいし》の登場ってわけだ」 アディはロッドの先を前の壁に突き出した。そして、燃えろ! と強く念じると、石から真っ赤な炎が吹き出て、絡まりあっていた蔦を焼き払った。すると、蔦の向こうに扉らしきものが現れた。 「よし! 案外簡単だぞ。」アディは嬉しくなって、意気揚々と扉を開けようとするが、押しても引いてもどうしても開かない。 だが、扉の中心には小さな穴が開いていた。それを見つけたアディは、 「ちょうど《ちからいし》ぐらいの大きさだな……。そうか! ここで石を返すんだ! 村長がその部屋の石だけを使えって言ってたのはこのことだな」 ロッドの先の紅の石に出て来い! と念じて、石を取り出すと、扉の穴に押し込んだ。と、扉が大きな音を立てて開いた。 扉の向こうには、狭い小部屋があり、部屋の中心にはさっきと同じ台座があり、今度は蒼の石が置かれていた。 「うん。順調順調!」 アディは、蒼の石を手に取り、ロッドに入れて次の試練への扉を開けた。 |
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