『アースロッド』序章
作:璃歌音



 都会から離れた小さな町。
 そこに、ディアナ・ルナという少女が住んでいる。ディアナは、家の中で遊ぶよりも外で遊ぶほうが好きなタイプの子供だった。この日も、近所の中の良い友達と自分の家の庭で「宝探しごっこ」をして遊んでいた。これは、1人がなにか(この遊びでいう「宝」)を庭のどこかに埋めて、他の人が探し出すという遊びである。
「見つかったか?」ディアナの友達の1人、クウザが言うと、
「見つかったらディアナの大声が聞こえるはずでしょ……」同じく友達のメラが答えた。
「ふふ……」メラの隣では、宝を隠した張本人、デオが笑みを隠せずにいた。
 ディアナ、クウザ、メラ、デオは近所でも有名な仲良し4人組だった。
「ああぁぁぁっっ!」
 と、3人からは少し離れたところからディアナの大声が響き、メラとクウザは期待を、デオは不安をそれぞれ顔に浮かべ、ディアナのもとへ走る。
「見つかったか?」さっきとは全く違う調子でクウザが聞いた。
 ディアナはその問いには答えず、がむしゃらに地面を掘り続けているので、3人は仕方なくディアナを手伝うことにした。数分後、土の中から小さな金属の箱が見えてきた。それは、飾り気の無い地味な箱だった。
「やった! 見つけた! どうだ、デオ! ざまみろ! はっはー」クウザが大喜びしながら早口に言った。
「いや、俺が隠したのはこの箱じゃない」デオがそう答えた瞬間、クウザは見事にすっ転んでいた。
「ディアナ、はやく開けてみてよ!」メラが言ったときには、ディアナはすでに箱と格闘していた。
 しばらくいろいろとやってみても、ディアナは箱を開けられず、クウザ、デオ、と試したが、どれだけ頑張っても開けられない。最後にメラが箱の蓋の真ん中に小さなくぼみがあることに気づいた。
「ねぇ、このくぼみは何かしら?」
「指の先がちょうど入りそうな感じだけど……」ディアナが感想を述べると、
「シモンニンショウってわけか!」クウザが変な発音で納得し、くぼみに自分の指を当ててみたが、箱には何の変化もなかった。
「結構古そうだから、そんなハイテクな代物じゃないと思うけど……」ディアナが考え込んでいる間にメラとデオも試してみたが、何も起きない。
「ディアナも試してみる?」メラが箱をディアナに渡した。
 ディアナが、期待半分あきらめ半分でくぼみに指を当ててみると、大きな音と強い光が辺りを包んだ。光が消えると、箱が開き、中に1冊の本が入っているのが見えた。古びたその本は、外側には何も書かれておらず、朱色の表紙が金で装飾されていた。
「すっげー、ディアナの指紋に反応した!」クウザが最初に声をあげた。
「早く読んでみろよ!」いつもは冷静なデオが珍しく興奮している。
 ディアナは箱から本を取り出し、表紙を開いた。
「《この本は、ルナ家の血を引くものにしか読むことができない》だって!」ディアナが最初のページに書かれた文を読み上げた。
「だから、ディアナにしか開けられなかったのね。……って、あたしたちも一緒に読んじゃっていいの?」メラが心配そうにディアナを見ると、
「いいんじゃない? だって私たち、友達でしょ」ディアナはあっけらかんと返す。
「いいから早く読めよ!」クウザが待ちきれずに急かす。
「わかったわかった。《この本は、英雄アディ・ルナの冒険を書き記したものである》……お父さんに聞いたことがある!私の先祖に『アディ・ルナ』っていう偉大なロッド使いがいたって!」
「……ロッド使い?」クウザが首をかしげる。
「昔は、《ちからいし》っていう宝石で自然の力を借りて魔法を使っていたのよ。その《ちからいし》の力をより強く引き出せるアース・ロッドっていう杖があって、その杖を使える選ばれた人たちがロッド使いって呼ばれてたの。」メラが説明すると、
「そんなことも知らないのか」デオがクウザをからかう。
 クウザを見ると、怒りたいのに言い返せず顔が真っ赤になっていた。
「ディ、ディアナ。続きを読んでちょうだい!」2人の様子を見て焦ったメラが、強引に話題を戻すが、
「でも、今日はもう遅いわ。明日にしましょう」ディアナは本を閉じた。
 「宝探し」に熱中するうちに、もう日が暮れ始めていた。
「そうね、じゃあまた明日!」メラが言い、クウザを引っ張って帰っていく。
「じゃあまたな」デオも帰っていく。
「うん、またね」ディアナはみんなに挨拶を返し、本をまた元の箱に戻し、家に戻っていった。

 ディアナたちは、次の日も、また次の日も、毎日集まってその本に熱中した。本には、ディアナの先祖、アディ・ルナが世界を救った物語が記されていた。


>>第1章「試練の始まり」