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『アリシア・エドワールは夢を見る』第六話 後編
作:緑野仁 「着いたわ。ここが東の国よ」 「ここが……すごい……」 「でかいわねー、私も初めて来たわ」 「ここまで頑張って来た甲斐があるでしょう?」 「頑張ったのは私たちですけどね……」 「お疲れ様ー」 「ホントですよ! 盗賊が一斉に襲いかかってきた時はどうしようかと思いましたからね!」 「ああ、あれは映画みたいだったわねー」 「呑気ねぇ、お姉様」 「大丈夫ですお嬢様方! たとえ軍が来ようと、宇宙人が来ようと! このケイト、命をかけてお守りしましょう!」 「それは頼もしいわね、色々と」 「おまかせください! 軍隊だって小指一本でちょちょいのちょいです!」 「……ホントに来たわよ、軍隊」 「へ?」 「遠路はるばるお疲れ様でした、皆さま」 「ちょっと、なんで知ってるのよ」 「リディア様から使いが送られましたので」 「あちゃー」 「バレてましたね……」 「我らが王女がお待ちでございます、アリシア殿。どうぞこちらへ」 「ホント!? 今すぐ会いにいくわ!」 「お嬢様、祭りはいいんですか?」 「う……うーっ……」 「心配ないわ、お姉様。お土産も用意しておくから」 「アンタは行く気満々なのね……」 「当然」 「わかったわよ、会いに行くわ。お土産よろしく」 「お供します、お嬢様」 「え、来るの?」 「え、行きますよ!?」 「あなたも祭りに行ってきなさいよ」 「そういうわけにはいきませんよ! 一応お供ですし!」 「お嬢様、こいつがダメならこのケイトをっ!」 「はいはいケイト、あなたは私の召し使いでしょうが」 「あぁ、お嬢様っ! せめてお怪我の無きよう!」 「……んー、まあいいわ。失礼のないようにね」 「え、いや、むしろこっちのセリフですけど……」 「失礼ね、行くわよ」 「まあ、アリシア!」 「お久しぶりです、お姉様!」 「久しぶりねー、去年の祭り以来かしらー」 「……去年も来てたんですか? 知りませんでした」 「まあね、祭りを楽しむためにね」 「今回は大食い大会には参加しないの? 去年は優勝だったのに」 「ちょ、お姉様……!」 「さすがですね、お嬢様」 「あらー、そういえばその人は?」 「遅れました、私メルラン・ランスエロットと申します」 「私の召し使い兼話し相手兼道具よ」 「道具は余分です、お嬢様」 「あらー、ランスエロットの娘なの? よく知ってるわよ」 「光栄です」 「私が子供のころアランさんが家に来てねぇ。いっぱい遊んだわ」 「え……そ、そうですか」 「鬼ごっこしてたら近くの密林に迷っちゃってね、こっぴどく叱られたわー」 「っ……あのクソ親父ぃ……」 「ああ、そういえば私もまだ名乗ってなかったわね。イクシオールク・エルアクスよー」 「あ、いえいえ良く知ってます。戴冠式も見ました」 「あらホント? 恥ずかしいわねー」 「いえ、そんなことは……最年少の太陽と呼ばれるだけのことはありました。とても落ち着いていましたし」 「そうかしら? いやあ、あの時は緊張しててずっとニコニコしてただけだったんだけれどねー」 「そ、そうですか」 「まあ、気軽にイクシィとでも呼んでちょうだいな」 「いえ、それは少し無理が……」 「気にしないでいいわよメリー、そういう人だから」 「はあ……」 「それはそうとアリス、何か話しましょうよ」 「そうですねお姉様!」 「アリス……ですか? 初めてそう呼ばれてるのを聞きましたけど」 「ああ、私が勝手にそう呼んでるの。いい名前だなぁと思って」 「私も気に入っています、お姉様」 「なるほど……お嬢様、私もそう呼んでも、」 「何か言ったかしら、召し使い?」 「いえ、何でもありません……」 「で、何の話をしてくれるの?」 「ああ、今日の夢のことなんですけど」 「またですか、お嬢様」 「いいじゃない、別に」 「あらー、私はアリスの話は好きよ?」 「え? ……ほ、ホントですか?」 「ええ、普通に」 「……世の中広いですね、お嬢様」 「どういう意味よ」 「で、どんな夢を見たの?」 「その夢の中で、私は一匹の子犬だったんです」 「あら、それはかわいらしいわね」 「確かに、お嬢様にしては珍しいです」 「そこには他に兄弟が何匹もいたんです」 「ほほえましいわねー」 「ですねぇ」 「で、しばらくしたら親から餌を貰ったので、」 「仲良く皆で食べたんですか?」 「いえ、奪い合いが始まりました」 「……はい?」 「あらあら、それはたくましいわねー」 「数時間の闘いが続いたあと……わたしはえさをほとんど占領していました」 「そ、そうですか……」 「でも、気づいたら私の周りに兄弟の姿はありませんでした……皆闘いの中で息絶えていたのです」 「な、なんか激しいですね」 「で、悲しかったの?」 「いえ、餌の取り分が増えてラッキーだと思いました」 「厳しい……」 「弱肉強食の世界ねー」 「その後、普通の餌に満足できなくて外に出たんです」 「ふむふむ」 「初めて見た外はとても広かったように感じました……まるで何十年も見てなかったかのように」 「ほう……」 「詩的ねぇ」 「ふと辺りを見回したら、ふらりとこの召し使いが見えましたので、」 「私ですか? なんでしょうか」 「食べてみたわ」 「何故に」 「何となくよ」 「美味しかった?」 「いや、イクシオールク様も何を訊いているんですか」 「あらー、その呼び方は呼びにくいでしょう? イクシィでいいわよ」 「いや、それはちょっと……」 「大丈夫よ、美味しかったから」 「そういう問題じゃないです」 「それで満足していたら、お姉様が見えたんです」 「え……」 「あら、ホント?」 「な、なんか嫌な予感が……」 「お姉様は私を優しく抱えてくれたんです」 「あれ、なんか格差!?」 「あらあら」 「その後私はお姉様の飼い犬となって毎日美味しいご馳走を食べれるようになりました」 「あ、あれ……どういう話でしたっけこれ……」 「良かったわねー」 「とまあこんな夢だったんです」 「面白かったわー、特にあなたが兄弟と遊んでいるらへんの話が」 「そこですか……他にも突っ込み所があった気も」 「何か言った、召し使い?」 「いえ、なんでもございません……」 「やっぱりあなたの夢は面白いわねー」 「ホントですか? ありがとうございます!」 「ええ、そうよ。私なんて最近ろくでもない夢しか見ないわ」 「というと?」 「ナスが襲いかかってくる夢とか」 「……はい? ナス?」 「それは怖いですねぇ、お姉様」 「ホントよー、しかもピーマンの兵隊とかニンジンの馬車とかが攻撃してくるのよー」 「……」 「ピーマンですか……怖いですね」 「私は必死にカボチャの爆弾で対抗するんだけど」 「そ、そうですか」 「流石ですお姉様」 「いやあ、あれは酷い夢だったわー」 「確かにそれは凄い夢ですねぇ……」 「まあ、色々とすごいですね、はい」 「最近そんな夢ばっかりでねー、話すのもなんだかつまらないし」 「いえ、次は是非ともお聞かせください、お姉様!」 「あらそう? それじゃあ次に会った時に話すわね」 「はい!」 「ふふ……じゃあね、アリス。またいつでもいらっしゃい」 「わかりました、お姉様!」 「いや、いつでもは困るんですけど……」 「何か言った、メリー?」 「何でもないです……」 「いつでも歓迎してあげるからね」 「わかりました。ではまた!」 「じゃあねー……あ、メリーさん? あなたにはちょっと話があるんだけど」 「はい? ……な、なんでしょうか?」 「あら、お帰りなさいお姉様。随分嬉しそうね」 「ただいま、エレノア。お土産ある?」 「ちゃんとお姉様の好きそうなのを選んでおいたわよ。それより、夕方のことだけど」 「ああ、そういえばこの後だったわね……」 「出るの? 私も一度やってみたいんだけど」 「もちろん出るわ。負けるわけにはいかないもの」 「そう。優勝候補は少ない方がいいと思ったんだけど」 「あら、私を誰だと思っているの?」 「アリシア・エドワール。私のお姉様。大食い」 「確かにそうだけどね、ちょっと違うわ」 「じゃあ、ホントはなんなの?」 「前回の大食い大会優勝者よ」 「あら、メリー。やけに疲れた顔してるけど」 「ああケイト……まあね。ていうか疲れた。くたくた」 「なに、お嬢様で何かあったの?」 「お嬢様というか……まあ……世界って広いよねぇ」 「へ? これまたどうしていきなり」 「お嬢様の夢の話を聞いて平然としていて、さらにぶっ飛んだ夢を見てる人がいたの」 「……」 「世界って……広いよねぇ」 「広いわねぇ……」 「ちょっと、あんた達。そこで話してないで早くきなさい」 「あ、わかりましたお嬢様」 「ったく……そういえばメリー」 「はい、なんでしょう」 「最後にお姉様に何か呼ばれてたけど、何を話してたの?」 「ああ、アレですか? ……仕事の話ですよ。聞きます?」 「ぬ……いや、いいわ」 「ふふ……はい、わかりました」 「なんでしょうか、イクシオールク様」 「だからー、イクシィでいいわよ?」 「やはり、ちょっと無理が……」 「まあいいわー……で、話なんだけど、」 「はい」 「ごめんね」 「え?」 「あの娘、なぜだか勝手に私のことをお姉様って呼ぶようになっちゃって。だから、何となく言いづらくて」 「はあ」 「だから、あなたから何か奪っちゃったような気がしてね」 「それは、えーと」 「彼女のホントの『お姉様』はあなただけなのに。ごめんなさい」 「えーと、どうやってお知りに?」 「私が小さかったころ、あなたのお父さんが来たのよ」 「ああ、あのクソ親父がですか……」 「あんまり怒らないであげてね。あの人は、あなたと同じぐらいの年でそれを知っている理解者が欲しかったんだと思うから」 「そう……ですか。では、帰ったらげんこつ一発で済ませておきます」 「そうねー、それぐらいはいいかも。許すわ」 「ありがとうございます」 「……メルラン・ランスエロット。というよりはメルラン・エドワールのほうがいいかしら?」 「いえ、私はランスエロットの者ですから。この名前を気に入ってますし、何より、私の親はあのクソ親父だけですから」 「そうね……メルラン・ランスエロット。アリスをよろしくね」 「はい」 「もしも私に妹がいたらあんな感じかな……って、ちょっとだけ思うのよ。だから何だかほっとけないの」 「はい」 「だから……勝手ながら、王女としてのお願いとさせて。アリスを必ず守りなさい」 「はい。メルラン・エドワールとして……何よりメルラン・ランスエロットとして、お嬢様をお守りします」 「……ありがとう。そろそろあの娘が待ちくたびれるころね。こんな長話しちゃって悪かったわね」 「いえいえ、滅相もないです」 「じゃあね、メリー」 「ありがとうございました、イクシィ様」 |
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