『アリシア・エドワールは夢を見る』第四話
作:緑野仁



「メリー! メルラン・ランスエロット!」
「何でしょうか、お嬢様!」
「……今日もまたやけに早いわね。どういうこと?」
「はい。前回は、寝る前に着替えたことがそもそもの問題でした」
「そうだったわね」
「というわけで、寝ないことにしたのです!」
「へ?」
「お嬢様に呼ばれた時の為に、寝ないことにしました! これなら着替えなくても寝間着じゃありません!」
「まあ確かにそうね」
「というわけで、お嬢様に呼ばれるまでの一週間ほど寝てないのです! というわけで今、非常に眠いです!」
「ああ、なるほど。道理でテンションがやけに高いのね」
「はい! 眠いです!」
「そんなに大声出さなくてもいいわよ、うるさいわね。……どうせなら私のベッドで寝る?」
「ありがとうございます!」

「遊びに来たわよ、お姉さまー。あれ、あの召し使いは?」
「あら、エレノア。あの道具なら、今寝てるわよ」
「酷い言い様ね……しかし、お姉さまのベッドで寝るとは大胆な」
「今なら遊び放題よ」
「……なるほど、そういう狙いなのね。でも、そういう訳にはいかないわ」
「へ? 何で?」
「前に一人で来たのがバレてね、見張りが付いちゃったの」
「あらま」
「だから、今日はちょっとムリ」
「残念ねー、せっかく今日は一日中モン○ンでもやろうと思ったのに」
「世界観ぶち壊しね」
「で、その見張りは何処に?」
「え? ……あら、もう入ったのかしら?」

「……はっ!? 私は一体何をっ!?」
「……気持ちよさそうな寝顔をしてたわね、メリー」
「へ? あぁそうだ、寝てたんだっけ」
「主人をほっといておいた上、さらにその主人のベッドで寝るなんて召し使いとして風上にもおけないわ」
「ちょ、ちょっとちょっと誰よあなた? 勝手に入ってきちゃダメじゃない」
「あら、この顔を見てもそう言えるかしら?」
「へ……? あ、あなたは……!」
「ふんっ」
「……」
「……ちょっと、そろそろ何か言いなさいよ」
「……えーと……」
「ちょ、ちょっと、忘れたんじゃないでしょうね!?」
「あ、いや、覚えてるんだけど……あ、この前宴会の時横に座ってたマリアさん?」
「違うわよっ! ケイト・ブロッサムよ!」
「……えーと、この前のパーティーの時の」
「違うっ! 子供のころに武術を一緒に習ってたっ!」
「ああ、シンシアちゃん? 懐かしー」
「だから、ケイトって言ってるでしょうがっ!」
「ちょっと、何を興奮してるの?」
「エレノア様!」
「あらメリー、おはよう。何かあったの?」
「ああ、アリシア様。何か見知らぬ人に絡まれたもので」
「だからー、子供のころにー!」
「まあ落ち着きなさい、ケイト」
「ふーっ……アリシアお嬢様」
「ん? 何か用?」
「何故こんなやくたたずを置いているのです?」
「ああ、メリーのこと? 確かにやくたたずだけども」
「うぐっ……」
「でも、この子は何でもしてくれる。それに、不思議な夢のことだってちゃんと聞いてくれるのよ」
「そうですよっ」
「……何ですか、それは? そんな理由でこいつを?」
「あら、ちゃんと聞いてくれる子は珍しいのよ。とても助かるわ」
「……それくらいのことなら、私にも出来ます! どうぞお話を!」
「あら、ホント? じゃあ是非とも聞いてちょうだい」
「ええ、おねがいします!」
「あら……ちょっと、メリー? あなたの主人が取られかけてるけど」
「ですねぇ……大丈夫ですかね?」
「何が? お姉さまが?」
「いえ、あのこが」

「まず、私はとある城で目覚めたの」
「ふむふむ」
「私はそこの女王だったのよ」
「なるほど、夢の中では女王だったんですね」
「そうよ。そして、そのお城は飛ぶの」
「……はい?」
「底には巨大な弾を打ち出す大砲が付いててね、それで世界中を……」
「お、お嬢様!? 何の話でしょうか!?」
「ちょっと、まだ話は終わってないわ」
「は、はい、すみません……ここは我慢よ、ケイト……」
「で、その城に侵入者が入り込んできたの」
「はい」
「そこで、私は竜に変身してその侵入者を食べたの」
「え?」
「おいしかったわ」
「……」
「するとそこに勇者が舞い降りてきて、父親の敵とか何とか言ってきていきなり斬りかかってきたの」
「は、はあ……」
「おいしかったわ」
「……」
「そのあとは魔王が……って、ちょっと、どこ行くのよ」

「……メリー、」
「ん?」
「負けたわ……私には……理解できない……」
「ああ、お疲れ様です。あれだけ耐えただけでも立派ですよ」
「あなたは……すばらしいわ。私では敵わない」
「何かよくわかりませんがありがとうございます」
「……でも、次こそは貴女を超える立派な召し使いになってアリシア様に仕えてみせるわ! 覚えていなさいっ!」
「……わかりました、待っています」
「ふふ……じゃあね、メリー。また会いましょう」
「さようなら、カレンさん」
「ケイトって言ってるでしょうがっ!」

「こんにちわ、お姉さま」
「あら、エレノア」
「おはようございます、エレノア様。……あれ、エミリーさんは?」
「んーと、ケイトのこと? あのこなら、麗しのお嬢様の部屋に入れたとか何とか言って興奮しながら熱出して倒れたわよ」
「何とまあ……」
「んーと、お姉さまには言いにくいけど、あのこ、お嬢様の熱烈な信者なのよ」
「すごい娘もいるものですねぇ」
「そうよねー。なんか、歴代の王家で何とかかんとか」
「……ていうか、そういえばお嬢様王家でしたね。忘れかけてました」
「……ちょっとメリー、大分失礼よそれ」
「いつも下着同然で過ごしてるじゃありませんか。王家のやることじゃないですよ」
「あのねー、王家には服装の自由が許されてるのよ。自分の部屋でどんな格好してても自由でしょうが」
「それにしてももう少しどうにか」
「わかったわよ……ちょっとお茶いれてくるわ」
「え? あ、あのー、私がやりますよっ」
「いいのよ、今日は私がやりたいの」
「……わかりました」

「相当怒ってるわねー、お姉さま」
「……ちょっと言い過ぎました。反省します」
「そうねぇ……まあ大丈夫よ、そんなに引きずらない人だし。それより、」
「はい?」
「もしあの娘が、お姉さまがいつも下着同然で過ごしてるって聞いたらどうするかしら?」
「……多分、あまりのショックにふらつきながら倒れるか、あまりの興奮に鼻血出しながら倒れるかですよ」
「そうねー」
「メリー、紅茶出来たから運ぶのを手伝いなさい」
「あ、はーい」



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