『アリシア・エドワールは夢を見る』第三話
作:緑野仁



「メリー! メルラン・ランスエロット!」
「お呼びでしょうか、お嬢様」
「あら? ……今日はやけに早いわね。どういう風の吹き回し?」
「大したことではございません。着替えずに来ただけのことです」
「……ちょっと、それって一体どうなの」
「つまりですね、昨日はこれを着て寝たのです。そうすれば朝着替えなくてもすんで時間を省けます」
「なるほど。……でも、それって寝間着で来たのと同じじゃない?」
「はい?」
「だって、昨日はそれに着替えて寝たんでしょ? それだったら、普段の寝間着と扱いが同じな気がするんだけど」
「えーと、つまり」
「あなたは寝間着のままここに来たってことね」
「……更衣室をお借りしますね」

「それでお嬢様、今日はどんな夢を?」
「あら、まだ言ってないのにどうしてわかるの?」
「最近そればっかりなせいで結構な目に遭いましたから。メイド長の方に、誰かさんを起こさなかったせいで怒られて給料を下げられそうになったり、誰かさんにケーキを大量に買わさせられたりとか、本当に疲れました」
「それは災難だったわね。いったい誰なのかしらね、そんな酷いことをさせるヤツは?」
「……」
「メリー、その不服そうな目はどうしたの?」
「いえ、なんでもございません。それで、夢の話の方は?」
「ああ、そうだったわね。そう、今日はいつもより変な夢をみたのよ」

「ふむ。……ちなみに今回は、お嬢様はどのようになっていらしたんですか? 旅人とか?」
「いや、今回はそのままだったの。そのうえ、辺りをどれだけ見渡してもそこには何もなかったの」
「はあ……いつもとは何だか違いますね」
「そしたら、私の前にお母様がいたの」
「へ? ……あの、お嬢様が産まれた直後にすぐ病気でお亡くなりになられた前女王様のことですか?」
「なんだかやけに説明っぽいわね……まあ、そのお母様よ」
「それはまた、謎ですね」
「私たちの周りには本当に何もなかったの。真っ暗だった。でも、何故かお母様だけは見えたのよ」
「それは不思議ですね」
「そして、お母様は私に話しかけてきたの。……そういえば私はお母様の声を覚えてないはずなんだけど、どうしてお母様の声だとわかったのかしら?」
「もしかしたら、脳ではないどこかで覚えていたんじゃないですか? 魂とか」
「……あなたは時々不思議なことを言うわね。まあ、そこでお母様は私に言ったの」
「はい」
「『エレノアによろしく、あと食べ過ぎには注意してね』って」
「……えーと、エレノア様というと、お嬢様の異母妹でおらっしゃる?」
「また何だか微妙に説明みたいになってるけど、そのエレノアよ。でも、よく考えると変ね。あの娘が産まれる前にお母様は死んだはずだし」
「そうですねぇ……ああ、もしかしたら、お母様はずっと空からお嬢様を見てくださっていたのかもしれませんよ」
「あら、お母様が?」
「ええ、きっとそうですよ」
「ふむ、それは困ったわね」
「へ? 何でですか?」
「だって、ずっと見てるってことは夜につまみ食いしてることがバレてるってことでしょ? もしもメイド長のリディアに告げ口されたら困るわ」
「……お嬢様、今なんと?」
「あ、……」
「失敗しちゃった、みたいな顔しても誤魔化されませんからね! 最近やけに食料の減りが早いと思ってたら、まさか!」
「……あ、ほら、誰かがノックしてるわよ! 早く行ってきなさい!」
「ったく、そんなんじゃ誤魔化されませんからね……はい、どなた様ですかー?」
「……ふぅ、なんとか切り抜けたわね。さて、これからどうしようかしら……」
「……あ、あ、アリシア様ー!」
「ちょっと、何叫んでるのメリー? 今考え中なんだから」
「え、え、エレノア様がいらっしゃいましたー!」
「……はい?」

「……久しぶりね、お姉様」
「確かに久しぶりね、エレノア。もうずっと会ってなかったし。それで? 今日はどうして来たの?」
「わからないわ」
「……はい?」
「ただ、お姉様のお母様である前女王陛下に、夢の中で言われたのよ」
「む……何て?」
「『早くあなたのお姉さんと仲直りをしなさい』と。そんな些細なことで争うのは良くない、とも」
「……もしかして、あの事?」
「あの事以外にはないでしょうね」
「でも、私はあの事についてあなたを許せない。相容れる気もない」
「あら、奇遇ねお姉様。私もよ」
「珍しく気が合ったわね」
「……あ、あのー、お嬢様方は一体何がきっかけでそんな風に?」
「あら? お姉様、そういえばこんな召し使い元からいましたっけ??」
「ああ、そいつは最近の私の召し使い及び話し相手及び道具よ」
「道具はやめてください、道具は」
「それで、何の話だったかしら?」
「ああ、そうでした。えーと、何がきっかけでこのようなことに?」
「……そうね、どうせならあなたにも聞いてもらいましょう」
「……お姉様、あれは私たちの問題でしょう? この娘に言う必要はないわ」
「いいえ、私はメリーにも聞いてもらいたいのよ。大事な話だからこそ」
「お嬢様……」
「でもお姉様、あれは元はと言えばお姉様のせいじゃない!」
「何を言ってるのよ、エレノア! あなたが私のイチゴを食べたのが原因じゃないの!」
「……え? ……あ、あのー、」
「あんな所に残してあったら、食べないのかと思うじゃない!」
「私はね、最後にゆっくり食べるのが好きなのよ!」
「あのー、お嬢様方……?」
「何よ?」
「もしかして仲違いの理由って……」
「そうよ、エレノアが私のイチゴを食べたの。許せないでしょ?」
「えーと、血が繋がってないからとかそういうのじゃなくて?」
「何でそんなことでケンカしなくちゃいけないのよ」
「いや、そのー……」
「とにかくねぇエレノア、私はあなたが許せないのよ!」
「お姉様だって私のプリンを勝手に食べたりしてたじゃない!」
「それとこれとは別よ!」
「……いやー、見事にそっくりですねぇ……」
「どこがよ!」
「まあまあお二方、とりあえずケーキでも食べませんか? お茶も出しますので」
「……」「……」
「いただくわ」「いただきます」

「ちょっとお姉様、それは私のイチゴよ!」
「うるさいわね、これはあの時のお返しよ! これでチャラになったと思いなさい!」
「そもそもお姉様が悪いんじゃないの!」
「うるさいわね、この大食いわがまま娘!」
「何よこの食いしん坊引きこもり王女!」
「……いやあ、見事にそっくりですねぇ……」


「今日はお忙しい日でしたねぇ、お嬢様」
「まったく、エレノアのせいで……」
「いいじゃないですか、仲直りも出来たことですし」
「あのねー、私はまだ許してないのよあんな大食い娘」
「いえ、お嬢様も人のこと言えませんから」
「そういえば」
「はい?」
「お母様がもう一つ何か言ってたのを思い出したわ」
「ほう、何と?」
「『あなたのお姉さんにもよろしくね』って」
「っ……」
「でも変よね、今度こそ私には姉なんていないわけだし。これから産まれたりするのかしら?」
「いや、それは色々ありえませんから」
「そうよね? ……でも、もしかして、あのお父様に隠し子とかいたりして」
「……まさか、そんなはずないですよ」
「そうよね、あのお父様に限って。……メリー、どうしたの? なんかすごい顔してるわよ」
「ああ、何でもございませんお嬢様。気になさらないでください」
「そう? なら別にいいけど」
「ありがとうございます。……大丈夫ですよ、お嬢様に姉などはおりません」

「……お嬢様に、姉なんて、いませんよ」



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