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『十神十色 水火編Ⅱ ―火の神―』
作:璃歌音

□2

 別の日。
 草木の神から練習用の枯れ枝を貰おうと、オレは森に入っていった。枯れた枝は水分も飛んで燃やしやすい。クサキも枯れた枝ならと分けてくれる。
「クサキ。枯れ枝分けてくれ」
 クサキは大きな樹の根っこに座っていた。
「ああ、ヒか。おはよう」
 そう言うと、クサキはどこからか枯れ枝の束を引っ張り出した。オレが来ることを予想して準備しておいてくれたんだろうか。「ほら。頑張れよ」と、束を渡してくれるクサキに、オレは無言で頷いて受け取る。
「ところで、最近またミズとうまくいってないだろ。……何がそんなに気に入らないんだい?」
 急に妹の話を持ち出すクサキに、憎まれ口の一つでも叩いてやろうかと思ったが、クサキの優しい声音と瞳にそんな気も失せ、素直に答えた。
「なんかさぁ、ミズのほうがいっぱい練習してて、どんどんオレを追い抜いていく気がしてさ……」
「そうかぁ……でもね、」
 クサキはまだ何か言いたそうだったが、その言葉は途中で遮られた。
「おはよう、クサキ」
 座っているクサキの向こうから、誰かが声を掛ける。
「ああ、ミズか。おはよう」
 クサキが振り向いて初めて、その向こうに立っていたミズが見えた。お互いに目が合って、ミズはうっとうしそうな顔をする。きっとオレも同じような顔をしているんだろう。
「なんだよ、ミズ。何しに来たんだよ!」
 また言葉が荒くなってしまう。違うんだ。オレは本当は妹に優しくしてやりたいんだ。
「アタシはクサキに用があって来たの。そっちこそ何の用なの?」
「……関係ねぇだろっ」
 ミズが噛み付いてくるから、オレもやり返してしまう。……違う、意地を張っているだけだ。きっと、お互いに。
 と、ミズがオレの持っている枝の束に目をやった。そうして、にやっと笑ってこっちに近付いてきたかと思うと、枝を鷲掴みにするように右手を当てた。
「な、なにすんだよ」嫌な予感がする。
 ミズは答えず、手に力を込めると、見る見るうちに枝を濡らしていった。なんなんだよ、これじゃめちゃくちゃ燃えにくくなっちゃったじゃないか。
「ああー! せっかく乾燥してるやつ貰ったのに! なんてことすんだよ!」
 そう言って走り出す。また逃げてるみたいだ。情けない。
「練習は森の外でやってくれよー」という、クサキののんびりとした声が後を追ってきた。
 そんなことはわかってる。オレの不安定な力を森で使ったりしたら、たちまち大火事を引き起こしてしまう。
 そのまま、森から走り出た。枝の束は川に投げ捨ててやろうかとも思ったが、一応それで火をつける訓練をしてみることにした。しかし、水分をたっぷり吸った枝にはどうやっても火をつけることができなかった。


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