『十神十色 水火編U ―火の神―』
作:璃歌音

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 昨日は、少しだけど雨が降った。
 だから、どこかに水たまりができてるはずだ。
 そう思って、今朝早く家を出た。だけど、やっと見つけた水たまりの前には双子の妹、ミズがしゃがみこんでいた。
「んんんんー……!」
 水たまりに両手をかざして、眉間にしわを寄せて。一生懸命念じているミズ。と、水たまりから数滴の水が浮き上がった。
「やった!」
 悔しい。オレはまだ火を自由に操ることはできない。ちょっと気を抜くとすぐに大きく燃え上がりそうになってしまう。地道に努力する妹の姿が、自分を責めているように思えて――
「そんなんじゃまだまだだな! ミズ!」
 気がつくと声を掛けていた。ああ、またやってしまう。そっとしておこうと思っていたはずなのに。
「なによ、ヒお兄ちゃん」
 見るからにオレを嫌っているような目でこっちを見る。そんな視線に腹が立って、つい、余計な事をしてしまった。
「とりゃっ!」
 自分の手から出した熱で、ミズの前の水たまりを蒸発させる。自分でやっておいてなんだが、全然すっとしないどころかすごく気分が悪くなった。
「……ずるい。お兄ちゃんばっかりアタシの水を蒸発させられて」
 じとっとオレを見てミズはそう言うが、努力家のミズならすぐにオレの火をいとも簡単に消してしまうようになるのだろう。そう思うと情けなくなって、「ふん」と言ってその場から立ち去った。まるで負け犬のように逃げる自分に、さらに情けない気持ちが募った。


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