『十神十色 水火編U ―火の神―』
作:璃歌音

□3

 その日は母さんと一緒に山に行った。
 その山は下の陸地と一番強く繋がっている山で、陸の神である母さんは下の世界の陸の調子を整えるためにオレを連れて山に出向いたのだ。
「あー、ったく……やっぱり陸の気が乱れてるよ」
 火口に右手をかざしながら、母さんは言った。そのままもう片方の手もかざし、両腕にぐっと力を込める。すると、それに応えるように火口のマグマがぼこぼこっと波うった。
「よし、こんなもんだろっ」
 母さんが仕事を終えたのを見て、ふと気になったことを口にする。
「なあ、どうして陸の気が乱れるんだ?」
「あ? そんなの、人間のせいに決まってんだろ。あのろくでもねぇ奴らがまたなんかしでかしたんだろうよ」
 即答する母にたじろぐ。人間ってのは本当にそこまで悪いやつらなんだろうか。
「それより、ヒ。あんたまたミズとけんかしたんだって?」
 一仕事終えたから、次、という感じで母さんがミズとの話を持ち出した。クサキが何か言ったんだろうか。たとえそうだとしても文句を言う筋合いは無い、んだろう。
「けんかってわけじゃないけど、さ」
「ミズがあんたになんかしたの?」
 心配そうにオレの顔を覗き込む母さん。母さんはいつもオレのことばかり気にしているように思う。それはそれで嬉しいのだけれど。
「これと言って何かしたってわけでも……。むしろオレがちょっかいかけるほうが多いような気がする」
「なんで」
「だって……ミズはいつも一生懸命で、すぐにオレより強い力を持つんだろうなって思うと、なんか悔しくて……」
 言いながら、自分の気持ちを初めて理解できてくる。言葉にすると、頭の中でよりすっきりと考えられるみたいだ。
「くっ……くははははははは!」
 突然、母さんが大きな声で笑い出した。真面目に話してるのに笑われると、さすがにむっとする。
「何がおかしいんだよ」
「たぶんね、ミズもおんなじこと考えてると思うよ」
「……え?」
「あんたから見たら、自分にできないことがミズにはあんなにできる、なんて思うのかもしれないけど、ミズから見ても一緒だよ。ミズにできないことがあんたには色々できる」
「例えば?」
「そのくらい自分で考えなさい」
 ぴしゃりと跳ねつけられ、しゅんとすると、母さんはふっと笑ってしゃがみこんだ。
「見てごらん」と、まだぼこぼこと言い続けている火口を指差す。
「むしゃくしゃする、とか、悔しいずるい、とかいう嫌な気持ちはね、こうやって……ぽい!」
 何かを力任せに丸めるように手を動かした母さんは、火口に向かって投げる仕草をした。マグマがぼこっ! と鳴る。オレも半信半疑で真似してみると、これが案外気持ちがいい。本当に悪い感情を火山が燃やしてくれたような感じがする。
「よし!」と言って、母さんは立ち上がった。
 オレに向かって手を差し出す。
「帰ろっか」
「うん」と素直にその手を掴んだ。

 明日……いや、今日帰ったら、ミズに「水たまりなくしちゃってごめん」って言おう。





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