『十神十色 水火編T ―水の神―』
作:璃歌音

○2

 別の日。
 草木の神とお喋りしようと思ったアタシは、森に入っていった。クサキが暮らしている辺りに来ると、話し声が聞こえてきた。声のする方へ行くと、クサキが大きな樹の根っこが地面から張り出してるところに座っていた。
「おはよう、クサキ」
 声を掛けると、クサキが振り向く。
「ああ、ミズか。おはよう」
 クサキが振り向いて初めて、その向こうに立っていたヒが見えた。お互いに目が合って、ヒはうっとうしそうな顔をする。きっとアタシも同じような顔をしているんだろう。
「なんだよ、ミズ。何しに来たんだよ!」
「アタシはクサキに用があって来たの。そっちこそ何の用なの?」
「……関係ねぇだろっ」
 今になって気付いたが、ヒは枯れ枝の束を抱えていた。きっと火の練習をするためにクサキに貰いに来たんだろう。そこで、ふと思いついてアタシは、ヒに近付いていってその枝の束に手を当てた。この間のお返しだ。
「な、なにすんだよ」
 ヒには答えずに、手に力を込める。すると、手からじわっと水が染み出る感覚があって、枝の束がじっとりと湿った。
「ああー! せっかく乾燥してるやつ貰ったのに! なんてことすんだよ!」
 そう言ってヒは走っていった。……ちょっとやり過ぎちゃったかなぁ。
「練習は森の外でやってくれよー」走り去るヒの後姿をクサキののんびりとした声が追った。
 クサキがアタシを見る。クサキの目は優しいけど、逆にその目に見つめられると心の内を見透かされているようでどきどきする。今はヒに対する罪悪感も残っていてさらに居心地が悪い。
「兄妹げんかもほどほどにしたほうがいいと思うよ」
「……うん」
 クサキの温かい口調に、素直にうなずく。
「何がそんなに気に入らないんだい?」
「お兄ちゃんがいっつもいじわるしてくるっていうのもあるけど……やっぱりお兄ちゃんのほうが力が強いのが……うらやましくて」
 ずるくて、と言いそうになるところを、クサキの前では本音を言おうと言葉を変えた。
「そうかぁ…………」
 まだ何か言われるかと思ったが、クサキはそれきり何も言わなかった。


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