『十神十色 水火編T ―水の神―』
作:璃歌音

○1

 昨日は、少しだけど雨が降った。
 だから、どこかに水たまりができてるはずだ。
 そう思って、今朝早く家を出た。すぐに水たまりを見つけて、その前にしゃがみこむ。
「んんんんー……!」
 水たまりに両手をかざして、眉間にしわを寄せて。一生懸命念じる。と、水たまりから数滴の水が浮き上がった。
「やった!」
 喜んで力が抜けて、水はぴちゃんと落ちてしまった。こんなんじゃまだまだ。気を取り直して再度挑戦しようとすると――
「そんなんじゃまだまだだな! ミズ!」
 意地悪そうな顔をして、こっちを見ているのは、アタシの双子のお兄ちゃん、ヒ。またちょっかいをかけにきたんだろうか。
「なによ、ヒお兄ちゃん」
 アタシの言葉には答えずに、ヒはすたすたとこっちに歩いてくる。何をするのかと思ったら、アタシが力の練習をしていた水たまりに片手をかざして、
「とりゃっ!」
 途端に、ヒの手から出た熱で水たまりは蒸発した。むすっとしてヒを見ると、自慢げに笑ってる。
「……ずるい。お兄ちゃんばっかりアタシの水を蒸発させられて」
 心の底からそう思って言ったのだが、ヒは「ふん」と言ってどこかへ行ってしまった。いつもそうだ。いつもヒはアタシのわかんない何かで機嫌を損ねて先に逃げるんだ。
 アタシも「ふん」と言って立ち上がる。それから、別の水たまりを探して歩き出したが、結局、その日はもう水たまりは見つからなかった。


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