『十神十色 生死編U ―生の神―』
作:璃歌音


*4

 呆然と立ち尽くす。
 なにかしなければならないのだろうが、頭が真っ白だ。動かない。
 不安そうに娘がワタシの足にしがみつくが、その顔を見ることすら出来ない。
 少年から目が離せない。既に命の灯が消えてしまった少年から目が離せない。
 すると。
 少年が、光りだす。
 ――光りだす?
 確かに、光っている。
 眩しい。
 あまりに眩しくて、何も見えなくなる。足元で娘が、ママー、と言う声がする。
 光が消えると、そこには既に死んでいたはずの少年と、「彼」が立っていた。
「やっぱりそうだったんだね……『生の神』」
 「彼」が言う。
 少年は、驚いたようにあたりを見回している。そして、ワタシと娘を見て、あっ、と小さな声をあげる。
「あなたが……『生の神』…………」
 少年には悪いが、今は少年に構っている場合ではない。
「何しに来たの? ……『死の神』」
「……アナタを、連れ戻しに来た」
 「死の神」が言う。
「イヤよ」
「イヤよイヤよも好きのう」
 まさかのタイミングで、しかも真剣な表情で冗談を言おうとする「死の神」の頭を、少年が思いきりはたく。なかなか呼吸を心得ている。あちらでしばらく「死の神」と関わってきたらしい。わけがわからない状況のはずなのに、何も言わずにじっと様子を見守っている。
「アナタのせいで、みんなが困っている」
「……知らないわ」
「天国に行けずに困っている人たちがいる」
「地獄に送ってしまえばいいじゃないの」
「……」
 もちろん、それができないのはワタシにもよくわかっている。
「新しい命が生まれずに困っている人たちがいる」
「…………知らないわよっ! どうしてワタシがそんなことしなくちゃならないのよ!」
「アナタが……『生の神』だからだ」
「もうイヤになったのよ。……好きに遊んだっていいじゃないの……」
「アナタは……人間ではない。人間のように生きたり、人間と馴れ合うことは許されない」
「そっちこそ、人間と馴れ合ってるじゃないの!」
「彼は死者だ」
「なら、ワタシだって、ワタシが生んだ者と…………何が……悪いのよ……」
 わかっていた。
 自分が間違っていることも。
 自分が間違っていたことも。
 ワタシがわかっていることを「彼」がわかっていることも。

 わかっていた。

 そこへ、永次がやって来た。ゆっくりと。とても悲しそうに。
「永次……どうして?」
「なんか、嫌な予感がして……。でも、もう遅かったみたいだね」
 永次も、わかっている。
「永次……。ワタシ、行かなくちゃいけない」
「ああ」
「この子たちも……連れて行かなくちゃいけない」
「わかってる。……その子たちも、いつか神になれるんだろ?」
「……ええ、きっと。そういう決まりだから」
「……わかってる」
「ごめんね」
「謝るなよ。ボクだって悪い。むしろボクが全面的に悪い」
「そんなこと……!」
「わかってる。お互い、同じ様に思ってる」
「……」
「後は、ボクがなんとかしておくから」
「うん……ごめん」
「謝るなって…………言ってるだろ」
 彼の言葉の最後には、少し涙が混じっていた。それを聞いて、ワタシも涙が溢れそうになる。でも、ダメだ。ここで泣いたら、永次はもっと辛くなる。
「…………ありがとう」
「うん、それがいい」

 ワタシは、二人の子供と共に、元の場所へ帰った。
 ワタシの居るべきところに――。



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