『十神十色 生死編U ―生の神―』
作:璃歌音


*2

 その後しばらく、ワタシと永次の共同生活は続いた。と言っても、ワタシは人間らしい生命活動は一切しないので、永次が普通に暮らしている周りを、ワタシが無意味にうろついているようなものだが。一度、永次が一緒に食事をしないかと誘ってきたが、食費の無駄だと断ったら、それ以来一切そういう話はしなくなった。
 永次は、一応の姿は若くて美しい女であるワタシに、驚くほど手を出そうとしない。気になって仕方がなくなったワタシは、ある日ソファで本を読んでいた永次の隣に座り、尋ねてみた。
「永次って……ゲイ?」
「は!? なんで?」
 いつの間にか、永次のワタシに対する敬語は取れていた。
「いや……一応さ、見た目だけだけど、ワタシは若くて……結構美人だと思うのにさ、まったく手を出す気配もないから」
 永次が本を置いてワタシのほうに向き直る。
「あのね『生の神』さん。人間の男だってね、どんなに魅力のある相手でも、ちょっとやそっとじゃ手を出さない理性くらい持ってるよ? まぁ……例外もいるけど。ボクを牢屋に入れられちゃうような男たちと一緒にしないでほしいなぁ……」
「じゃあワタシに魅力感じてるんだ?」
「……なんでそういう単刀直入な聞き方するかな。やっぱりほら……人と神様だし、ねぇ?」
「ワタシはいいよ」
「うぅぅ……」
 永次は困った顔をしてソファからずり落ちる。
「『遊びの神』さんの感情が残ってるせいもあるのかもしれないけど……ボクはアナタに女性としてすごく魅力を感じている」
「そういうことは面と向かって言いなよ」
「……」
 小さなため息をついて永次がワタシを見る。見下ろす形が嫌だったのでワタシもソファからずり落ちる。
「『生の神』さん。ボクはアナタが好きだ」
「……それだけ?」
「は?」
「もっといろいろないの? ボクはアナタがいないと生きていけない、とか、アナタはボクの太陽だ、とか」
「ドラマの見すぎだよ」
 確かに、永次が仕事に行っている間は、暇をもてあましてテレビドラマばかり観ていた。昼のドラマよりも、夕方の再放送のほうが好きだ。
「現実でそういうことをたくさん言うような男は、あんまり信用できないと思うけどね。ボクが思うに。大事なことをまっすぐに言うほうが素敵じゃない?」
「なるほど……。それも一理ある」
「一理かよ」
 永次が座ったままコケてみせる。「遊びの神」も同じことをしていた。

 ワタシは、「遊びの神」が好きなのか。
 それとも、永次が好きなのか。
 とりあえず、保留にしておく。

 保留にしておいたら、気がつくと子供ができていた。
 ワタシにも人間の生殖機能があったとは。人間の姿をしているからだろうか。
 そうじゃなくて。

 産みたい。

 いまだにどちらのことを愛しているのかわからないが、この子は無性に産みたい。
 今まで、多くの命を生んできたが、そのどれよりもこの一つの命をどうしても産みたい。

 その気持ちを一生懸命、永次に伝えると、彼は、真剣な表情でゆっくりとうなずいた。


 ワタシは、人間の世界の仕組みはよくわからない。
 が、永次がなにか上手くやってくれたらしく、ワタシは永次の妻で、この子は永次とワタシの子になっていた。表も裏も、様々な手を駆使して、とてつもない苦労をした結果であるはずなのに、永次はそれについてはワタシになにも言わなかった。



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