『Oblivion Tale 〜第一話 拾い物〜』*1
作:kousaka−saguru


「ルーカっ!! 早く起きろ〜! 朝だ〜、会社だぁ!!!」

くそっ、オレはもっと寝ていたいんだよ!!
起こさないでくれ……そんなオーラを発してみたつもり。しかし、オレを気持ちのよい睡眠から追い出そうとする悪魔はすでにベッドの隣に来ている。

「ルーカ、今日は私がスカウトしてくる一年半ぶりの戦闘課職員を出迎えてもらうためにも早く仕事を終わってもらわなきゃいけないんだぞ!」

長々としたセリフをよくも噛まずに言い切る。悪魔ながらにも素晴らしい技能だ。そんなとりとめもない事を考えながら面倒ながらに返答した。

「いいじゃないか、もう少し寝ていたって」

仕事があることくらいはわかっている。ただ、まだまだ余裕過ぎる。

「どうでもいい!! 起きろ〜!!」

朝から耳元でぎゃあぎゃあと……まるで駄々っ子みたいだ、あぁ……昔が懐かしい。

「せーのっ!!」

悪魔の掛け声にオレは長年の勘でとっさにベッドから転げ落ちる。
オレの落ちた音と悪魔の振り下ろしたフライパンの風圧。フライパンはオレのいた場所を確実に捕らえて止まっていた。

「危ねぇ!! いつもは力なんてないと騙していたのか……」

背中に響く痛みに腰を擦りながら起き上がると、目の前には背が低く、ただ、どことなく闇を抱えているように見える……自慢の娘がいる。

「あっ、お父さん、おはよぅ、今日もいい朝だね〜!」

そう言って快活そうな笑みを浮かべているのは一年前には想像もすることはできなかったものだ。ここまで笑えるようになっただけでも格段の進歩だろう。

「ああ、おはよう……神様、私は娘に殺されるようなことをしましたか?」

そんなおどけた事を言ってみると娘は辛辣に言葉を返してくるのだ。

「お父さん、ついにぼけた?」

「そんな訳ないな、お前が過激な起こし方をするからだ……」

「あっ、早く食べないと遅れちゃうよ」

うん、一年前が懐かしい。娘の厳しい態度にオレはそんなことを考えていた。
しかし、このまま娘の去った扉を見つめていても意味は無いので、オレはいつもどおりにベッドの下に置いてある杖を持ってベッドを支えに立ち上がる。
なんだか朝から疲れる……やはり年だろうか?





階下に降りると既に食事の準備は終わっていた。自分の席につくと、娘は笑顔を浮かべながら食べ始めた。

「いただきま〜す」

「いす」

「お父さん、略しすぎだって!」

「気にするな娘よ、要するに気持ちの問題だ!!」

「そういう問題じゃなくない?」

「気にするなと言っただろう」

「へ〜へ〜」

そんなやり取りをしながらも朝食を食べる。しかし、そんなに略しているだろうか?

「ごちそうさま〜」

と気付けば既に皿の上には意図的に残した豆が残っているだけだった。

「ごま」

娘はもう言っても無駄だと思ったのか冷えた目つきでオレを見つめている……。どちらに対してだろうか?

「挨拶の事だよ、お父さん」

何故わかったんだろう。





さて、飯を食い終わってから十分、オレ達は会社へ向かい出発する。時刻は六時半、歩いても五分もかからないから到着は六時三十五分。
オレは眠気にさっきから欠伸を連発している。それを娘は隣で見てニコニコと浮かんでいた。
そのまま無言で会社に着く。かなり煤けた小さなオフィスで、一階は資料に埋まっている。
階段を上るがこんな時間に誰か来ていることもなく……夜勤の面々がまだ働いているほどに早かった。

「あっ! 社長、今日は早いですね」

「あぁ……娘がな」

普段ならあと一時間は寝ていられたのだ。

「ハハハッ、社長も大変ですね。では、私達はもう後一時間ほどありますので作業の続きを」

「頼んだよ、オレもさて通常勤務の野郎共の振り分けでも考えますか」

「しゃっちょー、私は何を?」

定位置に着き、取り敢えずカバンを下ろして座ると娘は飛び付くように仕事を聞いてきた。そもそもまだ確認もしていなかいからあるかもわからない。一先ずは面倒を押し付ける事にして放置だ。

「そうだな、副社長は一階の掃除でもしてなさい」

「うぇっ…わかりました」

言ってやると、本気で嫌そうな顔をして素直に正面の扉を開けて下りていく。
さて、煩い子供も下へ行ったし、それじゃ進めようか。
すでに習慣になったその動作、逐一すべての依頼に目を通す。
多い日では百をゆうに超える量の依頼が朝の時点で入っているのだが、本社のあるこの四蔵市だけでもこの量、周辺の地域の分も合わせると一日に一人が三十件近くこなさなければいけない。
夜は基本的に夜勤のメンバーが緊急な依頼のみを受付て必要ならば通常勤務のメンバーに連絡する。
現実には半分をこなすのが限界で最近では情報課にも、研究課にもある程度の実践経験がついてしまった。

「……来年は大々的に人員増強を図るかな」

山のような依頼を前に呟くが、戦闘課は危険だから増やせないのが現実で、他の課も既に大差ない依頼を行っているのだ。
後は……破棄依頼の書類を整理しないといけないことを思い出した。もうそろそろデータ要領がパンクしそうで、情報課が戦闘してるようではオレ自身がやらないといけない。完了依頼もデータ破棄をしないといけない、個人データと依頼の簡潔な内容を入力して纏めた依頼のみを残しておく。
他に、過去の依頼のリストが残っていた。現在から遡って……残りは……そう思いながら画面に目を通す。
おっ、ここまで来てたか、最初の依頼まで……。

―依頼 file 1―
記憶
開始日:2004 06 09
完了日:2008 08 16
依頼者:アイリィ
報酬:無し

それを見て、オレは懐かしさを覚えながら色んな事を思い出していた。



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