『何故解−ナゼトキ− 解決編』
作:武士道さむらぃ



「犯人は何故花瓶を割ったのか―」
 探偵はおもむろに話し出した。

「打殻さん、アナタには見当が付きますか?」
 打殻に問を投げかける。
 打殻にはそれに答えることが出来ず、俯いてしまう。

「では、阿野佐さん。アナタには?」
 同じ問を再び放る。

「そんなの分かるわけないでしょう! 早くしてください!」
 同じ流れにいらだちを抑えられない阿野佐は怒鳴る。

「そう。分かるはずがありません。犯人は元々花瓶を割る気などなかったのですから」
「つまり『割った』のではなく『割れた』。犯人の意図していないことが起きた。こういうわけか」
 後半を堂仕手がひったくる。

「だから何なんでしょう?」
 奏音は探偵に尋ねる。
 顔は笑っているが、どことなく焦ってるかのような、怒っているかのような。

「“『犯人』がいる”“花瓶が『割れた』”奏音さん、これが事件の全てなんですよ。犯人は故意に花瓶を割ってはいない。つまり―」
 探偵は微笑み、深呼吸をする。
 そして真剣な顔付きになった。

「―犯人は」

「犯人候補はまだいますよ? 探偵さん」
 奏音は微笑み、紅茶を口に含んだ。

「他に犯人候補が……?」
 探偵は驚きを隠せないでいた。
 今まさに語られようとした真実が―まるで新たな真実がそれを飲み込むかのように―偽物となってしまう。

(何故こじれる? 何故解ききれなかった?)

 探偵は自問自答するが答えは帰って来ない。

「一体誰なのよ?」
 打殻は奏音の手からティーカップを奪い、中身を飲み干した。

「それは―、出透(デスカ)。来なさい」
 奏音はベルを鳴らした。

 部屋の外で鈴の音が響く。

 そして、影が部屋に飛び込んできた。

「さ、る……?」
 4人はキョトンとした。

「私のペットの出透よ」
 出透は丁寧にお辞儀をした。

「えらく礼儀正しいサルだな」
 堂仕手は感心したようにうなずく。

「このサルが事件を起こした、ということですね。はあ、やっと解決か……」
 阿野佐は時計を見つめ、ため息をついた。

「……ちょっと待って。何で言わなかったのよ?」
 打殻は責めるように奏音を睨みつけた。
 思わず奏音は目を逸らす。

「出透はいい子なの。だから犯人にしたくなかった……。でも、防犯カメラに映ってるだろうし、時間の問題ですものね」
 奏音のその言葉に、探偵はピクリと眉を動かした。

「あの、ですね。そのサルは犯人じゃありません」
 探偵は慌てて伝える。
 何をそんなに焦っているのか。

「ああ、犯猿、だな」

「いえ、そうでなく。真実をお話いたします。この事件の鍵は『犯人』は花瓶を『故意に』割ったわけではありません。つまり―」
 4人は同時に息をのんだ。

「花瓶を落としたのは私ですごめんなさい今すぐ片付けます」
 探偵は寒さですっかり冷えた花瓶の欠片を拾い集め、床一面に散らばった紅い花を撤去した。

 4人は呆れてものも言えず、濡れ衣を着せられた出透も探偵を冷たい目で見ている。

「この事件の鍵は『故意』ではないということにありまして、これは事故であり、悪気があった訳ではないわけでありまして―」

 その後探偵は何十分間も言い訳をし続けたが、誰もその言葉に耳を傾けようとはしなかった。



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