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『カシミア・ウルミールは騎士を知る』前編
作:緑野仁 私の名前はカシミア・ウルミール。由緒正しきウルミール家の三女である。 ウルミール家は代々王家の服飾を取り扱っている一族で、そのためなかなか裕福な暮らしをしていた。 「今日はお前の15歳の誕生日だ、カシミア」私を呼ぶなり、お父様は突然そう話しはじめた。 「そうです、お父様」「そこでだ、カシミア。お前に仕事を一つやろうと思う」 「え?」 「知ってのとおり、我々の仕事は王家に関わることだ。その為には王家と関わりを持った方がいいはず」 「はあ」 「そこでだ、1週間の間、アリシアお嬢様の召し使いとして働いてきなさい」 「……はい」 「先に1人世話役の方がおらっしゃるから、話をよく聞くように。わかったな?」 「わかりました」 私は、それを聞いてとても驚いた。男の皇子がいない王家では、アリシア様は次期女王と言われている。そんな方と会えるチャンスがあるとは思いもしなかった。 次の日、私は早速小間使いの格好で控えの部屋に入った。ちなみに、この服もウルミール製である。 「今日から1週間働くことになったカシミア・ウルミールです。よろしくお願いします」 私は、ゆっくり頭を下げた。よくパーティーに行く甲斐があってか、こういうのには慣れている。 「ああ、あなたがカシミアちゃん?」 誰かが言った。いきなりちゃん付けとは驚きだ。 「私がアリシアお嬢様の世話役のメルラン・ランスエロットです。よろしくー」 そう言って、彼女は手を差しのべてきた。 「……よろしくお願いします」 私は、本当にコイツで大丈夫なのかと思いながら手を握り返した。 「はい、よろしくー。……まあ、ゆっくりと話したいところなんだけど……」 そういうと、メルランさんは突然苦い顔をした。 「何かあるんですか?」 私が訊いたとたん、遠くから声がした。 「メリー! ……メルラン・ランスエロット!」 「はい、今すぐ!」 そう言うと、メルランさんはものすごい速さで走り出した。 「10秒5……記録更新成らずね。今日は何か用事でもあったの、メリー?」 「ああ、実は今日から世話役が増えまして」「え?」 その時ようやくアリシア様はこちらに気づいた。 「カシミア・ウルミールです、よろしくお願いします……」 そう言いながら、私にはとても気になっていることがあった。 「あの、服のほうは……」 「ああ、最近暑いから脱いだのよ」 アリシア様は、平然と言った。 「ウルミールっていうと、うちの服を作ってもらってる?」 「は、はいそうです!」 「ふーん」 アリシア様は私に言った。 「あのー、お嬢様。さすがに失礼ですから服を着てください」 「いいじゃない、あの服って暑いんだもの」 確かに、王家の服はいつ見ても暑そうだ。良いことを聞いた気がする。 「それは初耳でした。今度両親に言ってみます」 私はアリシア様に言った。 「あらホント? 言ってみるものね」 アリシア様は少し嬉しそうに言った。 「ところで、何のご用でしたか?」 メルランさんが訊ねた。 「ああ、そうだったわね。実は今日……」 私は身構えた。 「……夢を見たのよ」 「え?」 「ああはい、今日も見たんですね」 私は呆気にとられた。 「失礼な言い方ね……まあいいわ」 「恐れ入ります。あ、カシミアさんはお茶を淹れてきて」 「あ、はい」 私は台所へ走った。 その後のことは、よく覚えていない。アリシア様が空を飛んで鶏を踊り食いした辺りから、私は意識が飛んでいた。 「……というわけだったのよ」 「それは盛大な夢でしたねぇ……あ、カシミアさん。……カシミアさん?」 「あ、はい」 そこでようやく私の意識が戻った。 「大丈夫? 具合悪くない?」 「はい、大丈夫です……」 「そう、よかった。それじゃティーカップを片付けといてね」 そう言って、メルランさんはまたアリシア様に話しかけ始めた。私はティーカップを持って台所に行った。 「カシミアちゃん、大丈夫だったー?」 アリシア様の部屋を出た後、メルランさんが話しかけてきた。 「あ、はい」 「そう……いやぁ、お嬢様はいつもあんな感じでねぇ」 メルランさんが頭をかきながら申し訳なさそうに言った。 「なんというか……話が常人のそれを越えるのね。大体の人は皆そういう風になるみたいで」 「そうなんですか?」 「ええ、あの話をマトモに最後まで聞けた人は私を含めて二人しか知らないわ」 メルランさんが言った。 「すさまじいですね」 私は心の底からメルランさんを尊敬しながら言った。 「まあ、そうだね。でもまあ、それを聞くのも私の仕事だし」 私はそれを聞いてがく然とした。あと1週間、これを続けなければいけないのか。 「……わかりました」 「うん、ホントにカシミアちゃんは偉いわ。私の昔とは大違い」 メルランさんは照れながら言った。 「いやあ、昔は私もっとバカだったんだけどさあ。15歳の誕生日で色々あったんだ」 今でも十分バカっぽいです、と思いながらも私はそのまま聞いていた。 「それでまあ、しっかりしなくちゃ、って思ったのよ。それでここの召し使いをやろうと思ったの」 メルランさんが言った。 「15歳、ですか? だったら、私と同じ時に入ったんですね」 私は、つい軽い口調で話しかけてしまった。 「あ、そういえばそうだね。まあお互い頑張ろうじゃないの!」 メルランさんがバカそうに、もとい元気に言った。年上とは思えない。 「はい、がんばります」 「よーしよし。……あ、リディア様!」 そう言って、メルランさんは走り出していった。 |
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