『十神十色 生死編T ―死の神―』
作:璃歌音


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 自分でもよくわからない。

 自分で言うのもなんだが、オレは自分のことをいわゆる「普通の」人間だと思っている。特に正義感が強いわけでもなければ、特に凶悪な考えを心の内に秘めているわけでもない。なんとなく生きているだけのはずだった。なんとなく、「普通」の暮らしをする、平凡な、一介の、男子高校生に過ぎないと――そう思っていた。
 だから、どうして自分があんなことをしたのかはわからない。

 
 少女が、転がるボールを追って走っている。何歳くらいだろうか、まだ小学生にはならないくらいというところか。少女の向こうには、母親らしき女性がベンチに座っている。母親は、大きくなったお腹をさすりながら、嬉しそうに少女を眺める。
 ほほえましい光景だな、そう思ったのも束の間。
 少女はボールを追いかけて、道路にとことこと歩き出てきてしまう。ちょうどそこへ、タイミングが良いのか悪いのか、狭い道には不釣り合いなスピードを出した、真っ赤な刺々しい色のスポーツカーが迫る。

 なにかを考える前に、既に動いていた。



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