『忘れん坊のおはなし』<kousaka-saguru>初掲載記念作品
作:璃歌音


 小学生のルンくんは、とっても忘れん坊。
 今日も、授業で使う教科書を何冊も忘れてしまったので、担任の先生に叱られています。
「だからね、ルンくん。お家に帰ったら、明日必要なものを全部机の上に置いておきなさい、っていつも言ってるでしょ?」
「でも先生、帰ったときには、そう言われたことを忘れちゃってるんです」
 ルンくんのあまりの忘れん坊ぶりに、先生はいつも言葉を失います。

 ある日、同じクラスのアイちゃんが、ルンくんに話しかけました。
「ルンくん、今日はお掃除のあと、私と一緒にごみを捨てに行く係だからね。忘れないでね」
「うん、わかったよ。アイちゃん」
 いつも返事だけは力強いルンくんです。

 その日の授業中。
 先生が出した問題に、ルンくんは手を挙げて答えようとします。先生に当てられたルンくんは、
「…………」
 ぽかん、とした顔で何も言いません。どうしたの、と先生が聞くと、
「先生、言うつもりだった答えを忘れました」
 そのルンくんの言葉に、クラスのみんなは大笑い。先生は授業をまた始めるのに何度も、静かにしなさい、と叫ばないといけませんでした。
 みんながあはは、と笑うなかで、ルンくんだけはいたって真剣です。

 その日のお昼休み。
 みんなが順番に並んで、給食当番から給食を受け取ります。
 もらった人から自分の席に戻っていって、全員が座ったところで先生が、
「みんな給食をもらいましたね? それじゃあ、いただきま……」
 いただきます、の号令をかけようとしましたが、よく見るとルンくんの机にだけ給食のトレーが乗っていません。
「ルンくん、給食は?」
「もらいに行くのを忘れました」
 そうして、教室のみんなはまた大笑い。
 でも、ルンくんはいたって真剣です。

 その日の放課後。
 授業がすべて終わったので、みんなはお掃除を始めます。
 それぞれの担当の場所に行って、担当の先生にあいさつをしてから、お掃除をしました。
 しばらくして、一斑が担当の教室のお掃除が終わりました。一斑のみんなが集めたごみを、二つのごみ袋に入れて校舎の外のごみ捨て場に持っていくのですが、その係の人がアイちゃんしかいません。
 そう、せっかくアイちゃんに教えてもらっのに、ルンくんは係のことをすっかり忘れて、帰ってしまったのです。
 アイちゃんはぷんぷん怒りながら、ごみ袋を二つとも持っていきました。
 先生が、片方持ちますよ、と手伝おうとしても聞く耳を持ちません。

 次の日。
 アイちゃんは、朝一番にルンくんに詰め寄りました。
「ちょっとルンくん! 昨日、ごみを捨てに行く係を忘れたでしょ!」
 ルンくんは、あ、と大きく口を開けて驚きます。でも、アイちゃんにはその仕草もわざとらしく見えて腹が立ちました。
「もうルンくんとは喋ってあげない!」
 そう言ってアイちゃんは走ってどこかへ行ってしまいました。ルンくんは、しょぼん、と肩を落としています。

 その日は一日中、アイちゃんはルンくんと口をきいてあげませんでした。
 ルンくんがときどき、アイちゃんに謝ろうと近付いてきましたが、アイちゃんはぜんぶ無視して他の子と話していました。
 ルンくんはその日も、鉛筆を忘れたり、テストに自分の名前を書くのを忘れたり、ランドセルのふたをきちんと閉めるのを忘れて教科書をぜんぶ落としてしまったりと、相変わらずの忘れん坊ぶりでした。

 アイちゃんはお家に帰ってから、とてもいやな気持ちになりました。
 ルンくんが謝ろうとするのも無視してしまったのは、よくなかったのではないか、と思って、お母さんに相談してみました。
 お母さんは、ほほ笑んでこう言いました。
「そうね。ごみ当番を忘れちゃったルンくんもいけないけど、謝らせてあげなかったアイちゃんも悪いよね。明日、ルンくんに謝ってこようね」
「ルンくん、許してくれるかなぁ?」
「ちゃんと謝ったら、きっと許してくれるわよ」
 お母さんにそう言われて、アイちゃんは少し気が楽になりました。
 でも、その夜は、不安でお母さんに子守歌をうたってもらわないと眠れませんでした。

 そのまた、次の日。
 アイちゃんは、勇気を出して朝一番にルンくんに謝りに行きました。
「あのね、ルンくん。昨日はひどいことしちゃって、ごめんね」
 でも、ルンくんは、ぽかんとしています。
「ひどいこと?」
「え? だって、ずっとルンくんを無視しちゃって……」
 すると、ルンくんは少し黙ってから、
「うーん、忘れちゃった!」
 そう言って、にっこりと笑いました。
 ルンくんは、それからもアイちゃんと仲良くしてくれました。

 忘れん坊も悪くないな、と思ったアイちゃんでした。


おしまい。