『係り結びにて候ふ……』<武士道さむらぃ初掲載記念作品>
作:璃歌音


 時は平成。舞台は竹取銀行。今、ここに新たな英雄が誕生する……。

「おとなしくしろ。金を出せ」
「ひ、ひええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
「長ぇ!」
 とある昼下がり。竹取銀行に押し入った強盗グループは、脅す相手を間違えていた。彼らが周囲に気づかれないようにこっそりと拳銃を向けた銀行員、驚島逃子は、銀行で最も怖がりで最も声の大きい女子行員だった。彼女のものすごく長い悲鳴に、最初に銃を向けた強盗その一は怯み、強盗その二はツッコミを入れてしまった。
「ちょっと驚島さん! どうしたの?」
 声に気づいてすかさず駆け寄ってきたのは、弱田いわしは、銀行で二番目に怖がりで二番目に声が大きい男子行員だった。弱田はすぐに強盗その一、その二に気づき、驚島に続いて悲鳴を上げた。
「のひょらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「なんて!?」
 怖がりも声の大きさも二番目だが肺活量だけは驚島に負けない弱田のとてつもなく長いおかしな悲鳴についツッコミを入れたのは、強盗その三だ。
 二人の悲鳴で、銀行の中はすでに大混乱、混沌の時代を迎えていた。仕方なく、強盗グループ(強盗その一、その二、その三、その五、その六、その七、その八、その十)は、穏やかにスマートに金を奪う作戦を諦め、ド派手に荒っぽく金を奪うことにした。
「おらおらおらおら!! 今から一歩でも動いたやつは撃ち殺す!! その場でしゃがめ!」
 そう、銀行の客たちに命じたのは、強盗その五だ。彼ら八人は、縁起を担いで四と九をコードネームから外しているのだ。
 ところが、その五が命じたにもかかわらず、客たちは戸惑ってざわざわしている。
「おい。動いちゃダメなのかしゃがまなきゃダメなのか、ハッキリしろよ」
「あ……。えっと、動いていいからしゃがめ! しゃがんだら動くなよ!」
 その六が軌道修正をいれたおかげで、客たちは安心して指示に従うことができた。
「よーし! 今から携帯電話を配るから、それに各自のビニール袋を入れて渡せ!」
 その七が指示をすると、客たちはまたざわめき始めた。
「その七。逆だ、逆」
「あ……。えっと、今からビニール袋を配るから、それに各自の携帯電話を入れて渡せ! ……合ってる?」
「うん、合ってる。」
 その八が訂正したおかげで、客たちはにこやかに自分の携帯電話を預けることが出来た。
「っしゃあ!! そこのお前とお前!! 俺と一緒に金を取りに行くのを手伝え!」
 その十が間違えずに指差したのは、この銀行の支店長、金田金雄と、客の一人だった。
「え、僕ですか?」
「あーぁ、そうだ。よし行くぞ金田!」
「おうよ!」
 返事をしたのは強盗その一だった。
「いや、お前じゃねェよ。なんでお前が返事すんだよ」
「いや、だって行くぞ金田って」
「あ、お前も金田っつーの?」
「あ、言ってなかったっけ?」
「うん、聞いてない。……とにかく、俺が連れてくのはこの支店長の金田のほうな。お前じゃなくて」
「あ、そっか。ごめんな、邪魔して」
「ううん、いいよ。全然気にしてないから」
「ありがとー。頑張ってね」
「うん。金田くんたちはお客さんたちの見張りよろしくー」
「あーい、了解ー」
「早く行けよ!!!!」
 我慢できずにツッコミをいれたのは、そう、客全員である。

 竹取銀行金庫内。
「よし、金田。開けろ。お前の指紋が必要なんだろ」
「よく知ってますね。でも、指紋だけじゃないんです。五千七百六十九桁の暗証番号を打たないといけないんですよ。すごいでしょう? しかも、数字ボタンが全て指紋認証機能付きで、五千七百六十九桁全部、私の指で打たないと開けられないんです。」
「わかったから早く打て!!」
「あ、それが、流石に私、もう結構な年ですのでなかなか五千七百六十九桁も覚えられなくて。メモがないと……」
「はぁ!!?? で、メモはどこなんだ」
「あ、驚島くんが持ってます」
「全く……」
 その十は呆れながらも、八人でお金を出し合って買ったトランシーバーで仲間に連絡する。
「お、トランシーバーですか。いいですね、かっこいいですね」
「うるせぇ!」
 二人のやり取りの間、金庫に連れてこられた客の男は、何も言わずじっとその十を観察していた。

 驚島はすぐにやってきた。
「な、ななななな、なんですかぁ?」
 びくびくしながら尋ねる。
「驚島くん、メモを」
「めも? ……あ、ああ!」
 驚島は、思い出したように、豊かな胸元に手を突っ込んだ。
「な、なにしてんだ!?」
 思わず、その十が訊いた。
「あ、なくさないようにと思ってブラの中に入れてるんです」
 それから、金田とその十は見つからないといって驚島がまさぐる胸元を眺めている間も、客の男はその十を観察していた。が、突然顔を上げて目の色を変えた。比喩ではなく、黒かった瞳孔がぱっと碧に変わったのだ。
 その後は一瞬だった。驚島の胸元に見とれるその十の肩を叩いた男は、振り向いたその十の顔を思いっきり殴りつけ、仰け反ったその十の腹を殴り、今度は腹を抱えてうずくまりそうになったその十の顔を肘で蹴り上げる。後ろ向きに転がったその十の上に飛び乗り、馬乗りになって首を絞めて気絶させた。一瞬とは言ったが、その実、十秒間の出来事だった。
「うわー、相変わらずえぐいね」
「うるさいな」
 驚島は、その一連の出来事には驚きも悲鳴をあげもせず、静かに口に手を当てただけで、男もまるで昔からの知り合いのようにフランクに答えた。
「じゃ、後は計画通りに」
「了解!」「了解」
 何故か金田が指示を出し、二人が答えた。

「ん、金はどうした」
「いや、なんかよ、すげー長い暗証番号打たなきゃいけないらしくて、面倒くさいからとりあえず置いてきた」
「ふーん、どうする? UNOでもやる?」
 戻ってきた十の変化には気づかず、その二、その三は普通に話しかけた。
 すでに銀行の客と銀行員たちはまとめてしばられていた。その五が可愛い女の子をくすぐったり、その六が可愛い女の子をくすぐったりしている。
「あ、いいね。あ、待って。俺ちょっとトイレ行ってきていい?」
「おう、行ってこい」
「あのー、それでさ、トイレの場所わかんなくなっちゃったんだけど、一緒に来てくんない?」
「あ? ガキかよお前? しょうがねぇな……」
 その八は十と一緒にトイレに向かった。

「おい、さっさと行けよ。何ぼーっと突っ立ってんだよ」
 その八が言った瞬間、十が振り向き、回転の力を加えたラリアットをかける。ぐるぐると回されながら、床に倒されたその八の首を、ひじの辺りで押さえつけ体重をかける。その八が気絶したことを見届けた十――男は、その八の着ている服をはぎとり、トイレの個室に押し込んで鍵をかけた後、個室の扉を乗り越えて出てきた。
「あと、六人か。いくらなんでも多すぎるだろ」
 そう呟いた男は、その八の服を着て、ロビーに戻っていった。

「ん、十はどうした」
「ああ、どうやら大のほうだったらしくて、しばらくかかりそうだ」
「ふーん、どうする? 人生ゲームでもやる?」
 戻ってきた八の変化には気づかず、その五、その六は普通に話しかけた。
 すでにしばられた銀行の客と銀行員たちは、可愛い女の子とそうでないのとに分けられていた。強盗グループは各々女の子をくすぐったりくすぐったりしていた。
「いや、やめとく。あれ無駄に時間かかるだろ」
 そう答えた八は、可愛い女の子のグループに分けられた驚島に、くすぐる振りをしながら話しかけた。
「なあ、あと六人も居るのに一人一人やるの面倒くさいんだけど。アレで一気に片付けていい?」
「え、だめよ。ちゃんと作戦通りにやらなきゃ。まあ、会長に訊いてみて」
「会長は良いって言ってた」
「あら、そう。手回しが早いわね……って、どうやって!? トイレから金庫に行くにはこのロビーを通らなきゃいけないでしょ?」
「いや、会長のほうが暇だっつって通気口通ってトイレに来た」
「またあの人は……。まあ、会長が良いって言うなら良いわ。好きにしなさい」
「ありがと! 今日も可愛いね」
「なっ! 何言ってんの!」
 乙女(驚島)の心を乱す捨て台詞を言って、その八に成りすました男は立ち上がった。そのまま、窓口に向かい、カウンターの裏を探った。
「ん? なにやってんだ?」
「よいしょっ!」
 男は、カウンターから日本刀を取り出した。
「なにっ!? おい八!! なんだそれ!」
「ん、日本刀」
「はああ!?」
 男は、適当にあしらいながら、日本刀を腰に差す。振り返り、刀を抜くと、
「私の生徒に手を出す奴はゆるさないわ。かかってきなさい!」
「なんの真似だこらぁ!!」
 その一、その二、以下略六人は、どこぞの時代劇よろしく順番に男に踊りかかる。男はそれを順に薙ぎ払っていく。
 強盗たちは、ばたばたと倒れていったが、血は出ていない。
「よっ、相変わらず綺麗な斬りっぷり!」
 驚島が囃し立てるところに男はピースサイン。すると、客の一人(可愛い女の子ではないグループ)が声をあげた。
「あ、あなたたちは?」
 その声が合図のように、驚島――虎潟愛奈と男――柳太祐は、立ち上がって並んだ。
「よくぞ訊いてくれたわね」
「そう、俺たちは……」
 が、沈黙が続く。見ていた人間たちが飽き始めた頃、遅れて金田――鯉本清人が二人の間の不自然な隙間に入った。
「助っ人同好会なり!!」

「いやー、助かったよ。さすがだね、えーと、スケット団、だっけ?」
「あの、支店長さん、その間違いはいろいろ弊害があるんでやめてください」
 警察が来てひとしきり手続きが終わった頃、今回の依頼人、本物の支店長が彼ら三人――某大学助っ人同好会に声をかけた。
「いえいえ、当然のことをしたまでです。さあ! 我が愛しい部下たちよ、帰るぞ!」
 会長、鯉本が颯爽と歩き出す。
「あんた、今回なんも役に立ってないのわかってる?」
「ま、終わりよければ全てよし、と」
「柳くん、いっつもそれよね」
「ん、俺の座右の銘」
「あ……そう」
 鯉本に続き、虎潟、柳が歩いていく。三人は並び、夕陽に向かって歩いていき、やがて三つの影は見えなくなる……。


「なにこのベタな展開!」
 虎潟にツッコまれても知りません。こんな結末、んあっ、係り結びにて候ふ……。
「なんだそれ!」



 次回、「必殺!サ行変格活用!」に続きません。
 以上、助っ人同好会会長、鯉本がお送りしました。
「お前が言ってたんかい!」