『加減乗除の決まりごと』
作:武士道さむらぃ



崇楽の時代の頃、世には悪が栄えており、星の数程ある町々の内の一つ、枝具町でも人々は領主の悪政の下、日々を細々と暮らしていた。


「きゃあああああ! 俄臼、また俄臼男爵がぁー!」

枝具町唯一の宝石商、下弦譲二の娘、下弦等子が叫んだ。

「トウコっ、どうした……!?」

隣の店で世間話をしていた譲二はすぐに外に飛び出した。


「ふはははは、ジョゥージ君。このダイアモンドゥは俄臼が頂いたっ!」

俄臼は屋根の上で月か、背後にちょうどくる位置を探り、そこに移動してダイアモンドゥを空に掲げた。

「くそ、またやられたか……。もう36回目だ……。」
譲二はがっくりとうなだれた。

「卑怯ものっ! あんたなんて、あんたなんてっ!」
等子は目に涙を浮かべながら譲二に寄り添う。


「……もし、そこの宝石商のジョージとやら。36回目でありながら奴は何故捕まらない?」
頭に三度笠、背に黒い風呂敷を靡かせた旅人が譲二に小声で問う。

「あいつは領主卑文にコネがあって、どうにも捕まえられんのだ……。」
譲二は未だにダイアモンドゥを掲げ続けている俄臼を見上げて言った。

「今まであいつには……」
「もうよい。」

旅人は話を遮り、譲二の前に立った。


「……なんだ貴様ゥは? 見かけない顔だな。」
俄臼は旅人に気付き、ダイアモンドゥを懐にしまう。

「俄臼とやら、貴様を真っ当に還元してやろう。」
旅人は三度笠と風呂敷を放り投げた。

その風貌は、いかにも、火衣狼。

額には印、手蔵流。

真白い体に紅の背衣。

「我が名はインテグラル仮面。この腐った世を還元しに参った。」

「お前が何者ゥかは知らんが誰がお前みたいな変人にうわ何するゥやめ」

「石!」

ブーン!

インテグラル仮面は俄臼に手頃な大きさの石を投げつけた。


石は綺麗な弧を描き月に映る暗い影を打ち落とした。


「道を踏み外すな、俄臼よ。」
インテグラル仮面は俄臼からダイアモンドゥを引ったくり、譲二のもとに歩み寄った。

「この輝く石も、本来あるべき場所へと還元されるのが運命であろう。」
譲二のその手に、石は渡された。

「アンタが投げた石はこのこれよりもうふたまわりも大きいダイアモンドゥだったがな!」



「……。我も元いた所へ還元されるべきであるな。あいや失礼。」


ブーン!





インテグラル仮面は去っていった。



この世に悪があるかぎり、彼はそこらを駆け回る。

行け、インテグラル仮面!
今日も轟け石ブーン!


次回、「帰納法で大勝利」もお楽しみにー。