『八猫伝』そのきゅう
作:璃歌音



 突然、一匹のネズミが走ってきました。
「なんだ!?」
 驚いたサターンがネズミを拾い上げると、ネズミの尻尾に紙が巻きつけられています。
「エウロパの伝書ネズミさ」
 ジュピターがネズミからエウロパの手紙を取り外して、読んでみました。
「ああ、やつらのアジトの扉の仕組みがわかったから来いってさ。ほらみんな! 行くよ!」
「最終決戦ってやつ?」
「違いますよウラナス、まだ様子を見るだけです」マーキュリーが訂正します。
「ふーん、つまんないの」
 エイトキャムライは、ジアスたちのアジトに向かって歩き出しました。

「まったくなんだってこんなへんぴな所に秘密のアジトなんか作りやがったんだ、人間どもは」
「“秘密の”だからでしょ?」
 サターンとマーズがそんな会話をしていると、洞窟は行き止まりになりました。
「行き止まりじゃない!」思わずヴィーナスが文句を言います。
「おかしいわね……。確かにここのはずなんだけど」
 ジュピターがそう言うか言わないかというとき、一行の後ろでがしゃん! というすごい音がしました。びっくりして振り返ると、後ろにも岩の壁が現れているではありませんか。
「なにこれ!閉じ込められちゃったじゃん!!」ネプチューンは今にも泣きそうです。
 と、岩壁の一部が開き、人間が現れました。ジアスたちです。ジアスはエウロパを掴んでいました。
「まったく……たかが猫の分際でこそこそと嗅ぎ回りやがって」
 ジアスが吐き捨てるとその腕に抱えられたエウロパが叫びます。
「すまんジュピター! 脅されて洗いざらい喋っちまった! お前らがこれから来るってことも」
「相変わらず研究以外はばかだね。エウロパったら」
「それよりジュピター!どうするの?」マーズは慌てています。いや、ジュピターとカロン以外は全員慌てています。
 ジュピターはリーダーらしく落ち着いていて、カロンは瞳の中に復讐の炎が燃えています。
「あいつらだ……。家族を殺したやつらだ! うおおおおお!!」
 カロンが飛び出しそうになるのをサターンが自慢の腕力で押しとどめて、ジュピターがカロンに話しかけます。
「落ち着きな、カロン。下手に手を出したってやられるだけだ。あたしたちがいるんだから、安心しな。必ずあんたの家族の仇をとるよ」
「そうは言っても、人間相手にどう戦えばいいのでしょう?」マーキュリーが尋ねると、ジュピターはにっこりして言いました。
「あたしたちにはこの珠があるわ。やつらも似たようなものを持ってるらしいけど、不意打ちなら結構効くかもしれない。あたしが合図を出したら攻撃して」
「了解しました」
 すると、人間たちがいらいらした素振りを見せ始めました。
「なにこそこそ喋ってんだ! どうせお前ら猫ごときじゃ、人間には歯が立たねぇよ!」声をあげたのはフロンです。
「フロン、ニカソ。さっさととっ捕まえろ」
「あいよ!」
「……」
 ジアスに指示され、フロンとニカソがこちらに向かって走ってきました。
「今だ!」
 ジュピターが叫び、エイトキャムライはそれぞれ珠を取り出します。
 まず、サターンが地中から草を生やしてそれを戦士の形にし、ヴィーナスが精霊を宿らせてフロンにしがみつかせます。精霊が草の戦士からぬけだしたところで、マーズが「かつお 」の珠の力で草を燃やすと、フロンが大声をあげて逃げ戻ります。
 ニカソに対しては、ネプチューンの珠から吹き出した水流にマーキュリーが電気を流して攻撃します。ニカソはばったりと気絶してしまいました。
 ウラナスは慌てたせいで珠からそよ風が出ただけでした。
「なにやってんだお前ら!」ジアスが怒り狂います。
「ジアス! あれだ! あれを使ってくれ!」
「まったく……」
 フロンにしがみつかれながら、ジアスが懐から禍々しく光る真っ黒な珠を取り出しました。ジアスはそれを高く掲げようとしましたが、
「狭い! おいニカソ! 起きろ!」
 ニカソが倒れているところを蹴飛ばします。ニカソがゆっくり起き上がりました。
「邪魔だ! この岩をどけろ!」
 不服そうにしながら、ニカソが取り出した機械のスイッチを押すと、周りを囲んでいた岩が音を立てて崩れました。
 洞窟は海辺にあったはずなのに、そこには荒野が広がっていました。遠くには崖もあります。
「最終決戦の舞台にはぴったりだろ?」ニカソが不気味な笑みを浮かべました。
「まったく、お前はおおげさなんだよ」フロンがニカソの頭をはたきます。
「まあいい。行くぞ」
 そう言って、ジアスが持っていた黒い珠を高く掲げます。よく見ると珠には「鬼」という字が浮かんでいます。
「あれがツサばあさんの言ってたやつか……?」
「なにが起こるのでしょう……」
 エイトキャムライは不安に見守るばかりです。
 すると、ジアスの隣のなにも無い空中に黒い裂け目が現れました。そこから、人間が一人這い出てきました。気づくと、裂け目はそこら中に現れて、ぞろぞろと人間が出てきます。
「なんだ!?」
 出てきた人間たちは姿がぼんやりとしていてよく見えません。しかも、エイトキャムライを襲いはじめました。エイトキャムライはそれぞれ珠の力を使って戦いますが、ぼんやりした人間たちには全く効果がないようです。
「なぜ効かない!?」
「当たり前だ! そいつらは冥界から呼び出した死者たち。この世の攻撃など効くはずもない!」
 ジアスが高らかに叫び、笑い声をあげました。
「死者だって!? こいつら、もう死んでるのか!」
「そりゃ、攻撃も効かないはずだね……!」
 珠の攻撃が意味を成さないエイトキャムライは、あっという間に死者たちに捕まってしまいました。
「うはははははは! やはり人間には手も足も出ないようだな! おとなしくしていればいいものを」
「ジアス! なにが目的だ!」ジュピターが勇敢にも声を荒げます。
「おやおや、俺の名前まで知っているとは。お猫様はなんでもお見通しってか? はっはっはっはっは!! ふん、なにが目的だ、だと? こんな島を猫なんかに占領させてたまるか! 資源もたっぷり眠っているし、観光地にもできる。宝の山だぞここは! ……まあ、いい。お前らは早々に死んでもらうからな」
「うへへ! 今夜は猫鍋か?」
「フロン、俺は猫を食べる趣味はないし、そのネーミングは誤解を招くぞ」
「あ? なにがだ?」
「まあいい。さっさと殺せ。あとは煮るなり焼くなりお前らの好きにしていい」
「うへへへへ!」
 フロンとニカソがエイトキャムライにじわじわと近寄ります。八人は皆、死を覚悟したとき、プルートは特に強い感情を抱いていました。
(また、人間たちに……。デス族だけでなく、リキャット島の猫みんなが殺されてしまうのか……!)
 プルートが怒りを込めて「さめ 」の珠を強く握ると、珠が返すように強く輝きだしました。その輝きは、人間たちの目もくらませます。
「うっ! なんだ!?」
「そこまでだ!! 人間ども!!」
 声のしたほうを見ると、崖の上にたくさんの黒猫が立っています。武器を持った黒猫たちは、颯爽と崖から飛び降りて人間の死者たちと戦い始めました。その中の一匹がプルートに近づいてきます。
「カロン! 生きてたのか!」
「違うんだ兄さん。その珠の力だよ」
 カロンは、そう言いながらエイトキャムライを捕まえていた死者たちを黒い剣で斬りつけます。斬られた死者は消えてなくなってしまいました。
「その珠が、僕らを一時的に蘇らせたんだ。やつらの珠と似てるけど、無理矢理洗脳して奴隷化しないだけましかな」
「……デス族には、とても強い戦士が多くいたと聞きました。さすがですね」
「よくご存知ですね、ツラス族のお姉さん。……さあ、僕がやつの珠を壊します。あとは兄さんたちの出番さ」
「ああ」
 カロンはジアスのほうへ走っていきました。ジアスはカロンに掴みかかりますが、カロンはそれを軽やかにかわしてジアスの持っていた珠を剣の先で突いてくだいてしまいました。
「お見事!」思わずマーキュリーが拍手をします。
「さあみんな。思わぬ助っ人が来てくれたけど、あいつらを倒すのはあたしらの役目だよ」
「おう!」
 ジュピターの言葉に、全員が応えました。
「いくよ!」

 珠を壊され、戦う手段を失ったジアスたち三人は、エイトキャムライの持つ珠の不思議な力の前には、なす術もありませんでした。
 その後、捕らえられた人間たちは、カイング族に運ばれて海に落とされましたが、さんざん溺れたところで助けがきたようです。しかし、猫たちの楽園を侵そうとした罰で、人間の世界でも捕まってしまいました。ジアスたちは、人間の中でも特に悪いやつらだったようです。
 ところで、エイトキャムライですが、それぞれ元の生活に戻り英雄として褒め称えられました。
 なんと、遊んでばかりだったネプチューンがツサばあさんのもとで巫女修行を始めたり、島に新しく訪れたメスの黒猫とプルートとの間に子猫が生まれたりと、いいことずくめです。

 八人のキャムライたちは島を守る英雄としての誇りを持ち、彼らに力をくれた珠を大切に持っていたということです。
 めでたしめでたし。



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