『八猫伝』そのよん
作:璃歌音



「《ジアス》ってなんなのさ? ツサばあさん!」ネプチューンはなおも詰め寄ります。自分がお年寄りは苦手なことを忘れているようです。
「うむ、それはな………………わからんのだよ」
「はあ?」
「おい、ツサばあさんもうちょっと分かるように説明してくれないか? ここには、言語能力が普通の猫より劣っている『ギャル』がいるもんでな」サターンが割り込みます。
「なによ! 『かくかくしかじか』の意味もろくに分かってなかったくせに!」ネプチューンが言い返します。
「それはドドスタンだ!! 俺じゃない!」
「あら? そうだったかしら? ドサン族なんてみんな一緒よ!」
「俺の部族の悪口を言うんじゃねえ!」
「と、とにかく! (とにかくってのも変ね……)えっと、そう! 《ジアス》について分からないってのはどういうことなの? ツサばあさん!」マーズが急いで取り繕います。サターンとネプチューンはまだにらみ合っていますが、言い争いはなんとか終わりました。
「ふむ、わしが《ジアス》について知っておるのはの、時空妖精がうわさしとるのを聞いたんじゃよ」ツサばあさんが答えました。
「時空妖精?」
「そう、時空妖精というのはの、世界中のあちこちに居るんじゃがの……今ここにもたくさんおるよ。じゃがの、なんというか別次元に居ると言えば的確かのぉ、同じ場所なんじゃが、違う場所でもある、時空を超えたところにいるんじゃよ。わしはそんな妖精ののぉ、長生きの賜物なのかのぉ、話を聞けるようになったんじゃ。で、その妖精たちが《ジアス》のことを話しとったんじゃ」
 キャムライの三人は羽の生えたねずみを見つけたような顔をしています。あまりの驚きに何も言葉が出てこないようです。
「えっとぉ、その妖精たちに《ジアス》がなんなのか聞くことはできないの?」マーズが我に返って問いかけました。
「わしは時空妖精の話は聞くだけならできるが、まだ会話することはできんのだよ」
「まだ、ってことは、そのうちできるようになるのか?」サターンが聞きました。
「おお、そうじゃった。もうすぐできそうじゃよ。一人で静かに過ごせるようにしてくれるんだったらのぉ……」ツサばあさんは天井を見上げて言いました。
「じゃあ、さっさとやってちょうだい!」ネプチューンが言うと、
「ネ、ネプチューン! 帰りましょ!」マーズが割り込みました。
「どうして? まだ《ジアス》が何か聞いてないじゃない!」
「バカ野郎! お前は言語能力だけでなくコミュニケーション能力も劣っているのか!」サターンはそう言ってネプチューンを外に引きずり出します。
「じゃ、じゃあね! ツサばあさん。情報ありがと!」
 マーズも急いで追いかけました。

「なんで、出てきちゃうのよ! まだ聞きたいことがいっぱいあるのに!」ネプチューンがわめいています。
「ばか! ツサばあさんはネプチューンがうるさいから早く帰って欲しかったのよ! そのくらい分かりなさいよ!」すごい剣幕でマーズがネプチューンを叱ります。
「ちょ、ちょっとぉ。そんなに怒らなくてもいいじゃない……」ネプチューンは小さくなっています。
「ふぅ、ふぅ、ツサばあさんが怒ったところを見たことがないからそんなことが言えるのよ!」
「ツサばあさんはそんなに怖いのか?」サターンが聞きます。
「怖いなんてもんじゃないわよ……。まぁ、とにかく少しは情報手に入れたんだから、とりあえず今日は帰りましょう」マーズは息を落ち着かせながら言いました。
 その頃、ジュピターたちはどうしていたかというと……

「ぶぅぅぅぅぅ。もう僕は子供じゃないんだぞぉ。砂遊びなんてやってられっかよぉぉ!」ウラナスがまた文句を言っていました。
「手に砂をつけまくってて、そんなこと言ってんじゃないわよ! じゅうぶん泥遊びしてるじゃない! あぁ、うるさい! マーキュリー! このガキを黙らせて!」ヴィーナスは例のごとくヒステリックになります。
「あ、はいはい。ウラナス君! 私となぞなぞをしませんか?」マーキュリーがせかせかとウラナスの世話係をかってでます。というか、押し付けられました。
「なぞなぞ? なにそれ? なにそれ?」ウラナスが興味津々の様子なので、ヴィーナスとジュピターは安心しました。
 彼らの今の状況を少し説明しておきましょう。
 ジュピター、ヴィーナス、マーキュリー、そしてウラナスの四人は、〈おかしなこと〉が起きたイレク湖にやって来ました。イレク湖では、もう島の端の海にたどり着いたかと勘違いするほどたくさんあった水が、一晩のうちにして一滴残らず消えてしまったのです。
 そこで、ジュピターたちは調査を始めたのですが、まだまだ小さいウラナスはなんのことやらさっぱり理解できず、すぐに飽きてしまったとうわけです。
「簡単なクイズです。とっても重いお茶は一体なんでしょう?」
「なんだ、なぞなぞって、ぞなぞなのことか」ウラナスはつまらなさそうな顔をしています。
「え? ぞなぞなってなんですか?」マーキュリーは困り果てています。
「僕たちの間では、そういうクイズのことをぞなぞなって呼ぶんだ。ちなみに、今の答えは『おもちゃ』だろ?」ウラナスもマーキュリーもそれぞれ違う『あきれ果てた顔』をしています。
「あぁ、つまんないなぁ。ただでさえ、ここは空気がみよみよしてるんだから、早く帰りたいよぉ」
「るっさい! 早く帰りたいなら、黙ってて!」ヴィーナスです。
「ちょっと待って! 今、空気がみよみよしてるって言った? それはどういうこと?」ジュピターが突然まじめな顔で聞きました。
「みんなは分かんないの? なんかこの辺の空気はみよみよぉっていうか、びりびりぃっていうか……とにかく気持ち悪い感じなんだよぅ」
「磁場ですね」「磁場だね」マーキュリーもヴィーナスもきちんと納得したようですが、ひとりだけ分かっていない猫がいました。
「え? え? なんで勝手に納得しちゃってるの? ジバってなに??」ウラナスです。
「えぇっと、磁場って言うのは、空気の中にあるみよみよっとしたものの流れみたいなもんで、ここの磁場はみよみよがぐちゃぐちゃなのよ」珍しく、ヴィーナスが説明をつけます。でも、こんな説明でウラナスは理解できるのでしょうか?
「そうか、そういうことだったのかぁ」
 心配は要りませんでした。
「子猫のひげはより敏感だというが、こういう風に活躍するとは……」マーキュリーも感慨深げです。
「さて、〈おかしなこと〉の原因は磁場の乱れだと分かったことだし、これ以上は今はどうしようもないから、いったん引き上げるとしますか。ウラナスももう飽きちゃったみたいだから」ジュピターが言うと、
「やったー! やっと家に帰れる!!」
 ウラナスは大喜びでした。



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