『ケイト・ブロッサムは過去を語る』
作:緑野仁



「ケイトー、お茶を淹れてちょうだい」
「……」
「ちょっと、ケイト?」
「話しかけないでください、エレノア様!」
「……どうしたの?」
「……」
「……ちょっと、ケイト」
「……」
「ケイト!」
「だぁー、話さないでくださいってば! 今いい所なんです!」
「何がよ?」
「アリシア様が公共電波でお話してらっしゃるんです! ……あー、ちょっと聞き逃したっ!」
「……ずいぶんな入れ込みようね、ケイト」
「当たり前でしょう、あのお嬢様がわざわざ外に出向いてお話をしてらっしゃるんですよ! 私が聞かないで誰が聞くんですか!」
「多分、国民の殆んどが聞いてるから大丈夫よ」
「エレノア様は聞かないでよろしいのですか?」
「興味ないもの、どうせつまらない話だろうし」
「甘いですね、お嬢様……例えつまらない話でも、アリシア様が仰られればそれは神のお告げともなるのですよっ!」
「はいはい……ねぇ、あなたっていつからそんな風になったの?」
「はい?」
「だって、そこまで入れ込むのにはきっかけがあったわけでしょう? 一体何があったのよ」
「ああ、そのことですか。……わかりました。このケイト、失礼ながら語らせていただきます」
「えらく畏まったわね。まあいいわ、続けて」
「では。……あれは、私が13歳の時でした」

「メリーちゃん。……メルランちゃん!」
「んぁ? ……あんた誰?」
「だ……! ケイトだよ! ケイト・ブロッサム!」
「ブロッコリー……? そんな人知らないけど」

「ケイトだよ! ケイト・ブロッサム……!」
「んぇ? ……ぅあ、ケイトちゃんか! びっくりしたー、早く言ってよ!」
「さっきから言ってたもん!」
「ああ、ゴメンゴメン。それで、何の用? 前壊しちゃった人形のことははもう謝ったはずだけど」
「うっ……そうじゃなくて、早くしないと稽古始まっちゃうよ! 急がないと!」
「え、もうそんな時間? ……ヤバい、次遅れたらお仕置き一時間だったわ……」
「早く行かないと、メリーちゃん!」
「うん、わかった! ありがとね、ケイト!」
「だから一緒に……って、えぇ! ? 待ってよ、メリーちゃん!」
「今こそたぎれ、私の両足っ! うおりゃああああ!」
「ちょっ、早いよメリーちゃ……ひ、ひどいやメリーちゃん……」

「うぅ、絶対に私だけ怒られる……嫌だなぁ……」
「……そこの一般国民、何をやってるの?」
「え、一般国民? 何ですかその呼び方」
「どうして泣いてるの? 良ければ相談に乗るけど」
「……えーと、お嬢ちゃん? もう帰った方がいい時間だと思うけど……」
「ちょっと、私を誰だと思ってるの?」
「……えーと、どちら様でしょうか」
「……まあ、最近は顔を出してないからしょうがないけどね」
「え、何の話なの?」
「よく聞きなさい。……私の名前はアリシア・エドワール。尊大なる王家の血をひく者よ」
「え……お、お姫様! ?」
「そうよ、わかったかしら?」
「そ、それは失礼なことを! 申し訳ございませんでした!」
「構わないわよ。……それより、何かあったの?」
「え……あ、あのー、とても下らないことなんですけど」
「いいわよ、民の悩みを聞くのも王の仕事だわ。……まだ王女だけど」
「あ、ありがとうございます! ……実は、勝ちたい娘がいるんです」
「ほう?」
「私、武術を習ってるんです。でも、どうしても勝てない娘がいて……」
「ふむ……その娘はどんな娘なの?」
「え? ……えーと、一番の友達です。とても明るくて優しい娘です」
「そう……その娘、そんなに強いの?」
「はい、ものすごく強いんです……何をやっても勝てる気がしなくて……」
「なるほど……でも、私がそれに答えることは出来ないわ」
「え……」
「ここで私が何を言っても、あなたが何かしなければ意味はない。だったら、自分で考えたことの方がやりやすいと思わない?」
「アリシア様……」
「だから、これから貴方が思うことをやりなさい。そうすればきっと強くなれるわ」
「わ、わかりました……あの、それだったら!」
「ん?」
「貴方を守れるような騎士を目指してもいいですか!?」
「……ええ、もちろんよ。待ってるわ」
「ありがとうございます! それではさようなら!」
「ええ、じゃあね。……」
「……お嬢様、お嬢様ー!」
「あら、リディア。どうしたの?」
「どうしたじゃないですよっ! どれだけ心配したと思ってるんですか!」
「別にいいじゃない、近くのケーキ屋に行くぐらい」
「行くんだったら私も連れていってくださいよ! ……あら、誰かいたんですか?」
「ん? ああ、そうよ。……一人の騎士がね」
「騎士、ですか?」

「……今日もやるの、ケイト?」
「ええ、お願いメリーちゃん」
「いいけど……じゃ、行くよ!」
「うん!」
「おりゃっ!」
「っ……!」
「あ、大丈夫、ケイト!?」
「……負けてたまるか」
「え?」
「『騎士』になれるまで……負けるもんか!」
「……もう一回やる?」
「……うん」
「それじゃ、もう一回行くよ!」
「うん!」
「どぉりゃあっ!」
「ぁがっ……!」
「あ、やば……ケイトちゃん? ……ケイトちゃん!?」

「……ケイト・ブロッサム、世話役就任おめでとう。私はメイド長のリディア・ヒスウォードよ」
「お願いします、リディアさん」
「ええ、よろしく。……アリシア様、アリシア様からも一言」
「!」
「ああ、貴方が新しい娘ね」
「……アリシア様」
「ん?」
「私は……『騎士』として、ここに来ました。私の力でお嬢様を守っていこうと思います!」
「……えーと」
「はい!」
「……あなた誰?」

「うわ、きっついわね。さすがはお姉様」
「その後3日ぐらい寝込みました」
「あらら」
「でも……私は、お嬢様を守ろうと思ったのです」
「ふーん」
「ですから! 私は、お嬢様をお守りするためにこうやってラジオを聞いてるわけです!」
「んー、ちょっと理解しかねるわね……でも、良かったの?」
「何がですか?」
「もうラジオ終わったわよ」
「!」
「うわ、文章だけでは表現しきれないすごい顔」
「どうして言ってくれなかったんですか!?」
「いやー、だってジェスチャーまで使って説明してくれるから話しにくくて」
「ああ、なんということ……このケイト、一生の不覚……」
「まあまあ。……ほら、扉の方から物音がするわよ。早く出てきなさい」
「うぅ……お嬢様……」
「たく……」
「……ちょっとエレノアー、いないのー?」
「あら、お姉様?」
「少々お待ちください、アリシア様!」
「……うわ、超高速」

「こんにちは、お姉様……どうしたの、そのケーキ?」
「いや、さっきまでラジオで話してたら司会が気を効かせてケーキをくれてね。一人で食べようとしたらメリーが、エレノアと二人で食べようって」
「そんな大きなケーキ、一人で食べたら確実に太りますよ……」
「ありがとね」
「いえいえ、例には及びません」
「アリシア様、申し訳ございませんでした!」
「ん? 何が?」
「先ほどのラジオですが、つい聞き逃してしまいました! 本当に申し訳ございません!」
「ああ、そんなこと気にしないから別にいいんだけど」
「いえ、このケイト一生の不覚! かくなる上は首を吊って……!」
「ちょっと、何考えてるの? 首を吊るなんて正気の沙汰じゃないわよ」
「ああ、ありがとうございます! このケイト、そのような言葉を頂いただけでも死んでもいいぐらいです!」
「……いっそ殺してやろうかしら……」
「……むー。やっぱり、あの時強く蹴り過ぎて頭のネジが三本ぐらい跳んでいっちゃったのかな?」
「あらメリー、なんか言った?」
「いえ、何でもないです」