『ある騎士の男は夢を見る』
作:緑野仁



 そこは、ここではない何処かの今ではない何時か。一人の騎士が、城の中を歩いていた。

「アラン様! アラン様はどこに!」
「ん? どうした、リディア。そんなに走ると転ぶぞー」
「冗談言ってる場合ではありません! 極秘の事項があります」
「あん? お前がわざわざ来るってことは、アイツが話したいってことなのか?」
「そうです。急いでこちらへ!」

「よう、久しぶりだなぁサラ」
「……久しぶり、と言いたい所だけど今はそんな暇はないわ。よく聞きなさい、アラン。そして、これから言うことは誰にも話さないように」
「おいおい、お前がそこまで言うってことは、相当なモンなのか? しかもわざわざ自分の娘を使うってことは……」
「ええ、これは我らが仕える王家に関わる問題。そのうえ城に仕える者の中でも、私たちのような一部の一族にしか教えられていないわ」 「ったく……で、何があったんだ?」
「……つい先日、皇子の受胎が確認されたわ」
「あ? 別に喜ばしいことじゃねぇか」
「そうね、それが女王の子供だったならば」
「……おい、まさか」
「昨日、一人の女が門の前に立っていたの。話を聞いたら、『私のお腹の中には王さまとの子供がいる』とのことだったわ」
「ちゃんと確認したんだろうな!? 冗談でもシャレにならんが、ホントだったらもっとシャレにならん!」
「ちゃんと『厳正なる王の血を見極める儀式』もやったわ。間違いない」
「……くそっ、どういうことだ!? いつそんなことが出来るって言うんだ!?」
「王のことだから、お忍びで出かけてその時に会ったんでしょう。十分ありえるわ」
「……女王には言ったのか?」
「言えると思う?」
「それもそうだな……くそっ」
「このことが民衆に知れたら大変なことになる。急ぐ理由はわかったかしら?」
「ああ、十分わかったよ。で、その女はどこに居るんだ? まだ城の中にいるんだろ?」
「とりあえず客室で休ませているわ。仮にも王族の子供を抱えてるわけだし」
「会いにいこう。一度話がしてみたい」
「……そうね、行きましょう」

「失礼します」
「!」
「私です、サラ・ヒスウォードです」
「……ああサラさん、こんにちは。そちらの方は?」
「ああ、こちらは同じく王家に仕えるアラン……ちょっとアラン、どうしたの?」
「……え、ああすまんすまん。あまりに女王陛下にそっくりだったもので」
「……」
「ああ……よく、言われます。違うのは目の色だけだとか」
「ああ、確かにあなたの目の色は黒だ。……この国の者では、ないのですか?」
「……ええ。東の方から来ました」
「なるほど……それにしてもそっくりだ。感じる雰囲気までも」
「……アラン、話しすぎよ。すいませんお嬢様」
「いえ、かまいませんよ。畏まった空気は嫌いですし」
「ああ、そこら辺も似てますね。重苦しい空気は嫌いというか」
「アラン!」
「ああサラさん、構いませんよ。むしろ今のこの空気の方が慣れていますし」
「……すみません」
「それでお嬢様、お腹の中の子はいつ頃生まれるのですか?」
「お医者さまの話だと、あと半年だそうです」
「半年、ですか。……お嬢様」
「はい」
「あなたは、その子をどのように育てるつもりですか?」
「……まだ、決めてはいません。ただ、私はこの子がただの子供として育ってほしいと思っています」
「……そうですか。ありがとうございました」
「いえ」
「では、失礼します」

「ちょっと、どうするつもりなの?」
「どうってそのままにするしかないだろう。あの人の子が王家の子だということを隠してしまえば問題ない」
「問題ないって……事はそんなに簡単じゃないわよ?」
「なんとかなるさ。今は待つしかないんだ」
「……本当に大丈夫かしら……」


「失礼します」
「あら、アランさん。今日はサラさんは?」
「仕事で忙しいそうです」
「そうですか。……アランさん、」
「はい」
「あなたには子供がいますか?」
「……いえ、いません」
「そうですか。……アランさん、人って不思議ですよね。何も無いところから命を産むことが出来るんですから」
「そうですね」
「たとえば、脳や心臓はだんだんと作られていく。そこには限界があります。でも、魂は違うんです。魂に限界はない」
「はい」
「私はね、人の性格や記憶なんかは魂に刻まれてるんだと思うんですよ。そして、もし身体が消えても魂だけは自分の意思を持って動き続ける」
「……」
「でも魂は軽いから、上に昇っていく。そして空で私たちを見てるんだと思うんです」
「……」
「だから、もし死んでしまってもそれは悲しいことではない。ただ身体が消えただけのこと」
「そう……ですね」
「でも、……でも、魂だけになってしまえば私たちは何も出来ないんですよね。まだ一人では何も出来ない時は誰かがその手で支えなければいけない」
「……」
「だから……それは、とても悲しいことです。とても」

「明後日だっけか? あの方の出産予定日は」
「ええ。あの変わり者の医者の所に行くために、今日から出かけるらしいわ」
「そうか……無事に産まれるといいんだが」
「……」
「……サラ、お前何か隠してるだろ?」
「え?」
「俺に嘘が通用しないことは知っているはずだぞ。何を隠してる?」
「……」

「病気……だと?」
「ええ、間違いないわ。あの方は生まれつき病弱らしくて、出産に身体がもたないの。生き残れる可能性は少ないそうよ」
「くそっ……そういうことか……!」
「アラン……?」
「馬車を呼べ! まだ間に合うかもしれない!」
「……どうするの?」
「止めるんだよ!」
「……止めるために、お腹の子を殺すの?」
「っ!」
「あなたは、あの人を護るためにお腹の子を流産させるつもり?」
「……!」
「それを、ホントにあの方は望むの?」
「……」
「アラン、」
「……それでも、行くしかないだろうが!」

「おい、じいさん! 手術はどうなった!?」
「……お腹の子は取り出せたぞ」
「……そうか……」
「しかし、母親の呼吸が安定せん。もって後数時間じゃ」
「嘘だろ……!? おい、起きろ!」
「おい、あんまり大声は」
「……アランさん?」
「!」
「アランさん、ですか?」
「ああ、そうだ! アランだよ」
「子供、無事に産めましたよ。命を造り出せたんです」
「っ……なあ、生き残ってくれ! 生き残ってその子を支えてやってくれよ! 頼むから!」
「……アランさん」
「何だ!?」
「すみませんが、その仕事をあなたに任せていいですか?」
「!?」
「大丈夫、あなたなら、きっと……」
「なっ……何言ってやがる! あんたが支えてやってくれよ!」
「……大丈夫です、たとえ身体が消えようとも……」
「おい!」
「魂がきっと……」
「おい、どうした!? 返事をしろ! おい、メリ」



「……」
「おはようございます、アラン様」
「ん……ああ、夢かよ。なんだ、懐かしい夢だったなぁ……」
「朝食の方を用意させていただきます」
「ああ、すまんな。……おお、そうだった」
「何でしょうか」
「アイツを呼んできてくれ。大事な話がある」

「用事はなんでしょうか、お父様」
「……今日はお前の15歳の誕生日のはずだな、メリー」
「まあ、そのはずですが」
「よく聞け、メリー。お前の母親はすでにいない」
「まあ、お父様だけで産むのはもっと不自然ですからね」
「そしてな、メルラン・ランスエロット。……お前の父親は私ではない」
「……え?」
「お前はな、メリー。実は、」