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『鳴海紅音は夢を見る』<緑野仁初掲載記念作品>
作:璃歌音 「ねえねえ! 聞いて! あたし、昨日変な夢見たんだよ」 その日、学校に着くなり話しかけてきたのは、家も隣で親同士も仲が良いという典型的な幼なじみで、なんだかんだで小・中・高と同じ学校に通っている鳴海紅音だ。もちろん、俺はこんな話ではお決まりの幼なじみに対する反応をする。まあ、幼なじみを妙に意識するという恋の予感だけはないのが少し違うところか。 「知らねぇよ、俺、他人の夢の話嫌いだし。意味わかんねぇもん」 「あたしの夢は意味分かるよ!」 「いや、そうじゃなくて」 紅音は俺に構わず話し出す。 あたしはまず、いつも通り授業を受けていた。すると、担任の先生が突然こんなことを言い出したの。 「よし! 今日は六時間全部水泳だ!!」 びっくりしたけど、嬉しかったわ。だってあたし、水泳大好きだもん。で、なぜかたまたまあった水泳の道具を持ってプールまで行ったわ。全校生徒で。もうちょっと少なかったかな?ま、とにかくたくさんで。そしたらね、 女子更衣室に隕石が落ちて壊れてて、しょうがないからみんなで男子更衣室に行って、男子の露骨な視線に耐えながら着替えたわ。他の子は一生懸命タオルで隠してたけど、あたしは堂々と着替えてやった。 で、プールに行ったらね、プールには魚がたくさん泳いでて、一緒に泳いだわ。なぜかプールの中では息できたけどそんなこと知らない。 泳いでたら、あきくんに会ったから、抱きついちゃった。そこで夢は終わり。 「意味わかんねぇだろそれ!!!」 「えーそうかなー」 「うん、全くもって意味わかんない。あー聞いて損した。っつーかなんで最後に俺に抱きついてんだよ」 「だってあたし、あきくん大好きだから」 「知らん!!」 「えー」 そう、こいつは幼稚園の頃から俺への接し方が変わっていない。そのせいで何度俺と紅音が付き合ってると勘違いされたことか。二股かける人なんて嫌い!という理由で、告白した相手に振られたこともある。 「もう朝のホームルーム始まるぞ。自分の席に戻れ」 「はいはい」 紅音はしぶしぶという風に自分の席についた。と、早速後ろの席の長井が俺の背中をつつく。 「朝からお熱いですな」 「うるせぇ、そんなんじゃねぇって言ってんだろ」 「だってほら、あきくんのこと大好き! って」 「だー! 都合のいいところだけ聞き取りやがって。このカスタム地獄耳がっ」 そんなやり取りをしていると、担任の美和子先生が入ってきた。新任の彼女は、生徒と仲良くなりたいらしく着任早々美和子先生って呼んでね!と自分から言ったのだ。体育担当の美和子先生は、新任特有の空回りする頑張りが特に有る。 「あのね、みんな。美和子先生ね、結婚することになりました!」 いきなりのカミングアウトにざわめくクラスを尻目に美和子先生は続ける。 「それで、明日っから新婚旅行に行くのよ、二週間。それで、そんなに長い間自習ってのもかわいそうだなと思って、他の先生方に頼み込んだ結果、気づいたら今日一日全部体育になってました! あははー」 あははー、じゃねぇ!! なんだそれは。無茶苦茶にもほどがあるだろ。っつーか、他のクラスはどうなるんだ。 「あ、だから今日は三クラス合同でやりまーす」 なんにせよ、今日は体育がある日だったので(たまたま三クラスともどこかで体育がある日だった)、持ってきていた水泳の道具を持って、大所帯でプールへ向かう。 プールの前にある更衣室に着くと、更衣室は全壊していた。 呆然とする生徒たちの前に用務員のおじさんが現れて、ほがらかに言う。 「いやー、昨日地震あったでしょ? で、なんかうまーいことここにエネルギーが集中したらしくて。壊れちった♪」 いや、ほがらかすぎるだろ。 すると、美和子先生が切羽詰ったときの表情で、 「で、でも、今日じゃないともうできなくなっちゃうし! うーんと! うーんと! よし! みんなこっちで着替えよう!!」 もちろん、先生が指差したのは男子更衣室である。即座に女子の抗議の声が耳障りなハーモニーを奏でる。 「えー、ありえなーい」 「せ、先生も着替えるからね!」 そう言って、美和子先生が率先して男子更衣室に飛び込み、服を脱ぎだす。慌てた女子たちは、先生がかわいそうだからと、仕方なく男子更衣室で着替えることにした。 と言っても、もちろん女子が男子に見られるところで着替えるわけはなく、どこから持ってきたのか、更衣室には特大のカーテンがひかれた。 カーテンで仕切られた更衣室は、五分の四が女子用、五分の一が男子用ということになった。不条理だ。 どこの学校にも、勇者というものはいるもので、着替え時間の中頃、その一人の勇者がカーテンをひきむしった。もちろん、男子の醜い裸体もあらわになるが、そんなことを気にする勇者ではない。 ほとんどの女子は、カーテンがあるにも関わらず、もしものときのためにタオルで無理矢理体を隠しながら着替えていたので男子たちの思惑は外れるかと思われたが、一人、紅音だけは堂々と着替えていた。しかもなぜかちょうど全裸のタイミングで。 小さい頃から見飽きたはずの幼馴染の裸体は、いつの間にか大人びていて、ちょっと、いや、すごくどきどきした。 「あらら」 当の本人は薄い反応しか見せなかったが、 「なにすんの!」 「信じらんない!」 「サイテーイ!!」 一人の勇者が、集団リンチにあったことは、当然のことであろう。その他の男子は、あいつが一人で勝手にやったんだ、と友を見捨てることで一命をとりとめた。 着替えも終わり、プールに行くと、そこには多種多様な魚が気持ちよさそうに泳いでいた。 「は!?」 プールサイドには理科の柳田先生が居て、 「あれ? 今日プール使うの? あちゃー。いや、ちょっとうちで飼ってる魚たちを広いところで泳がせてあげようと……ね」 なにが……ね、だ。無茶苦茶すぎる。こんなおっさん、即刻教員免許を剥奪すべきではないだろうか。が、先生が何故か持っていた人数分の酸素ボンベをお詫びに貸してくれたので、まあよしとしよう。 その後は、皆さんのご想像通り、魚と一緒に六時間(休憩を挟みつつ)泳いで、最後には紅音に抱きつかれた。 帰り道、紅音と一緒に帰りながら、夢を、それもあんな滅茶苦茶な夢を現実にしやがった紅音を実はエスパーなんじゃないかと疑っていた。 「やー、たのしかったねー」 プールで濡れた髪を乾かしもせずに帰る紅音が振り返ると、紅音の長い髪についた水が太陽の光を反射してきらきらと光った。やっぱりこいつは人間じゃない!なんて思っていると、 「ね、あたしの夢、面白かったでしょ?」 「お、お前、予知能力かなんか持ってるのか!?」 「いやー、たまたまだよぉー」 そう言う紅音の顔はにやけている。怪しい。俺の幼馴染は実は人間ではなかったのか。 ……まあ、それはまた別の話ということで。 |
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