『SHAKKURI!』
作:璃歌音

ー登場人物ー

・時場 礼(30)♀
(ときば れい)
「S-89ウイルスR1型と闘う会」発起人
ちょっといい加減な性格

・時場 守(26)♂
(ときば まもる)
礼の弟
めんどくさがりや

・御刀 麗(?)♀
(みがたな れい)
気位が高く、なんかかっこいい女性

・山河 英子(34)♀
(やまかわ ひでこ)
アル中の元OL
ウイルスには感染していない

・田仲 舞(14)♀
(たなか まい)
不思議な雰囲気の中学生
虎太郎は心の許せる友達。彼氏や彼女という概念は舞の中にはない。

・鮫柳 虎太郎(14)♂
(さめやなぎ とらたろう)
舞の彼氏(?)であると、思っている。でも不安。
名前とは裏腹に、気弱。

・研究員(29)♀
(けんきゅういん) 「国立ウイルスなんかに負けないぞ研究所」の研究員。
ウイルスの感染者全員にワクチンを提供するべきだと主張し続けていた。という背景があるが、劇中では明かされない。
「闘う会」のメンバーにワクチンを持っていくが・・・。


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ナレーター (声のみ)昨年、日本全土に渡り、ある感染症が大流行した。この病気には、全国民が感染したと言っても過言ではない。政府はこの惨状をうけ、大量の資金をつぎこみ、感染症の撲滅に成功するかのように思えた。・・・しかし、国民の九十九%以上がこの感染症から完治したという理由で、政府は感染者への援助を打ち切った。実際は、元々借金だらけの国家の資金が底をついたのだろう。だが、援助が途中で打ち切られたことで、数人の感染者が取り残された。幸い、一度感染すると抗体ができるため、第二次大流行ということにはならなかったが、彼らは一年間、差別、迫害され、辛い生活を送っていた。そこに、ある一人の感染者が立ち上がった。「政府に援助してもらえないのなら、自分達で治すしかない」と、インターネットなどの様々な手段で全国の感染者を集めた。そして今日、都内某所に感染者たちが集結した。自分達の病を自分達の手で治療するべく!その感染症の名はSー89ウイルスR1型。症状はただ一つ、しゃっくりが止まらなくなるということだった・・・ひっく。>
開幕
とある公民館の会議室。守が机につっ伏してぐでっとしている。
礼は特に準備することもないというのに、あたふたと動いている。

守 なーにが「都内某所に集結した。」だよ。ひっく。ギリギリ東京に入ってるだけの町の公民館じゃねーか。姉さん、なんでこんなとこにしたんだよ!
礼 しょうがないでしょ!ここしかとれなかったんだから!ひっく。守もぐでっとしてないで手伝ってよ!
守 なにを?
礼 ほら、机の掃除とか。
守 別に汚れてないよ。(起き上がってつっ伏していた机を見て)むしろ綺麗すぎるくらい。ひっく。
礼 じゃ、会員名簿出しといて。
守 それはもう姉さんが出した。
礼 あれ?そうだっけ。ひっく。…だったら邪魔しないでよ!その辺で寝てれば!
守 さっきからそうしてまーす。姉さんも、もうやることないんだから、静かに待ってなよ。ひっく。
礼 そ、そうね…。

礼、守の隣に座る。が、すぐにそわそわし始める。これはやったっけ、あれはどうしたっけなど
呟きながらあちこちを見回したりする。

守 ひっく。だー!もう!いいよ、姉さんの好きなようにしてろよ!

礼、嬉しそうに意味も無くあたふたする状態に戻る。
守、ため息をついて元の体勢に。

守 そうだ姉さん。ひっく。この会の名前だけどさ、「Sー89ウイルスR1型と闘う会」ってさ、なんか安直すぎない?もうちょっと面白い名前なかったの?ひっく。「闘うかい?」なんて、情けないよ。
礼 じゃあ、ひっく。守が違う名前考えてよ。
守 そうだなあ…「ウイルスバスターズ」とか?

礼、無言で守を見つめる。しばらく守も対抗しようとするが、諦めて

守 「闘う会」でいいです。

礼、にっこりと笑ってあたふた。
と、上手から御刀が颯爽と入ってくる。

御刀 「Sー89ウイルスと闘う会」というのはここで良いのだろうか?ッ。
礼 そうですよ♪えーと、(名簿を見て)ひっく。御刀さんですね。
御刀 ええ、ッ。御刀麗です。
礼 えっ、私、時場礼って言うんです。ひっく。時間の時に、場所の場で時場。れいは礼儀の礼です。同じ名前だなんて、奇遇ですね。
御刀 私は麗しいと書いて麗だ。ッ。貴女とは違う。

御刀、礼を冷たくあしらって颯爽と端の椅子に座る。

礼 はあ…。
守 ぶっ、姉さん、相手にされてねー。(笑)

礼、名簿で守の頭をはたく。

守 痛ってぇ…。(御刀に向かって)あ、弟の守です。ひっく。

しばらくの間。御刀は腕を組み微動だにせず、礼はあたふた、守は痛みで動けない。

御刀 時場さん。
礼/守 はい?
御刀 …「闘う会」という名前を付けたのは、ッ。どちらなのですか?
守 ああ、姉さんです。ひっく。(礼に)やっぱりつまんねーってよ、この名前。
御刀 力強く、とても良い名前だと思います。ッ。
礼 あ、ど、どうも有り難うございます。ひっく。

礼、ニヤニヤしながら守を無言で小突く。
守は相手にしていない。
と、山河が入ってくる。
山河、さっさと椅子に座ってしまう。
いらいらと貧乏ゆすりをしているが、すぐに缶ビールを取り出し、飲む。
礼と守、びっくりして山河を見るが、話しかけられない。
御刀、無視。
と、山河が泣き出す。

礼 ど、どうしたんですか?

山河、泣き続ける。
礼、あたふたと名簿を見る。

礼 えっと、山河英子さん…?ひっく。大丈夫ですか?

山河、泣く。
と、御刀が立ち上がる。

御刀 いい加減、ッ。その軟弱な泣き声を出すのはやめていただきたい。

山河、泣く。
御刀、山河に歩み寄る。山河の胸倉を掴み、立たせる。
御刀の顔は見えず、山河のみるみるおびえていく顔だけが見える。

山河 す、すいません。

御刀、自分の席に戻り、元の体勢に。
山河、椅子にすとんと座る。声を出さずに泣く。

守 …どうかされたんですか?

山河、強く首を振る。
礼、守、顔を見合わせた後、諦める。
山河、ひたすら缶ビールを空けていく。

御刀 時場さん。ッ。
礼/守 はい?
御刀 まだ始めないのですか?

礼、守、時計を見る。

守 あ、もうこんな時間だ。ひっく。
礼 でも…(名簿を見て)ひっく。まだ二人来てないんですよ。
守 まあ、いいじゃん。先に始めちゃおうよ。ひっく。あとの二人もそのうち来るでしょ。
礼 そう…ね。じゃ、始めちゃいましょっか。ひっく。えー、皆さん、本日は
虎太郎 (袖から)すいませーん!遅くなりました!

虎太郎、登場。が、舞台を横断し、すぐにはける。

虎太郎 ちょっと!舞!そっちじゃないよ!ひっく。

礼、虎太郎には気づいているのに何故か無視。

礼 …本日は、「S―89ウイルスR1型と闘う会」第一回対策会議にお越しいただき有難うございます。ひっく
守 え、始めちゃうの?
礼 へ?
守 いや、確実に今の会員だよね。ひっく。参加者だよね。
礼 あ、そっか。

礼、座る。
沈黙。
いつまで経っても虎太郎と舞は来ない。

御刀 いつまで待たせるんだ!

御刀、立ち上がり、虎太郎が走っていった方向に颯爽とはける。
と、意味不明な物音が聞こえてくる。爆発音とか。
少しすると、髪や服がちょっと乱れた虎太郎が何故か無事な舞を連れて登場。
舞は客席の上方を見つめて、にこやかに手を振っている。

虎太郎 すみません。遅れてしまって…
礼 大丈夫大丈夫。えっと、(名簿を見て)鮫島虎太郎君に…田仲舞ちゃんね。座って。
虎太郎 はい。
二人、座る。

守 すげえ名前。やくざかよ。

礼、守を名簿ではたく。

守 痛ってぇ…。

と、これまた何故か無事な御刀がいらいらしながら入ってくる。

守 (頭をおさえながら)御刀さん、何があったんですか。

御刀、守を睨む。
守、萎縮。

礼 (立ち上がって)えー、では、全員揃ったところで、「S―89ウイルスR1型と闘う会」第一回対策会議を始めたいと思います。ひっく。えー、「闘う会」発起人の時場礼と言います。(お辞儀をして、座る)
守 (立ち上がって)弟の守です。ひっく。じゃあ、一応自己紹介を…御刀さんから。(同じく)
御刀 (颯爽と立ち上がって)御刀麗だ。ッ。時場さんの礼は礼儀の礼、私は麗しいと書いて麗だ。ッ。貴女とは違う。(礼を睨む)
守 あ、まだ根に持ってる。

礼、御刀の視線には気づかずに、満面の笑みで拍手。
御刀、諦めて座る。
虎太郎、立ち上がる。

虎太郎 えっと、鮫島虎太郎です。ひっく。よろしくお願いします。(ぺこ)

虎太郎、舞を立たせる。

舞 舞だよ。(座る)
虎太郎 田仲舞です。(座る)
守 じゃ、山河さん…って、どんだけ酒飲んでんですか!!ひっく。

全員、山河を見る。
山河の前には大量のビールの空き缶が。
山河、今飲んでいるビールを置いて、守を見る。

山河 あ、すいません。ういぃ〜っくぅ!お酒大好きなんで。ういぃ〜くぅ!
守 いや、ちょっと飲むの止めてもらえます?

山河、話している間も掴んでいたビールの缶を放す。

山河 (立ち上がる)えっと、ういぃ〜っくぅ。山河英子です。

山河、お辞儀して座る。が、手が震えている。

舞 アル中…。
虎太郎 舞!

山河、泣き出す。

礼 あの…どうしたんですか?
山河 …いっぱいお酒飲んでたら、会社クビになって、ういぃ〜っく、それで余計お酒飲んでたら、しゃっくりが止まんなくなって…。
守 え、ウイルスは?ひっく。
山河 ?
守 姉さん、この人ウイルスかかってない。ここに居る必要ない。
礼 山河さん。
山河 はい?
礼 (にっこり笑って)ばいばい。

山河、飲みかけのビールを飲み干し、空き缶を全部かばんに入れる。
立ち上がって、帰ろうとする。

虎太郎 あ、待って。

虎太郎、しょんぼりとはけかかっていた山河を引きとめ、名刺を渡してなにやら話す。

山河 あ、ありがとうございます!

山河、はける。虎太郎、戻ってくる。

守 なに?
虎太郎 いや、ちょっと仕事のあてを紹介してあげただけです。ひっく。b 守 (礼に)彼、何者?

礼、首を振る。

礼 えっと、邪魔者もいなくなったことだし、さっそくしゃっくりを止める対策を考えていきましょう!!
守 邪魔者って…。
礼 なにか知っている人はいませんか?

沈黙

沈黙

沈黙
と、御刀が書類の束を取り出す。

御刀 私は色々と調べてみたのだが。
礼 おお!さすが御刀さん!

礼、御刀から書類をひったくる。

礼 なになに…。「息を止めて、水をコップ一杯飲み干す。」守!水!
守 了解!

守、はける。すぐにコップに注いだ水を持ってくる。
4つは普通のコップだが、一つだけ異様にでかい(ペットボトル等でも良い)。

守 ごめん、コップが足りなくて。ひっく。

礼、にっこり笑って大きい一つを守に渡す。
守、諦めたように受け取り、残りを全員に回す。

礼 よし、せーの。

全員、一気飲み。舞だけちびちびと飲んでいる。
舞以外飲み終わる。

守 はあ、はあ。止まったかな?

全員、静まる。

舞 (飲み終わって)おいしい。
舞以外 ひっく。(ッ。)
虎太郎 ダメですね…。
舞 ふみゃあぁ〜〜っく!

守、礼、のけぞる。

守 なに、今の。
虎太郎 あ、舞のしゃっくりは変わってるんですよ。ひっく。
礼 あ、しゃっくりなの。…よし、次!「砂糖を飲む」守!砂糖!
守 了解!

守、はける。すぐに砂糖を持ってくる。
全員、砂糖を手に取る。

礼 よし、せーの。

全員、砂糖を飲む。舞だけおいしそうにちびちびなめる。

守 はあ、はあ。止まったかな?

全員、静まる。

舞 (なめ終わって)おいしい。
舞以外 ひっく。(ッ。)
虎太郎 ダメですね…。
舞 ふみゃあぁ〜〜っく!

守、礼、のけぞる。

礼 よし!次!!

暗転

照明がつくと、テーブルの上に「何に使ったんだ」と言いたくなるようなものが色々散乱している。
礼、守、虎太郎は椅子にぐでっと座っている。
舞は煎餅をかじっている。

礼 なんで…?
御刀 色々調べて試してみたんだが、ッ。どれも効果がなかった。
礼/守/虎 言うの遅すぎ!!
御刀 いや、皆さんがあまりに楽しそうだったので。
守 そりゃ、ちょっと楽しかったけど…。ひっく。
舞 ふんみゃあぁ〜〜っく!…あたし、おかーさんに聞いてきたのがある。
礼 (もう舞のしゃっくりには慣れている。)なになに?
舞 (袖に向かって)お願いしまーす。

楽しげな音楽。踊りだしたくなるような。
舞、テーブルの前に来てゆるりと踊りだす。
礼もつられて舞と一緒に踊りだす。
守、虎太郎、テーブルの上に乗って激しく踊りだす。
御刀、颯爽と踊っている。
全員、好き勝手に踊っているが、たまに振り付けが合う。

守/虎 ひゃっほう♪

暗転

照明がつくと、全員がそれぞれ踊っていた場所で、ぜいぜいいってる。そして、ものすごくしゃっくりをしている。
舞だけは席に戻り、煎餅をかじっている。

虎太郎 舞。ひっく。
舞 なにぃ?
虎太郎 この踊り、ひっく。なんか意味あるの?
舞 おかーさんがね、みんなで楽しくなる方法だよって。
全員 趣旨違う!
舞 ふみゃあぁ〜〜っく!

暗転

照明がつくと、テーブルの上が片付けられている。…と、思いきや、隅の床にテキトーに山積みにされているだけ。

礼 えーと、どうしましょう?
虎太郎 みんなでUNOでもやりません?ひっく。僕、持ってきたんですよ。
守 お、いいね。

虎太郎、UNOを取り出し、配る。
全員、わいわいとUNOを始める。

御刀 って、こんなことしている場合ではないだろう!ッ。

全員、びっくりして御刀を見る。

御刀 ッ。S―ウイルスの対策を考えるのではないのかっ!!!
全員 あ、そうだった。

御刀、颯爽と倒れる。

守 御刀さん!?

虎太郎、御刀に駆け寄り、様子を見る。

虎太郎 大丈夫です、とりあえず、もう少しましなところに寝かせましょう。守さん、足を持ってください。
守 わ、わかった。

守、虎太郎、御刀をテーブルに寝かせる。

虎太郎 疲れすぎで倒れただけです。ひっく。しゃっくりを小さくしようと抑えてたせいで、身体に負担がかかっていたんでしょう。
礼 そういえば、御刀さん全然しゃっくりしてなかったよね。ひっく。
守 ひっく。(何度も頷く)
虎太郎 違いますよ。ごくごく最小限に抑えてただけです。ほら、たまにやってたでしょ?ッ。って。ひっく。
守 あれはしゃっくりだったのか!
礼 でも、どうしてそんなことを?
虎太郎 あれですよ、あの、あれ。プ…プ…。
舞 …プライド。
虎太郎 そう!それ!

御刀、がばっと起き上がる。
あたりを見回す。

御刀 ひっく。
虎太郎 あ。
舞 からだが、プライドより健康を選んだんだね。
守 御刀さん。別に、しゃっくりを抑えなくてもいいですよ。みんな、仲間じゃないですか。
御刀 私は、しゃっくりを抑えた覚えはないが。
守 え?
御刀 ちゃんとしたしゃっくりをしたくてもできなかったんだ。それで疲れがたまってたまって。

全員、虎太郎を見る。

虎太郎 あ、なんかちょっと違ったみたいですね。…っと、テレビでも見ません?

虎太郎、いそいそとテレビをつける。

テレビ ここで臨時ニュースが入ってきました。…昨年、日本国民に大流行したS―89ウイルスR1型の抗体が、一年で消えるということが判明しました。国立しゃっくりなんかに負けないぞ研究所は、感染者をただちに探し出し、ワクチンを無料で提供すると発表しました。この緊急事態に、大泉首相は…

テレビの声がフェードアウトする。

守 まじかよ。ひっく。
舞 しゃっくりが…直るんだね。
御刀 ようやく、私たちの苦労が報われるのだな。
守 特に苦労らしい苦労した気もしませんけどね。

全員、笑う。
と、研究員が駆け込んでくる。

研究員 あなたたちが、「S―89ウイルスと闘う会」の皆さんですか?
礼 はい…そうですけど。ひっく。
研究員 ワクチンを持ってきました。ただちに摂取してください。

研究員、全員にワクチンの錠剤を配る。

守 これを…どうすれば?
研究員 飲んでください!

全員、飲む。
舞だけ何故かかじる。
舞以外、飲み込む。

研究員 …どうですか?
礼 (ちょっと考えて)止まった。(守を見る)
守 (同じく)止まった。(御刀を見る)
御刀 (同じく)止まった。(虎太郎を見る)
虎太郎 (同じく)止まりました。

全員、舞を見る。みんなが話している間にかじり終わっている。

舞 ふみゃ、ふみゃ……(ちょっと悲しそうに)でない。
舞以外 やったぁ!

暗転

??? ひっく。


幕。