『ナイトバトル・インザスクール』
作;璃歌音


開幕。
雨の音。
タケル、アイリ、ユキ、トモキが舞台上のいろいろな場所に隠れている。

タケル こちらタケル。2時の方向にターゲット確認。どうぞ。
アイリ こちらアイリ。こちらからも確認。指示を待ちます。どうぞ。
ユキ こちらユキ。前に同じです。どうぞ。
トモキ こちらトモキ。同じく。どうぞ。
タケル よし、全員、所定の位置から狙撃用意!
三人 了解!
タケル ターゲット接近中……。あと3m……2m……1m……今だ!!

四人、物陰から飛び出して、舞台の中心に向かって水鉄砲を構える。
舞台奥から現れたのは朱音。
四人、朱音に向かって水鉄砲を撃つ。

朱音 冷たっ!
アイリ え?誰?
ユキ あ、教育実習の……。
タケル ……!篠崎朱音!
朱音 篠崎先生!……って呼んでほしいんだけどなぁ、もう。…………っていうか、あなたたち、こんな時間になにしてるの!?
ユキ あの、これには訳が……。

すると、足音が聞こえてくる。

トモキ やばい!来た!
タケル えぇ!?い、一旦退却!!
アイリ 了解!あ、先生も早く!

タケル、トモキ、ユキ走ってハケる。アイリも朱音を引っ張って追いかける。
入れ違いに円堂が朱音が現れた場所と同じところから登場。

円堂 んん?誰かいるのか?…………気のせいか。

円堂、窓に近づく。

円堂 しかし、ひどい雨だな……。こりゃ台風か……?

円堂、五人とは別の方向へハケる。
また入れ違いで五人が戻ってくる。さっきとは別の場所。

アイリ 危ない危ない……。朱音ちゃん、大丈夫?
朱音 ええ、大丈夫よ。って、友達じゃないんだから、朱音ちゃんはないでしょう……?
タケル って、おい!連れてきちまったのかよ!!
アイリ え?……んぎゃー!?なんで!?
ユキ あんたが引っ張ってきたんでしょうが!
トモキ これは想定外の事態だ。……どうする?隊長。
タケル おい篠崎朱音!
朱音 はいぃ!……って、だからさー
タケル (遮って)お前は円堂涼眞教諭をどう思っている!?
朱音 え?円堂先生?(終始照れながら)いや、その、ちょっと頼りないっていうか、変わったところもあるけど、優しくて、いい人だなーって。あ、でもねでもね!別に、その、好きとか、そんな感情があるわけでは……ないっていうか……。気になる?みたいな?……んー、っていうか憧れ?っていうのかな。えーでもどうなんだろー?
タケル (適当なところで遮って)ぬ!?こいつはターゲットに好意を抱いている!危険だ!全員、構え!!!

四人、構える。
朱音、慌てる。

朱音 いやー!ちょっと待って待って!撃たないで冷たいのいやこの時期まだ水鉄砲はきついよお願いなんでもするからー!
トモキ 隊長!こんなこと言ってますが。話を少し聞いてやってもいいのでは?
タケル だめだー!そんな甘い考えがあるから、命を落としかねないんだ!感情に流されるな!!
トモキ はい!申し訳ありません!!
ユキ いつまで軍隊ごっこしてんの。(タケルとトモキをはたく)
タケル いや、これ結構楽しくなっちゃうんだよ。だろ?アイリ!
アイリ はいでありますでございますです!隊長様殿!!
ユキ アイリ……。日本語メチャクチャ……。
朱音 それで?君たちなにしてるの?
タケル はっ!おれとしたことが捕虜を野放しにしたまますっかり存在を忘れていた!
朱音 酷い。忘れるなんて。
タケル なんてことだぁぁぁ……!おれはぁぁ、おれはぁぁ……!(空を仰いで)隊長の資格なんてないのかぁぁぁぁぁ!!!!!

ユキ、タケルを思いっきりどつく。

ユキ んー、なんて説明しようか……。よし、トモキ、タケル、アイリ!
三人 イエッサー!

朱音、聞く体勢。
ここから、トモキが円堂役、タケルがタケル役、アイリが黒子として演じる。

ユキ ある日、タケルくんがお友達と、
タケル 「夜の学校って楽しそうだよなー。今度忍び込んでみるかー」
ユキ などと話をしていると、
トモキ 「そんなもん、俺が即刻、とっ捕まえてやるからな」
ユキ 担任の円堂先生が乱入してきました。
タケル 「なにをー!じゃあ、おれたちが学校に忍び込んで一晩中捕まらなかったら、なんかくれよ!」
ユキ と、タケルくんがわけのわからん理不尽でガキっぽいことを言いましたが
トモキ 「よーし、ゲームキューブでもプレステ2でも好きなもんをやろうじゃねーか。ま、無理だろうがな」
ユキ 先生も負けず劣らずガキっぽかったのです。しかも、ちょっと古いのです。
タケル 「っしゃー!負けねーぞぉぉ!!!」
トモキ 「っしゃー!逃がさねーぞぉぉ!!!」

アイリ、二人の目の間を指で指しながら

アイリ ばちばちばちばち!
朱音 あの子は何をしてるの?
ユキ 多分、二人の間を飛び交う火花を表現してるんだと思います。(切り替えて)そんなタケルくんは、本当に夜の学校に忍び込んでしまったのでした。
タケル 「うおーーーーー!!!」

アイリ、タケルの後ろで飛び跳ねながら

アイリ めらめらめらめら!
朱音 あの子は何を
ユキ (遮って)多分、燃える闘志の炎を表現してるんだと思います。
アイリ はあはあ。というわけです。はあはあ。
朱音 う、うん。よくわかったわ。
タケル 絶対ファミコンを手に入れるぞー!!
トモキ うおー!!
朱音 いや、あなたたち何歳よ!?……全く、円堂先生は何を考えてるんだか……。先生はあなたたちが今校舎に忍び込んでること知ってるの?
四人 ……え?
朱音 え、円堂先生はあなたたちがいつ忍び込むか知らないわけ?
タケル 当たり前だ!わざわざ敵に情報を流してどうする!!
朱音 どうりで毎日見張りを買って出るはずだわ……。ずっと警戒してたなんて……。
トモキ タケル、こんなに教えちゃってどうするの?
タケル あ。
アイリ 朱音ちゃんも仲間に入れればいいんだよー。
ユキ あのねアイリ。教育実習生とは言え、先生みたいな立場なのよ?こんなことに加わるはずがないでしょ?
朱音 わたしも入れてちょうだい!
ユキ は!?
朱音 楽しそうだから♪
ユキ いいんですか!?そんなんで?
朱音 楽しそうだから♪

ユキ、絶句。

タケル よし、新しい隊員に自己紹介だ!おれは岡本健!一年五組五番!コードネームはタケルだ!
ユキ そのままじゃん。
アイリ あたしは岡本愛璃!一年六組六番!
朱音 あれ?苗字が同じね……。兄妹なの?でも学年
タケル (遮って)双子だ。
アイリ (間髪いれずに)双子だ。
朱音 双子!?にしては似てないのね。
アイリ ニランセーウインナーなのだ。
ユキ 双生児ね。わかってて言ってるでしょ
トモキ 宮越友樹。六年三組二十三番。コードネームはトモキだ。
ユキ だからそのままじゃん。
朱音 え?六年……?……って、小学生!?いやダメでしょなんで中学に来てるのしかも夜に!
ユキ タケルが誘ったんです。昔からの友達らしくて。
タケル トモキはおれの弟分だ。
トモキ タケルは僕の弟分だ。
朱音 意見食い違ってるけど。

妙な沈黙。
タケル、アイリ、トモキ、ユキを見る。
ユキ、小さく溜息。

ユキ 津川遊希。二年二組十四番。アイリに強引にひきこまれました。
朱音 篠崎朱音。教育実習生。まだまだわからないこともありますが、よろしくお願いします!
トモキ 適応力高いな。さすが大人だ。
ユキ なんか違わない?
タケル よし!篠崎朱音!お前に(間違ったイントネーションで)チョーホーインの任務を与える!
朱音 はい!……って、え?もっかい言って?
タケル 任務を与える!
朱音 いや、その前。
タケル (また違ったイントネーションで)チョーホーインの!
朱音 は、はい?
ユキ (見かねて)諜報員!!スパイですよスパイ。
朱音 あ、なるほど。……どういうこと?
トモキ ターゲットに近づいて情報を手に入れてくるってことだ。
朱音 なるほど!了解しました!!

朱音、走り去る。

アイリ 行っちゃった。
ユキ あの人、スパイにはあんまり向かないんじゃない?
タケル ま、なんとかなるだろ。よし!おれたちは早速次の作戦を準備しよう!次は円堂にたらいを落としてやるか!!
トモキ でもあれって、音のわりに痛くないらしいよ。
アイリ じゃあさ、美術室の変な彫刻落とそうよ。ごてごてしたやつ。
タケル・トモキ いや、それは死ぬ。
ユキ あのさ、なんでわざわざ先生にちょっかい出しに行かなきゃいけないの?こっそり隠れてれば簡単に乗り切れるんじゃない?

沈黙。
タケル、アイリ、トモキ、お互いにゆっくりと顔を見合わせる。
しばらくした後、ぽかんとした顔でユキを見る。

ユキ あ、なんか言っちゃいけないこと言っちゃった?
タケル …………あー、えっと、あれだ。えー、そのー、こそこそしてたらな、そのー、卑怯……だから……な。あー、正々堂々とな、えー、戦ってやろう……と……。やろう……と……。

何かを必死にこらえている様子のタケル。
と、耐えられずアイリにしがみついて

タケル ちくしょー!
アイリ うんうん、悔しいときは泣けばいいさ。泣きなさい。人間だもの。
タケル うわーん!
ユキ あの、なんかごめんね!まさかこんな、こんなことになるとは思わなかったからさ!
トモキ なあ、タケル。

タケル、泣き止む。

タケル ん?
トモキ こそこそ隠れて勝ってもさ、つまらなくない?
タケル ……それだーーーぃ!!!
ユキ ぬおう!びっくりした……。
アイリ びびったぁ……。
タケル そうだよそれ!せっかくこんなことやってんだ!楽しまなきゃ!!
ユキ ま、まあ、立ち直ってくれてなによりだよ。
タケル よし!作戦を練るぞ!なにを落としてやろうかなー。
アイリ あ、屋上から落とす?……先生を。
三人 いや、それは死ぬ。

暗転。

照明。円堂と朱音が登場。

朱音 つまり、タケルくんたちが円堂先生に挑戦して、いろいろ仕掛けてくるつもりみたいです。
円堂 うん、説明はよくわかったが、それを全部ばらしちゃっていいのか?君は一応スパイということになってるんじゃないのかい?
朱音 ……あ。
円堂 ま、教師としては正しい選択だとは思うけどな。
朱音 あー、わたし、嘘つくの下手なんですよね。結局、気づいたらホントのこと喋っちゃうんです。
円堂 君の性格のおかげで助かったよ。危うくプレステを買うことになるところだった。よし、返り討ちにしてくれる……!(にやり)
朱音 あの、その件なんですけど、あの子達が欲しいの、プレステとかじゃないみたいですよ。
円堂 なに!?Xbox360か!?あいつら、遠慮ってもんを知らねぇな……。
朱音 (小声で)意外に詳しいのね。(普通に)いや、そうじゃなくて、ファミコンだそうです。
円堂 …………え?なに?
朱音 ファミコン。
円堂 (恐れおののいて)ふぁ、ふぁ、ファミコンンンンンン!?なんてこったぁ……、今時ファミコンなんて逆に手に入れづらいじゃねぇかぁ!!タケルのやつ、予想以上にたちが悪いな……。これは負けるわけにはいかねえ……。
朱音 あ、あの子達はそれを狙ってたのかぁ。あくどいなぁ……。
円堂 これは充分に対策を練っておく必要があるな。……朱音ちゃん!
朱音 はい!
円堂 あいつらは、どういう手段で攻撃しようとしてた?
朱音 えっと、わたしが先生と間違われたときは、水鉄砲で撃たれました。
円堂 ガキか!
朱音 ガキです。
円堂 ああ、そうだった。考えることはあくどくても、所詮まだ中学生。たいしたことはできやしないんだ。
朱音 そうですよね。水鉄砲なんか使ってくるところを見ると、まさか肉弾戦をしかけてもこないでしょうし。
円堂 ……待てよ。確か、アイリは空手かなんかやってたはずだな。
朱音 え゛。
円堂 これは、戦闘シュミレーションもしておくべきかもしれないな。朱音ちゃん、よろしく。適当に攻撃してきて。

円堂、朱音と距離をとる。

朱音 は!?戦闘!?シュミレーション!?いや、あの、なに言ってるんですか?先生?
円堂 全力でよろしく。(爽やかな笑顔で)
朱音 いや、全力とか言われても……。

戸惑っている朱音を格闘ゲームっぽく挑発する円堂。
しぶしぶファイティングポーズをとる朱音。
だいぶ遠慮がちなパンチをうつ。
その拳をつかんだ円堂、声色を変えて、

円堂 ……ぬるいな。お前の全力はその程度か。
朱音 こ、こいつ……強い……!!
円堂 (溜めて)……さあ、せいぜい俺を楽しませてくれ。
朱音 (溜めて)オレは……オレは……オレを信じてくれるみんなのために…………負けちゃいけねぇんだ!!!!!

一旦身を引いた朱音、今度は全力で殴りかかる。
円堂、軽くかわす。
朱音、再びパンチ。
円堂、軽くあしらう。
朱音、三度パンチ。
円堂、同じく。
変化をつけながらしばらく繰り返す。(出来れば蹴りも取り入れて)
それっぽいセリフもつけたりつけなかったりで。

ある程度闘った後、疲れ果てて仰向けに寝転がる朱音。
間。
円堂、ゆっくりと歩み寄る。

円堂 …………朱音ちゃん。
朱音 (息切れしながら)……なんですか!
円堂 …………練習相手にならないや。
朱音 でしょうね!

暗転。

照明。舞台には少年少女四人組。
思い思いの場所(タケルは床に限る)に座って話し合っている。
ユキは椅子に座ってうつらうつらしている。
タケル、急に仰向けに倒れて、

タケル あー、だめだ。どーしてもいい作戦が思いつかない。
アイリ 天井が迫ってきて押しつぶされる。
トモキ いやだから死ぬって。っつーか、どうやって天井なんか動かすんだよ。
アイリ んー、念じる?
トモキ エスパーか。
アイリ はいぃ〜。
トモキ エスパー伊東か。
アイリ じゃあ……壁が迫ってきて押しつぶされる。
トモキ だから死ぬってば。結局同じようなことだし。どう考えても無理だろ。 
アイリ はいぃ〜。
トモキ 言わないよ?
アイリ んじゃ、調理室の調理器具を投げつける。えいやって。
トモキ 死なない方がおかしいよね、それ。ねえ、なんでそんな物騒なことしか思いつかないの?殺したいの?先生を。
アイリ (すごく真剣に、半泣きで)そんなことない!!先生死んじゃやだ!
トモキ ただの天然か……。

タケル、むくっと起き上がって

タケル ユキ?
ユキ (起きて)え?あ、ごめん、なんか言った?
タケル なに寝てるんだよー。ユキも考えろよー。
ユキ ごめんごめん。うーん……。

うつむくユキ。
沈黙。全員ユキの方を見ている。
沈黙。

トモキ ユキ?
ユキ (起きて)え?あ、ごめんなんか言った?
三人 もぉー!!
ユキ ごめんて。眠いんだもん、しょうがないじゃん。んーと、こんなのはどうかな?今日、すごい雨でしょ?で、どっかの窓を開けまくって、先生に全部閉めさせる!
タケル …………それ、ダメージあるのか?
トモキ あんまり意味なさそう……。
ユキ そうかなぁ……。

ユキ、立ち上がって、窓の一つを開ける。ジェスチャーでも良い。
ものすごい暴風雨の音。

タケル うわっぷ!わ、わかった!わかったから閉めて!!

ユキ、窓を閉める。
音が止む。

アイリ よし!次は、『窓を開けまくって廊下を台風状態にしちゃおう!作戦』だよ!
タケル あ、勝手にまとめんなよー。

暗転。
照明。円堂、朱音がやってくる。
二人、舞台端で、

円堂 よっしゃあ!なんでもこい!!
朱音 頼もしいですね。
円堂 (ポーズは変えずに、ぼそりと)ホントは不安で仕方が無い。
朱音 …………。

風の音。

円堂 なんだ?

二人、舞台中央へ。
四人組が物陰に隠れている。
風の音が強くなる。
よろける二人。

朱音 きゃ!なんですかこれ!?
円堂 み……水!?そうか、窓が開いてるんだ。

円堂、必死に歩いて窓を一つ閉める。
しかしなにもおこらない。

朱音 か、変わりませんね……。
円堂 んん??うわっ、廊下の窓が全部開いてるよ。誰がこんなことを……って、あいつらしかいないか。ぬわっ!!

円堂、ころぶ。

朱音 大丈夫ですか?
円堂 な、なんとか……。早く閉めないと……。

歩き出す二人。が、なかなか進まない。
行きつ戻りつ窓を閉め、転んだり踊ったりしながら結構な時間をかけて窓を閉める。
その間、二人の一挙一動に爆笑する四人組。
二人はなんやかんやで面白い動きをする。

窓を閉め終わる二人。
風の音が止む。
こっそりとハケる四人組。

円堂 はあ、はあ、はあ、はあ……。
朱音 はあ、はあ、はあ、はあ……。
円堂 どうも……すいません……手伝わせちゃって……。
朱音 え?……いや……大丈夫……です。わたしも……つきあいます……よ。

軽く咳き込む円堂。ちょっと回復。

円堂 あいつらを探しましょう。俺はこっちに行くんで、朱音ちゃんはあっち。
朱音 了解です。

二人、ばらばらの方向にハケる。
暗転。

照明。
舞台には、四人組と朱音。

朱音 もう……一応わたしも仲間みたいなもんなんだから、なにをするのか言っといて欲しかったな……。
アイリ ごめんね朱音ちゃん。
トモキ でも、朱音がいきなり円堂先生を連れてきちゃうからだぞ。説明してる暇なんて無かったじゃないか。
朱音 あ……。すいません。
タケル よし!次の作戦だ!ユキ!
ユキ ん?

タケル、笑顔。

ユキ ……いや!もう思いつかないよ?あんなのたまたまだもん!
三人 ちぇっ!!
ユキ 他力本願か!
朱音 あ、わたし考えたんだけどさ。
アイリ お、朱音ちゃん!ガッツあるねー♪
朱音 えへへー。どうも♪……あのね、さっき用具室で床掃除用のワックス見つけたの。あれってさ、乾くまではものっすごいすべるでしょ?だからそれを床にどばーっと!!
タケル おお!でかしたぞ篠崎朱音!!よし!早速ワックスを取りにいこー!!

歩き出す五人。

トモキ あ、ただ転ばすだけじゃつまんないからさ……

暗転。

朱音 先生、こっちですこっち。
円堂 次の仕掛けが?
朱音 はい!……あ。
円堂 やっぱりスパイには向いてないな。まあ、いいことかもしれんが。
朱音 はあ。まあいいか、健闘を祈ります!!
円堂 よっしゃ!

照明。朱音と円堂が登場。
朱音、舞台端で待機。
ずんずん進む円堂、派手にすっころぶ。

円堂 のわう!!
朱音 ありゃま盛大に……。大丈夫ですかぁ?

うっかり近づく朱音、すべって座り込む。

朱音 きゃう!……う〜。
円堂 また手の込ん……だ!!

立ち上がろうとした円堂、また転ぶ。
その繰り返し。
どこからか四人組、笑いながら登場。できれば少し高い位置で高みの見物っぽく。

タケル やい円堂!!どうだワックス地獄は!!
円堂 (立っては転びを続けながら)おお……こりゃまた面倒なことを……して……くれたな。
トモキ よっしゃあ!
円堂 誰だお前。
タケル おれの弟分のトモキだ。
トモキ タケルが僕の弟分だ。
円堂 意見食い違ってるんだが。
タケル いいから早く立てよ!
ユキ すいませんけどお願いします。
円堂 腰低いな……って、津川か!お前もいたのか。
ユキ あ、はい。アイリに強引に……
アイリ 先生頑張れー!
円堂 態度違いすぎだろ。
タケル いいから早く立てよぉ!
円堂 わかったからちょっと待てって!

円堂、なんとか立ち上がりバランスをとる。
周囲、歓声をあげる。

円堂 立ったぞ!なんだ!
タケル お、おお〜……ふぅ。

急にバラエティのノリで。

アイリ さあ!始まりました!今回のゲーム!
トモキ ワックスでつるつるすべる床の上でモノマネをしていただきます。題して!
アイリ・トモキ つるつるモノマネゲーム!!
円堂 モノマネぇ!?
アイリ ではトモキくん!最初のお題はなんですか?
トモキ はい!最初のお題はぁ……
アイリ どぅるるるるるるるる……じゃじゃん!
トモキ キリンです!!

沈黙。

トモキ キリンです!!
ユキ いや聞こえてるよ!?
朱音 また微妙な……。
ユキ キリンのマネなんてどうすりゃいいわけ?
タケル (いきなり大声で)きりーーーんんん!!!
ユキ ごめんね!ごめんね放置してて!でも無理矢理ボケなくていいからね!
タケル おぉ…………ふぅ。
円堂 よし、任せろ。
ユキ え、できんの!?
円堂 行くぞ。

一同、見守る。

円堂 (低い声で)麒麟です。
全員 そっちかい!!
トモキ いやー、まさかこっちの麒麟でくるとは。どうですかアイリさん。
アイリ この選手はなかなかやりますね〜。応用力があります。
トモキ 素晴らしいパフォーマンスでした。それでは、次のお題です!
アイリ どぅるるるるるるるる……
タケル ナチュラルに続けたな。
アイリ じゃじゃん!
トモキ ビートたけしです!!
アイリ おっとここで定番のモノマネですね。
トモキ はい。特徴を掴みやすいですからね。
円堂 よし。
トモキ おっと準備が整ったようです。では、どうぞ!
円堂 (微妙な出来で)このやろー!ダンカンこのやろー!

沈黙。
朱音のみ小さく拍手。

トモキ それでは次のお題です!
ユキ 触れたげて!かわいそうだから!
アイリ どぅるるるるるるるる……
ユキ ああ、流された……。
タケル なあ、これワックス意味あるか?
ユキ ……ないかも。先生普通に立ってるし。
アイリ じゃじゃん!
トモキ マイケル・ジャクソンです!!
ユキ お、これは動きが大切だね。
タケル やっとワックスの本領発揮だ。
トモキ では、どうぞ!

円堂、ムーンウォーク。
朱音、拍手。(以下、円堂のモノマネのあとは毎回拍手する。)

ユキ あ、結構できてる!!
タケル ワックスだからね。
ユキ そうだった……。
円堂 ポウ!
トモキ なかなかやりますね。それでは次に参りましょう!
アイリ どぅるるるるるるるる……
タケル アイリの役目がドラムロールだけになりつつある。
アイリ じゃじゃん!
トモキ キムタクです!!
ユキ え、え〜。
タケル なんだよユキ。
ユキ え。いや、キムタクなんて言ったらさ、どうせ「ちょ待てよ!」って言うだけでしょ。なんだかなって……。
トモキ それでは、どうぞ!!

円堂、ギャッツビーのCMの踊り。

円堂 あんあぁー、えんえんうーぎゃーつびー。ぎゃーつびー♪
ユキ それかい!しかも微妙に完成度が高い!
タケル 別にあの歌はキムタクが歌ってるわけじゃないんだけどね。
トモキ 素晴らしい健闘です!それでは最後に!フリィーーーータイム!自分のこれだ!というイチオシのモノマネをしていただきます。
アイリ はい!
ユキ あ、ついにアイリの言うことがはい!だけになった。
円堂 よっしゃ!
トモキ では、どうぞ!!

円堂、溜めて

円堂 俺、参上!(他のでも良い。マニアックなもので。)

沈黙。

全員 ごめん、わかんない。

暗転。

照明。袖から朱音と円堂登場。

円堂 まったく……。あれじゃあとで掃除が大変だろーが。誰が考えたんだあんなこと……。
朱音 あ、あはは……。

すると、どこからか変声機を使った低い声が聞こえてくる。

??? やあ、円堂くん。ようこそ。謎の館へ。
円堂 あ?ただの教室だぞ?
??? ち、違う。謎の館だ。君にはこれから全部で十の謎を解いてもらう。全ての謎に答えられなければ、そこからは出られない。
朱音 え?出られない?

朱音、扉を開けようとする。が、開かない。

朱音 開きません!!
円堂 ちくしょう……。どっから喋ってんだ……。
??? では、第一の謎。
円堂 放送室か!
アイリ(声のみ) あったりー♪
タケル(声のみ) おい!わりこんでくんなよ!これから問題だすのに!
トモキ(声のみ) タケル、ボイスチェンジャー。
タケル あ!!あ〜、アイリのせいで正体ばれたじゃねぇか〜。
円堂 いや、最初からわかってたが。
朱音 なんでこっちの声が向こうに聞こえてるんでしょう?
円堂 ……。

部屋を歩き回る円堂、携帯電話を見つける。

円堂 これだ。
朱音 あ、これでずっと通話状態にして……って、通話料とんでもないことになりませんか!?
??? 家族間は24時間通話無料なのだ。
円堂 ……アイリの携帯か。向こうで聞いてるのがタケルの。っていうか、もうそのボイスチェンジャー要らなくないか?
??? う、うるさい!
ユキ(声のみ)気に入っちゃったみたいです。
??? だ、第一の謎!!
円堂 はいはい、どうぞー。
??? (もったいぶって)はパンでも、食べられないパンってなーんだ?
円堂 (すかさず)フライパン。
??? ぐ……正解。おい!簡単すぎるよ!もっと難しいやつ!
アイリ えー、ちょっと待ってよー。

ページをめくる音。

円堂 なぞなぞの本でも使ってんのか?
朱音 おそらく。
??? よし、では、第二の謎。
円堂 おう、なんでも来い。
??? 十階建ての駐車場がありました。でも、車が停まれない階があります。それは何階でしょう?
円堂 九階。
??? なぜ?
円堂 車は急に止まれない。
??? ……正解。
朱音 (独り言)車は急に止まれない……急に……。9に停まれない!あ、すごい!
??? 第三の謎。松坂とイチローが夢の対決。どっちが勝ったかな?
円堂 イチロー。
??? なぜ?
円堂 どっちが勝ったかな。
??? ……正解。
朱音 (独り言)どっちが勝ったかな?……勝ったかな……勝ったかな……カッタカナ!カタカナ!わー、すごい!
??? …………。
円堂 なんだ?もう終わりか?
??? ちょっと待てよ!今探してるんだよ!!
円堂 先に決めとけよ……。
??? あ、これがいい!第……第……なんだっけ?
ユキ 四。
??? あ、そうだ。第四の謎。目は十七個、口は六つ、鼻が三つで耳が一つ、腕は七本、足は一本、これな〜んだ?
円堂 化け物。
??? ……正解。
円堂 どんな本使ってんだ!?
朱音 なんだかな〜。
??? こ、ここからが本番だ!第五の謎!そこにあるスケッチブックを見て欲しい。
円堂 スケッチブック?
朱音 あ、これですね。

朱音、机の上からスケッチブックを取る。一緒にペンも。
円堂、スケッチブックを開く。
そこに書いてあるのは「1・4/0・3/4:5/1・3/6・1/4・1/8・3/9・2/5・1/1・2」という文字。

??? それを解読せよ。
朱音 なんですかねこれ。
円堂 …………。
朱音 先生?
円堂 わかった。
??? え、もう?
円堂 うるせぇな!
朱音 どういうことですか?
円堂 説明しよう!これは、それぞれの数字が五十音の行と段を表しているんだ。例えば、最初は1・4か。これは、1だから一行目のあ行。4は四段目のえ段ってことだ。つまり、「え」。

円堂、スケッチブックの数字の下に「え」と書き込む。

朱音 あ、ホントだ!すごい!
円堂 その法則に従って解いていくと……

円堂、スケッチブックに書いていく。

円堂 そう!え・ん・ど・う・は・た・よ・り・な・い……ってうるせぇな!!
??? くそぅ……。次!第六の謎!スケッチブックの次のページを見ろ。
円堂 え、なに、スケッチブックシリーズに突入したの?

円堂、言いながらめくる。
「YMW○HMS」

??? まるに当てはまる記号を答えよ。
円堂 なんだこりゃ!?
朱音 あれ、珍しく先生がわからないんですか……?
円堂 んー、英語は苦手だ。
朱音 え、先生、英語担当でしたよね。
円堂 あれ?そうだったっけ?
朱音 全く……。なんでしょうこれ?
円堂 う〜ん。
朱音 う〜ん。
円堂 う〜ん。
朱音 う〜ん。
円堂 うぅ〜ん。
朱音 うぅぅ〜ん。
円堂 ううぅぅ〜〜ん♪
朱音 ううううううう〜〜〜〜〜〜〜〜ん…………。
円堂 やばい、間がもたん。
朱音 あ!
円堂 お!わかった!?
朱音 違うなぁ……。

円堂、こける。

朱音 んあ!
円堂 今度もぉ……?
朱音 違う……。

円堂、再びこける。

朱音 んぎゃぱ!
円堂 なんて?
朱音 これ、時間じゃないですか?
円堂 時間?
朱音 year、month、week、hour、minute、second。段々単位が小さくなってるんです!
円堂 年、月、週、時間、分、秒か。……じゃあ、まるは?
朱音 えっと、dayだから、Dです!!
円堂 なるほど!さすがは英語の先生だ!……あ、まだ先生じゃないか。

朱音、嫌な目つきで円堂を見る。
円堂、それには気付かない。
スケッチブックの○の中に「D」と書き込む。

円堂 わかったぞ!Dだ!!
??? 正解……。第七の謎。燃えるゴミと燃えないゴミが混ざってしまったゴミ袋があります。
円堂 ご、ゴミ?
??? そこから、燃えるゴミは燃えるというシールを貼った袋、燃えないゴミは燃えないと貼った袋に分けていきました。まだ分けていない袋にはまだというシールを貼っておきます。すると、ちょっとトイレに行っている間に近所の悪ガキにシールを貼り替えられてしまいました。
円堂 なんでなぞなぞでちょっとトイレに行くんだよ。妙にリアルだな。
朱音 そのくせ近所の悪ガキって……。今どきそんなの居ないわよ。
??? あの……ちょっと……静かに……
円堂 ああ、すまんすまん。続けてくれ。
??? シールはすべて張り替えられました。どれか一つの袋から一つだけゴミを取り出して、正しいシールに張り替えるにはどうすればいいでしょう?
朱音 え、ゴミを取り出すの?やだなあ……。そんなことしなくてもさ、加須(他、ゴミの分別がルーズな地名を)に持っていきなよ。あそこ分別要らないから全部まとめて捨てられるよ。
円堂 大体、なんでシールなんだよ。ゴミ袋なら燃えるゴミとか印刷してあるやつがあるだろ。
??? ……。
ユキ あの、なぞなぞなんで、あんまり深く考えないでもらっていいですか?……タケルがすねるんで……。
円堂 ああ、わかったよ面倒くさいな。
朱音 えっと、どれか一つを取り出して、正しいシールにするんでしたよね。
円堂 簡単だろ。適当に一つ取り出してそれが燃えるゴミならその袋は燃えるゴミで燃えないゴミなら燃えないゴミ。
朱音 「まだ」かもしれませんよ。
円堂 あああああ!めんどくせ!
朱音 順番に考えてみましょうよ。まず「燃えるゴミ」って貼ってある袋。これは、「燃えないゴミ」か「まだ」の可能性があるわけですよね。

朱音、言いながらゴミ袋を持ってくる。
袋には「燃えるゴミ」と書いてある。

円堂 って、どこから持ってきたんだ?その袋。
朱音 そこにありました。

朱音が指差す先には「燃えない」と「まだ」の袋。

円堂 あいつら案外優しいな。

円堂、残りの袋を持ってくる。
朱音、「燃える」からゴミ(紙くずか何か)を取り出す。

朱音 これが、燃えるゴミだったらこの袋は
円堂 「まだ」
朱音 燃えないゴミだったら
円堂 「燃えない」
朱音 「まだ」かもしれません。
円堂 ああ……。
朱音 次行きましょう。「燃えないゴミ」の袋。

朱音、持っていたゴミを「燃える」に戻し、「燃えない」からゴミを取り出す。

朱音 これが燃えないゴミだったらこの袋は
円堂 「まだ」
朱音 燃えるゴミだったら
円堂 「燃える」
朱音 「まだ」かもしれません。
円堂 ああもう!めんどくせい!!
朱音 同じこと繰り返してますけど。
円堂 次だ次!!

朱音、「燃えない」に戻し、「まだ」から一つ取り出す。

朱音 これが燃えるゴミだったらこの袋は
円堂 「燃える」

円堂、朱音を伺う。
朱音、ちょっと悩んだ後、にこやかにうなずく。
円堂、安心。

朱音 燃えないゴミだったら
円堂 「燃えない」

同じことの繰り返し。

円堂 お?……きた!!
朱音 はい、限定されました!
円堂 えっと、これが燃えるゴミの場合は燃えないゴミで燃えないゴミなら燃えるゴミで……んああ??

混乱する円堂。

朱音 先生!一つ一つやっていきましょう!一つ一つ!
円堂 お、おう。
朱音 燃えるゴミが出てきたら、これは燃えるゴミの袋です。
円堂 おう。
朱音 そしたらここに「燃える」を貼ります。

朱音、「まだ」をはがして「燃える」を貼る。
「まだ」は手に持ったまま。

円堂 おう。
朱音 そしたら……。

朱音、持っているシールとゴミ袋を見比べて考える。

朱音 あ!全部が貼りかえられてるから、そのままスライドして……。

朱音、「まだ」と「燃えない」を入れ替えて、「燃えない」が貼ってあった袋に「まだ」を貼る。

朱音 できた!
円堂 できた!
朱音 逆の場合も成り立ちます……よね。
円堂 ……そうだな!できた!
朱音 できたよ!タケルくん!
??? ……正解だ。
円堂 あといくつだ?
朱音 今のが第七だったから……三つです。
円堂 あと三つ??めんどくせぇなぁ……。おーい、さっさと出せよー。
??? ちょ、ちょっと待て。

ページをめくる音。

円堂 準備してなかったな。解けないと思ってたか。
??? 第八の謎。あんぱんと食パンとカレーパンを呼びましたが、返事をしたのは一人だけです。さて、誰でしょう?
円堂 パンを人で数えるのはおかしいだろ。もういっそ全部に「マン」つけろよ。
アイリ あんぱん♪食パン♪カレーパン♪
ユキ (諭すように)アイリ。
朱音 食パンマン!
??? マン要らない。……なぜ?
朱音 耳があるから。
??? ……正解。第九の謎。上は洪水、下は大火事、これな〜んだ?
朱音 お風呂。
??? ねえ、なんでこんな簡単に当てられちゃうの……?
トモキ タケル……それ、初級編。
??? え?あぁ!もう……。こうなったら!……最後の謎。一番新しいポケモンといえば?
円堂 は!?ポケモン!?
朱音 いきなりなぞなぞじゃなくなったけど!
円堂 んんん?わっかんねぇなぁ……。
朱音 最近のはわかんないなぁ……。
円堂 あ、あれじゃねぇか?ミュウツー!
朱音 古っ!!
??? (嬉しそうに)不正解だ。
朱音 あ、ちょっと待って!今のなし!!
??? そのまま朝までそこで過ごすんだな。
アイリ え!?そんなのかわいそうだよ!
??? え、いや、だって……。
アイリ あたし開けてくる!
??? おい、アイリ!

足音。
がたがたという戸を開ける音に続いて。アイリ登場。

アイリ おつかれさまー♪
朱音 あ、どうも……。
円堂 やっと見つけたぞ!
アイリ あ。

アイリ、逃げる。

円堂 待てい!

円堂、追う。

アイリ きゃー♪

アイリ、円堂、ハケる。
が、すぐに円堂だけ戻ってくる。

円堂 逃がした……。
朱音 あの子足速っ!!

暗転。

照明。舞台には四人組。

タケル アイリー。あれじゃ意味無いじゃんかー。
アイリ ごめんねー。(あんまり聞いてない)
タケル 反省して無いだろ……。
アイリ あ、お菓子持ってきたけど、食べる?
三人 食べる!!
アイリ んーと、どこにやったかなっと……。

アイリ、物陰からリュックサックを取り出す。
リュックサックからは次々とお菓子が出てくる。
アイリが全員にお菓子を配り、皆お礼を言って受け取る。
黙々と食べる一同。

トモキ 他には何があるの?
アイリ んーっとねぇ……(リュックを探る)

タケル、トモキの隙を突いてトモキのぶんのお菓子を奪う。
振り返るトモキ、自分の前のお菓子が減っているのに気付く。

トモキ あれ?……おいタケル!僕のぶん食べただろ!
タケル ふぁめれまい!(「食べてない!」と言っているつもり)
トモキ 返せー!
タケル ふぃやらー!(「いやだー!」

トモキ、タケルを追う。
タケル、逃げる。

アイリ あー、待ってよー!

アイリもなぜか追いかける。

ユキ あ、ちょっとアイリ!

ユキも追う。
全員ハケたところに、円堂と朱音がやってくる。

朱音 あのー、
円堂 ん?
朱音 先生は、どうしてあの子達に付き合ってあげるんですか?教師としては、やめさせるべきなんじゃ……?
円堂 そうなんだろうけどなー。なんていうのかな。あいつら見てると、子供ってのは、こうあるべきなんだろうなって思えるんだよ。
朱音 どういうことですか?
円堂 あいつらはさ、性別も年齢も隔たりなく接してるだろ?
朱音 そういえばそうですね。

舞台の後ろを騒ぎながら走り回る四人組。
円堂たちの居る場所とは違うところという設定で。
円堂、上手に座る。

円堂 今どき、クラスの中でも男女は別の空間にいるみたいでさ、全然関わろうとしない奴らばっかりだろ?
朱音 ……まあ、そういう子が多いですね。
円堂 同学年としか遊ばなくて、妙に先輩後輩とか気にする。まあ、学校側がそれを強制してるようなところもないけどさ。
朱音 ええ。
円堂 俺はさ、子供にまだそんなこと考えて欲しくないんだよね。そのうち、嫌でも面倒くさいことに巻き込まれていくんだから、子供のうちは自由に遊んでいいんじゃないかなって。

四人、ハケる。

朱音 ……そうですね。……そうですね!すごいです円堂先生!!感動しました!何も考えてないみたいでちゃんとしたこと考えてたんですね!
円堂 何気に酷いこと言ってないか?
朱音 いやー、すごいなぁ。

言いながら、舞台下手に移動する朱音。
同時に下手に四人組が現れる。
円堂のいる上手は照明暗く。

朱音 あ、みんな!ねえねえ、円堂先生って、良い先生だね!
タケル えぇ?なんだよ急に。
朱音 でもさ、なんか他の先生と違うって感じしない?
ユキ あ、そういえば。
アイリ なに?
ユキ たいていの先生たちってさ、私たちがいけないことしたとき、怒るとか叱るっていうより、キレるっていう感じじゃない?自分が我慢できないみたいな感じでどかーん!!って。
アイリ うん怖い。
タケル なんだかなーって思う。
ユキ でもさ、円堂先生はそんなことなくて、きちんと私たちを静かに叱ってくれるのよね。私たちのことを考えてくれてるって感じがする。
朱音 なるほどねー。
タケル そういえばそうだなー。そう考えると、他の先生とは違う感じがする。
朱音 そっかー。

朱音、今度は上手に移動。
下手側が暗くなって、円堂が話し始める。

円堂 そうか……。確かに、最近自分を制御できなくて、不必要に生徒を傷つけるようなこと言う先生いるんだよなー。……あ、これ他の先生には言うなよ?
朱音 (笑って)はい。
円堂 俺は一応、自分の感情は出さないように気をつけてはいるんだよ。生徒にわかってもらえるような言い方をしようと心がけてる。うるさい説教ばっかりするやつだって思われてるかと思ってたけど、案外伝わってるもんなんだな。
朱音 そうですね。
円堂 あいつらもさ、俺を毛嫌いしてるみたいなポーズしてるんだろうけどさ、
朱音 はい。と言っても、タケルくんだけのような気もしますが。
円堂 実際は結構気に入ってくれてるみたいなんだよな。しょっちゅうどーでもいいことを話しに来るし。
朱音 やっぱり。
円堂 ん?
朱音 いや、嫌いな先生とこんなことしたりしないだろうなと思ってたので。
円堂 (笑って)……それもそうだな。

朱音、下手へ。照明転換。

タケル え?そ、そんなことねぇよ!あんなダメな教師嫌いだよ!

アイリ、タケルをたたく。

タケル いてっ。
アイリ 円堂先生のこと悪く言わないでよ!
ユキ ホントは好きなくせに意地張っちゃって。
朱音 そっかー。そうだよねー。
タケル ちっ、ちげぇよ!ほら!トモキ行くぞ!次の作戦会議だ!!

タケル、ハケる。

トモキ はいはい。

追うトモキ。

アイリ あ、お菓子忘れてきた!じゃあね、朱音ちゃん。

アイリ、ハケる。

ユキ 行きますか。じゃあまた。先生。

ユキ、ハケる。
朱音、上手へ。照明全体。

円堂 そうかそうか!タケルのやつ、可愛いところあるじゃねえか!
朱音 そうですね。今どき珍しい気もしますよね、あんな子供たち。
円堂 そうだなー。俺も良い生徒にめぐり合えたのかなー。……よし!いい加減あいつら捕まえるぞ!!

円堂、ハケる。

朱音 なんだかんだ言って、仲いいんだなぁ……。

朱音、ハケる。
暗転。

タケル イッツ、ショータイム!!

照明。
出来るだけ派手なセット。
派手な音楽。
四人組は出来れば白いポンチョを着て。
四人、下手。円堂と朱音は上手に立つ。舞台中央にはスタンドマイク。

円堂 な、なんじゃこりゃ!?
トモキ さー!始まりました!!本日のメインイベント!クライマックス!『ザ・早口ショー』!!
朱音 早口!?

許可が下りれば、ドリフの早口言葉のBGM。

円堂 ドリフか!?
朱音 あれって、勝負はしないんじゃ……。
タケル まずはおれからだ!!

タケル、中央のマイクの前へ。

タケル 生麦生米生卵、生麦生米生卵、生麦生米生卵!

タケル、下手へ戻る。
四人、期待のまなざし。

円堂 よしっ!

円堂、中央へ。

円堂 赤巻紙青巻紙黄巻紙、赤巻紙青巻紙黄巻紙、赤巻紙青巻紙黄巻紙!巻紙ってなんだ!?

円堂、上手へ戻る。
四人、悔しそう。

タケル くそっ、アイリ!
アイリ あいあいさー!

アイリ、中央へ。
集中して、

アイリ 赤パジッ……
三人 アイリぃ〜!
アイリ ごめん……

アイリ、とぼとぼと戻る。
円堂、中央へ。朱音はわたわたしている。

円堂 バスガス爆発、バスガス爆発、バスガス爆発!死ぬぞ!!

円堂、揚々と上手へ。
ユキ、中央へ。

ユキ かえるぴょこぴょこみぴょこぴょこ、あわせてぴょこぴょこむぴょこぴょこ。かえるぴょこぴょこみぴょこぴょこ、あわせてぴょこぴょこむぴょこぴょこ。かえるぴょこぴょこみぴょこぴょこ、あわせてぴょこぴょこむぴょこぴょこ。ふぅ。
三人 すげぇ!

ユキ、スマートに戻る。
円堂が前に出ようとするのを止め、朱音が行く。

円堂 朱音ちゃん……!
朱音 武具馬具武具馬具三武具馬具、合わせて武具馬具六武具馬具!ぶぐばがぶがばかっ!
円堂 馬鹿?
朱音 すみません……。
円堂 あとは俺に任せろ。(無駄にかっこよく)

トモキ、中央へ。

トモキ 東京特許きょきゃきょく!…………。

トモキ、恥ずかしそうにうつむいたあと、切り替えて戻りながら、

トモキ さー!大接戦となってまいりました!今のところ2対1です。一体どちらに勝利の女神が微笑むのか!
円堂 MCでごまかした!

円堂、不敵な笑みで前へ。

円堂 東京特許許可局、東京特許許可局、東京特許許可局!!そんなの無いけどな!

円堂、四人ににやり。

トモキ くっそー!
タケル お前の仇はとってやる。

タケル、中央へ。

タケル じょばっ、じょばんに!
朱音 なんて?

タケル、あからさまに落ち込んで戻る。

ユキ 結局あんたは何が言いたかったのよ。

円堂、前へ。

円堂 ひな祭りに暇な釣り、ひな祭りに暇な釣り、ひな祭りに暇な釣り!なにしてんだよ!

円堂、戻る。
堂々とユキが出る。

タケル よっ!
アイリ 頑張ってー!

ユキ 啄木鳥つつく木傷つく木、啄木鳥つつく木傷つく木、啄木鳥つつく木傷つく木。はぁ。
円堂 あいつ、やるな。

ユキが戻り、円堂が出る。

円堂 坊主が屏風に上手に坊主の絵を描いた、坊主が屏風に上手に坊主の絵を描いた、坊主が屏風に上手に坊主の絵を描いた!怒られるぞ!

円堂とユキ、睨み合いながら交代。

ユキ ジョーズがジョーズに上手にジョーズの絵を描いた、ジョーズがジョーズに上手にジョーズの絵を描いた、ジョーズがジョーズに上手にジョーズの絵を描いた。
トモキ なんだそれ!
ユキ え?知らない?
円堂 今の無しだろ!
タケル 有りだろ!
円堂 無し!
タケル 有り!
ユキ 私、もう疲れたから降参。
円堂 よし勝ったー!
タケル ユキぃー!
円堂 おとなしく捕まれー。いい加減夜が明けるぞー。
タケル うぅ……。アイリ!
アイリ あいあいさー!

アイリ、円堂に襲い掛かる。
円堂とアイリ、戦闘。派手で過激でかっこいいアクション、期待してます。
タケルはセコンドのようにある程度距離をとりながら「行け!行け!」とか言ってる。
残りの三人は、自分たちのほうに円堂たちが来ると「わー」と言いながら笑顔で逃げる。
戦闘。出来るだけいろんなものを壊しながら。
なんやかんやで円堂勝利。

アイリ 負けたー。(すがすがしい笑顔)
円堂 よーし。うらうらうらうらー!

円堂、残りの三人を捕まえていく。まとめて捕まえてもいい。
朱音は置いてけぼり。
四人を中央にまとめて、

円堂 どうだ!参ったか!
四人 参りましたー。

暗転。
後日。

照明。舞台には全員集合。
一斉に頭を下げる。

全員 すいませんでしたー!!
円堂 あの、全部こいつらがやったんです。俺は止めようとしたんですけど……
タケル あ!違うよ!!先生も一緒になって……
円堂 こいつ!
朱音 (見かねて)みんなでやりました!ごめんなさい!
三人 ごめんなさい!

円堂とタケル、少し渋った後

二人 ごめんなさい!
朱音 よし!さっさと片付けよう!
五人 はい!

全員、ふざけあいながら楽しげに片づけを始める。

閉幕。