この作品は、『IN THE 芸夢』の第一稿、言うなれば試作品です。
ただでさえ素人芸なものが更に目も当てられないようなことになっている気もしますが、
毒を食らわば皿までと(?)恥を忍んで掲載しました。
展開の強引さを笑うも良し、完成品との違いを楽しむも良し。というわけで、どうぞご覧ください。

『IN THE 芸夢』(プロトタイプ)
作:璃歌音

開幕

草太がゲームをしている。

ゲーム   (声のみ)ボウケン ヲ ハジメマス。ユウシャ ノ ナマエ ヲ キメテクダサイ。
草太    名前?めんどくさいな。『あああああ』でいいや。
ゲーム   (声のみ)ユウシャ ノ ナマエ ハ あ あ あ あ あ デ ヨロシイデスネ?デハ マジュツシ ノ ナマエ ヲ キメテクダサイ。
草太    『いいいいい』と。
ゲーム   (声のみ)マジュツシ ノ ナマエ ハ い い い い い デ ヨロシイデスネ?ソレデハ ボウケン ノ ハジマリ デス。

暗転

明転

ゲーム   (声のみ)もんすたー ニ タオサレマシタ。げーむおーばー デス。
草太    なんだよ!つまんねぇの!

草太、ゲームを殴る。(または蹴る。)
ゲーム、バグる。

草太    うわあああああ!!?

リョウ(この時点での名前は「あああああ」)とユイ(同じく「いいいいい」)が歩いてくる。

リョウ   まったく。私は殺生は好まんと言っているだろう?もう耐えられない!
ユイ    でもね、モンスターを倒さなきゃ先に進めないのよ。わかるでしょ?

二人、倒れている草太に気づき、駆け寄る。
ユイ(この時点[以下略])が揺さぶると、草太が起きる。

草太    ・・・・・ん?どこだ?ここ。
ユイ    ここはプテレスタウンのはずれ、ジービー渓谷よ。
草太    プッ・・・プテレスタウン!?バカ言うなよ。それはゲームの中の町だろ?
リョウ   いかにも。ここはゲイムノナカ王国だ。
草太    ・・・・・。(絶句)
ユイ    変わった人ね。あなた、どうしてこんな所に倒れてたの?この渓谷は、モンスターがうじゃうじゃ出てくることで有名な場所よ?あなただってそれくらい知ってるでしょ?
草太    う・・・うん。知ってるけど。えと・・・、ちょっと色々あってね・・・。
ユイ    そう。あんまり聞いてほしくないみたいね。じゃあ、そっとしとくわ。
草太    ありがと・・・。俺の名前は草太。起こしてくれてありがとう。
リュウ   礼には及ばん。
草太    で、あなたたちは一体誰なんですか?
リュウ   (剣を構えて)我こそは!猛き勇者、あああああ!
ユイ    (杖を構えて)我こそは!賢き魔術師、いいいいい!
草太    あああああにいいいいい?俺がゲームの主人公に適当につけた名前だ。やっぱり、ここは、ゲームの中なのか?
リョウ   だから言っているだろう。ここはゲイムノナカ王国だ。
草太    はい、そうでした。か、変わった名前だね、二人とも。
ユイ    そう?生まれた時からこの名前だから特に変わってるとは思わないけどね。
リョウ   同感だ。
草太    なんだかかわいそうになってきたな。なんとか名前を変えてあげられないのかな?

リュウとユイが固まり、ゲームの声が聞こえてくる。

ゲーム   (声のみ)ユウシャ ノ ナマエ ヲ キメテ クダサイ。
草太    え?えっと、えっと、『ううううう』!
ゲーム   (声のみ)マジュツシ ノ ナマエ ヲ キメテ クダサイ。
草太    うげぇ。『えええええ』!
ゲーム   (声のみ)ナマエ ノ ヘンコウ ガ カンリョウ シマシタ。

リョウ(あああああ改めううううう)とユイ(いいいいい改めえええええ)が動き出す。

リョウ   (剣を構えて)我こそは!猛き勇者、ううううう!
ユイ    (杖を構えて)我こそは!賢き魔術師、えええええ!
草太    お、結構簡単に変えられるんだ。次こそはちゃんと決めないと。
ユイ    なんか、自分の名前が変わった気がする。えええええなんて変な名前!
リョウ   同感だ。
草太    それじゃ、どんな名前がいい?
リョウ   お前に言ったところで名前が変わるものでもないだろう。
ユイ    じゃあねぇ、何にしようかなぁ。
リョウ   言うのか!?
ユイ    ユイなんてどう?
草太    わかった!魔術師の名前はユイにします!
ゲーム   (声のみ)ナマエ ノ ヘンコウ ガ カンリョウ シマシタ。
ユイ    (杖を構えて)我こそは!賢き魔術師、ユイ!
リョウ   本当に変えられるようだな・・・。
ユイ    ねえ、あなたも変えてもらえば?

ユイ、どんな名前を言うかとワクワクしながらリョウを見ている。
草太、特にワクワクはせずに、リョウを見る。

リョウ   じゃあ・・・・「リョウ」などというのはどうだ?
ユイ    ・・・・・・ふぅん。
リョウ   なんだ?その不満そうな態度は?
ユイ    もっと突拍子もない名前を言うかと思ったから。ねえ、草太?
草太    え?えっと・・・うん、まあ。
リョウ   どういうことだ?私が突拍子もないことを言うような人間に見えるというのか?

ユイ、力強く何度も頷く。

リョウ   失敬だな。

リョウがユイを睨み、ユイも睨み返す。リョウは本気だが、ユイはどこか楽しんでいる様子。

草太    じゃ、じゃあ、勇者の名前はリョウにします!
ゲーム   (声のみ)ナマエ ノ ヘンコウ ガ カンリョウ シマシタ。
リョウ   (剣を構えて)我こそは!猛き勇者、リョウ!
ユイ    うん!やっぱりそのほうがかっこいいよ♪
リュウ   そうか?・・・ふん、褒められて悪い気はしないからな。礼を言おう、ソータ。
ユイ    もう、素直に喜べばいいのに。

リョウ、ユイを視界に入れないようにしつつ、草太に話しかける。

リョウ   ところで、ソータはこれからどうするのだ?家に帰るのか?
草太    家?

草太、固まる。

草太    ・・・・・・・(泣き笑いで)どうやって帰ればいいんだろ?
ユイ    そんなことだろうと思ったよ。

ユイ、話しながら何気にリョウの視界に押し入る。
リョウ、避ける。ユイ、押し入る。リョウ、避ける。
二人ともしばらく同じことを繰り返しながら話す。

リョウ   とりあえず、私たちに、ついて、くるか?
ユイ    そうね、見たところ、ソウタの戦闘能力は、0に、等しいみたいだから、一緒に、いたほうが、安全、だし、どうせ、行くとこも、ないんでしょ?
草太    そ、そうしてもらえると嬉しいな。
ユイ    それなら、話は、決まったわね。こんな渓谷、さっさと、通り過ぎましょう。
リョウ   同感だ。私は、殺生は、好まんからな。

草太、突然吹き出し、こらえきれなくなりクスクスと笑い出す。

ユイ    なにが、おかしいの?
草太    二人は仲がいいのか悪いのかわかんないや。押しのけあってるのに口ではお互いに同意してるんだもん。

ここで、二人とも冗談半分の態度に。

リョウ   ユイがいつまでも意地を張っているからだ。
ユイ    なんですって?意地っ張りはどっちよ!

三人、笑いあう。
草むらからナモナイモンスター登場。

ナモ(略) なも!ない!
リョウ   あれは!
ユイ    ナモナイモンスター!世界最弱と言われるモンスターだが、倒して得られる経験値と賞金は以外に高い!
リョウ   行くぞ。
草太    え?倒さないの?
リョウ   殺生は嫌いだ。

リョウ、すたすたと歩いていき、はける。

ユイ    リョウ!いい加減、その勇者にあるまじきポリシーは崩すべきじゃない?

ユイ、草太も後を追う。
ナモナイモンスター、取り残される。

ナモ(略) なもぉぉ・・・。

暗転

声のみでユイがリョウを責め続ける。リョウ、何も言わず、草太がとりなしてユイは落ち着いてくる。

明転、舞台はキユブ森に。

一行、はけた側と反対側から登場。

草太    ここは?
ユイ    キユブ森よ。モンスターもほとんどいないし、私たちはよくここで野宿をしているの。
草太    の・・・野宿?
ユイ    そう。誰かさんがお金を稼いでくれないおかげで、町の宿には泊まれないからね。
リョウ   うるさい。
草太    ねえ、なんで雑魚モンスター一匹も倒せないリュウなんかと旅してるの?
リョウ   おい、言葉にうっすらと悪意が感じられるぞ。
草太    気のせいじゃない?ねえ、なんで?

ユイ、しばらく草太を見つめてからリョウに答えを求めようとする表情を向ける。

リョウ   し、知らん!
草太    それ以前に、なんで二人は旅をしてるの?

ユイ、同じ動作をし、今度はリョウに顔をそらされる。

ユイ    ・・・・・・・・・・ごめん、わかんないや。
草太    変なの。ま、いいや。
リョウ   (小声で)いいのか・・・?
ユイ    ま、今日はもう遅いし、明日考えればいいよ。火を起こして寝よ!

ユイ、リョウ、荷物から寝袋を取り出す。
リョウは焚き火を作り始める。(フリでもいい)

草太    俺・・・そういうの持ってない。
ユイ    (ものすごくわざとらしく)ああ!こんなところに予備の寝袋が!いやあ、特売でつい買っちゃったけど、役に立つ時がきたなぁ♪
リョウ   ふっ、「(ユイの口調を真似て)いつか三人目のお友達ができるかもしれないから、どうしても欲しい!」って、だだこねたくせに。
ユイ    お友達なんて言ってないもん!仲間って言ったんだもん!
リョウ   どうだか。
ユイ    もう!リョウなんか知らない!

ユイ、寝袋にもぐりこむ。つられて草太も。しかしリョウは眠ろうとしない。

草太    リョウ、寝ないの?
リョウ   いくらモンスターが少ないからといっても、見張りは必要だろ?
草太    じゃあ、俺も起きてる!

草太、起きようとするが、リョウに止められる。(言葉or行動、どちらでも可)

リョウ   ソータは寝ておけ。明日はお前のことでいろいろ調べまわるだろうからな。体力を温存しておくんだ。
草太    ・・・わかった。

草太、寝袋にもぐりこむ。
しばらく(短めのしばらく)すると、草太がいびきをかきはじめる。

リョウ   早いな・・・。

しばし沈黙。

リョウ   起きてるんだろ?ユイ。
ユイ    うん。
リョウ   ソータはいったいどこから来たんだろうな?なんだか、同じ世界のニンゲンという気がしないのだが・・・。
ユイ    リュウも感じた?この不思議な・・・オーラみたいなの。
リョウ   ああ。明日は師匠のところに行って聞いてみるか?
ユイ    それ、名案ね♪

沈黙。

なんだかけたたましい音(音楽)が鳴り、謎の男登場。

謎の男   やっっっっっほーーーーーーーーーーう!!!

ユイ、飛び起きる。草太はあいかわらずいびきをかいている。

ユイ    うるっさいわね!!なんなのよ、あんたは!?
謎の男   ふっ、さすらいのリーマンとでも呼んでくれ。
リョウ   いちいち声が大きい。
謎の男   いやぁ、すまんすまん。
ユイ    で、なんなの?
謎の男   いやね、実はそこで寝てる少年のことで話があってね。
リョウ   そういえばソータ、よくこの騒音の塊のようなやつを目の前にして眠っていられるな。
謎の男   こいつは、阪神大震災でも起きないだろうな。それは俺がよくわかっている。
ユイ    ハンシンダイシ・・・?
謎の男   いやぁ、すまんすまん。気にしないでくれ。
リョウ   ソータのことで話があるとか言ったな?
謎の男   ああ、そうだった。単刀直入に言おう。こいつは、現実世界の人間だ。
ユイ    ゲンジツセカイって?
謎の男   まあ、この世界の裏側かなんかにある別世界だとでも思ってくれ。
リョウ   その、別世界のニンゲンがどうしてこんなところに?
謎の男   まあ、バグだな。
ユイ    ばぐ・・・?
謎の男   話すと長くなるから、この話は割愛させていただこう。まあ、いろいろあったのだ。
リョウ   ・・・・・・・・・お前も、その別世界とやらから来たのだな?
ユイ    え!?そうなの!?
謎の男   あんた、やるな。
ユ&リョ  あ、普通に喋った。
謎の男   相当昔の話だがな、俺もこの少年と同じ世界から来たのだ。
ユイ    そうなんだ・・・。その世界とこっちの世界はそんなに簡単に行き来できるの?
謎の男   いや、そんなことはない。俺の知る限り、この世界に来れたのは俺とこの少年ぐらいだ。
ユイ    「俺の知る限り」ってことは、他にもいるかもしれないってことね。
謎の男   いやぁ、すまんすまん。逆に言えば、いないかもしれないというわけだ。気にしないでくれ。とにかく、もっと大事な話があるんだ。
リョウ   なんだ?
謎の男   異喰鬼というのを知っているか?
ユイ    コトグイノ・・・オニ?
謎の男   異なるものを喰らう鬼。ごくわずかしかいないモンスターなんだが、異世界からやって来たモノがやつらにとっての大のご馳走なんだ。だから、早かれ遅かれ必ずこの少年の所にもやってくる。それを教えにきたんだ。
リョウ   ということは、お前もその異喰鬼に襲われたのか?
謎の男   ああ、しょっちゅう襲われてるさ。その度に、なんとか逃げてきている。やつらは相当手強い。気をつけろ。

謎の男、去る。

ユイ    異喰鬼・・・。なんだか妙に納得できてしまうのは、どうして?
リョウ   あいつは、とてつもない力を持っている。そして・・・絶対にヒトを騙したりしない。
ユイ    どうしてそんなことがわかるの?
リョウ   なんとなくだ。しかし、あいつの言うことは信じていいと思う。
ユイ    だとすると、私たち、だいぶ危ない状況にあるみたいね。明日は急いで師匠に会いにいったほうがいいわね。
リョウ   同感だ。

暗転

早朝、ユイとリョウが起きだし、草太はぐっすり眠っている。
二人、草太をちらりと見てから話し始める。

ユイ    ソータには聞かせないほうがいい話かもしれないから、連れていかないほうがいいよね。
リョウ   同感だ。・・・しかし、こんなところで眠っていると危険ではないか?
ユイ    私が目くらましの魔法をかけておくわ。
リョウ   ああ、頼む。

ユイ、草太に両手を向け、真剣な顔で呪文を唱え始める。

ユイ    妖精よ、そなたの力で眠れる少年をよろずの敵から守りたまえ。隠せ!ハイド・ソータ!・・・・・これで私たち以外のモノにはソータが見えなくなっているはずよ。ただ、異喰鬼がどれだけの力を持っているか分からないから、確実とは言えないけどね。
リョウ    うむ、出来るだけ早く帰ってこよう。
ユイ     そうね。

暗転

舞台は草太の部屋に。
母、最初は声のみで、セリフとともに登場。

母     草太!草太!・・・草太ってば!聞いてるの?今テレビでね・・・・・・あら、いないわね。

母、草太がプレイしていたゲームを見つける。

母     あら、草太ったら、また新しいゲーム買ってる。

母、ゲームを手に取り、何気なく説明文を読む。

母     『ランダ師匠のもとで厳しい修行を終えた勇者と魔術師。彼女達の想像を絶する大冒険が、いま始まる!』・・・?これって、まさか!?

母、ゲームを持ったまま座り込んでしまう。

母     草太・・・。お父さんに似てゲームばっかりやってるから、いつかはこれにたどり着くんじゃないかと思ってたけど、こんなに早く見つけてしまうなんて・・・。・・・・・ああ、草太・・・。無事に、帰ってきて・・・。

母、泣き崩れる。

暗転

舞台はランダの小屋に。

リョウ   師匠!師匠!!お話があります!師匠?どこにいるんですか?
ユイ    師匠!あなたの弟子のユイとリョウです!ちょっと聞きたいことが・・・

すすすっとランダ登場。暖炉に薪を入れるなどのんびりとした動きをする。

ランダ   はて・・・わしの弟子にそんな名前の者はおらんかった気がするんじゃがのぉ・・・。

二人、いきなり現れたランダに若干驚く。

ユイ    えっとぉ・・・、ある少年に名前を変えてもらって・・・なんて言っても信じてくれないよなぁ。えっと、うんとぉ・・・。
ランダ   冗談じゃ。ちゃんとわかっておる。剣術とフェアリーマジックを教えてやった二人じゃろ?
ユイ    なんだ!知っててからかったのね。いじわる。
リョウ   あいかわらずですね、師匠。
ランダ   で?
ユイ    え?
ランダ   話があるんじゃろ?
ユイ    あ、ああ、そうだった。
リョウ   お前には任せておけない。私が話す。
ユイ    えー。
リョウ   私たちは、昨日ある少年に出会いました。どこから来たのかもわからないし、戦闘能力はゼロに等しい状態です。
ランダ   それは、おぬしらにはほっておけない存在じゃろうなぁ。
リョウ   ええ。師匠の予想通り、私たちはその少年をとりあえず保護しました。ところが、昨晩、騒音の塊のような男に会い・・・
ランダ   (遮って)ほお・・・あれに会ったのか。
ユイ    え?師匠、あの人を知ってるの?
ランダ   知ってるも何も・・・いや、あとで話そう。今はそちらの話を続けておくれ。
リョウ   ・・・はい。それで、その男が少年は異世界から来たニンゲンだと言っていました。そして・・・異世界から来たモノを喰らうというモンスターのことも話していたのですが、師匠は知っていますか?その・・・異喰鬼というモンスターを?
ランダ   ああ、もちろん知っておるとも。そして、そのとてつもなくうるさい男も異世界から来たというのもな。
リョウ   私たちの話は以上です。これが真実なのか、そして、あの男は何者なのか?師匠が知っていることを教えていただきたいのですが・・・。
ランダ   ふむぅ。ではまず、一つ目の質問から答えようかの。・・・全て本当じゃ。昨日の朝から世界の気が乱れておる。その異世界から来た少年が原因じゃ。そして二つ目の質問じゃがの・・・あれはわしの弟子じゃ。
ユイ    ええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!?????

ユイ、しばらく放心。

リョウ   弟子・・・というと、私たちの・・・?
ランダ   兄弟子にあたるのぉ。お前たちがわしに弟子入りする何年も前にわしのところに来て、すぐに全てを学び、出ていった。
リョウ   彼はあなたからどんなことを学んだのですか?
ランダ   いろいろじゃのう。剣術も、魔法も。いろいろと。
リョウ   そうですか・・・。どうりでただならぬ力を感じると思いましたよ。
ランダ   ほお・・・おぬしも腕を上げたのう。
リョウ   光栄です、師匠。ところで、少年・・・ソータという名ですが、彼のことですが・・・。
ランダ   異喰鬼に狙われておるというのじゃな?
リョウ   ええ。何をどうすればいいのか、見当もつかなくて。
ランダ   とにかく、元の世界に送り返してやらねばならん。
ユイ    どうやって??
ランダ   おお、復活したのぉ。
リョウ   復活しましたね。
ユイ    ねえ、どうやって送り返してあげられるの?
ランダ   キユブの森の奥深くに、ある扉がある。
ユイ    扉?
ランダ   そうじゃ、その扉をしかるべき日、しかるべき時間に通れば、目的の世界に行くことができるのじゃよ。
リョウ   その、しかるべき日、しかるべき時間というのは?
ランダ   ふむぅぅぅ・・・・・・。(宙を見つめ、物思いにふける)おお!今日じゃ!今日、太陽が空のてっぺんに昇るときじゃ!!

リョウ、ランダに礼を言い、走り去る。
が、ユイは気付かない。

ユイ    今、太陽があのへんだから・・・・・。あと四時間!キユブ森に戻るまでに二時間くらいかかるから・・・二時間しかない!!急がないと!リョウ!って、もう行ってるし!ありがとね!師匠!!

ユイ、リョウに続く。

ランダ   あやつの二の舞にはならぬようにな・・・。

暗転

舞台はキユブ森。
ユイとリョウがやってくる。
草太の姿はない。

リョウ   さあユイ、草太を隠している魔法を解いてくれ。
ユイ    ・・・・・。
リョウ   どうした?ユイ、早く魔法を・・・
ユイ    (遮って)もう解いてるんだけど・・・
リョウ   まさか!異喰鬼のやつらに・・・!?
ユイ    どうやら、やつらの魔力のほうが私より上手だったみたいね。
リョウ   早く探さねば!
ユイ    ちょっと待って・・・・・妖精よ、そなたの力で、無力な小年の居場所を教えたまえ。探せ!ファインド・ソータ!

ユイ、しばらく目を閉じ、力を感じる。

ユイ    こっちよ!

ユイが指差し、走り出した方向へリョウも向かう。

暗転

明転、キユブ森奥地。
倒れている草太を中心にして、異喰鬼たちがぐるぐると回っている。
異喰鬼たちは、皆一様に黒く得体の知れない姿をしている。
そこへ、ユイとリョウが登場。

ユイ    ソータ!

異喰鬼たちが一斉に振り向く。
一瞬、何が起きているのか把握するために固まる異食鬼たち、すぐに二人に襲い掛かる。

リュウ、剣を抜き、敏捷な動きで異喰鬼を追い払い、草太を連れ戻す。

さらに襲い掛かってくる異喰鬼に対し、ユイが魔法を使う。

ユイ    焼き尽くせ!パワー・オブ・フレイム!

舞台が一瞬赤くなり、異喰鬼が何体か消える。

ユイが魔法を使う間も、リョウは異喰鬼と立ち合いを続けている。
が、異喰鬼たちに囲まれ、リョウがピンチに。

ユイ    吹き飛ばせ!パワー・オブ・ストーム!

舞台が一瞬青い光に包まれ、残っていた全ての異喰鬼が消える。

しばらく沈黙。

草太    あ・・・ありがとう・・・
リョウ   いや、お前を一人で置いていってしまった私たちの責任だ。
ユイ    それより、もうすぐ扉が!
リョウ   そうだったな。早く話を済ませないと。ソータ、お前はゲンジツセカイとやらからやってきたのだろう?
草太    どうしてそれを・・・?
ユイ    私たちの師匠に聞いたの。あの人はなんでも知ってるんだから。
リュウ   それでだ。師匠に、お前は元の世界に戻るための方法を聞いてきた。もうすぐ、この森にあるという扉が開くそうだ。その扉を通れば、元の世界に戻れるそうなんだが・・・・・。
ユイ    あ、あれじゃない?

ユイ、奥にあった扉を指差す。

リョウ   もうすぐ時間だ。急げ。
草太    ちょ、ちょっと待ってよ!まだ言いたいことがあるんだよ!
リョウ   ならさっさと言え。
草太    まず・・・なんで「殺生は嫌いだ!」とか言ってたくせにあんなにして僕を助けてくれたの?
リョウ   私が殺生を嫌っているのはだな、ニンゲンだろうとモンスターだろうと、どんなに小さな生き物だって、同じ重さの尊い命を持っている。その命を奪うという行為は、とても重大な意味を持つんだ。むやみやたらと他の生き物の命を奪ってはいけないんだ。・・・だが、自分が生きるためにどうしても何かの命を自分の命の糧にしなければならない時もある。そんな時も、必要最低限に抑え、自分のために奪った命を弔い、祈り、大事にしなければならない。さっきの戦闘では、命までは奪わないようにしたはずだ。あとで見つけて治療をしてやるつもりだ。ユイ、頼む。
ユイ    承知してます。
草太    そっか・・・・・。二人とも・・・ありがとう。本当に、ありがとう。
ユイ    ほら、もう時間よ。じゃあね。
リョウ   元気でな。

草太、ゆっくりと扉を通り抜けて消えていく。

しばらく扉を見つめていた二人、すっと気が抜けたように話し出す。

リョウ   また、余った寝袋を運ばなければいけないのか。
ユイ    いいの。いつかまたお友達ができるかもしれないから。
リョウ   あ、今「お友達」って言ったな?
ユイ    ち・・・違うよ!「仲間」って言ったんだってば!
リョウ   ははは。ユイはまだまだお子様だな・・・(笑)
ユイ    違うってば!!!

暗転

明転、舞台は草太の部屋。
母が草太を抱いている。

草太    あれ・・・。俺の部屋だ・・・。ホントに戻ってきたんだ。
母     良かった・・・。戻ってきたのね!お父さんみたいになっちゃんじゃないかって思って、もう心配で心配で・・・。
草太    父さんって、俺が小さい頃に交通事故で死んだんじゃなかったの?
母     え?あ、いや、なんでもないわ。でも本当に戻ってきてくれて良かった・・・。

暗転
草太が一人で部屋に立っている。

草太、ポケットに入っていた手紙を見つける。

草太    ん?なんだこれ。

草太、手紙を開く。手紙を読み上げるが、だんだん父(謎の男)の声に。

草太    『草太へ 直接話せなくてすまない。時間がなくてな。まず、俺はお前の父親だ。そして、俺は交通事故で死んだりなんてしていない。今もピンピンしている・・・んだけれども、草太がいる世界にはいない。俺はゲームの世界に住んでいる。父さんがゲームを作る会社で働いていたことは知っているな?父さんはあるとき、実際にゲームの中に入ってプレイする究極のゲームを発明した。まず、父さんが試作品に入って実験した。・・・だが、実験は失敗した。父さんはゲームから出られなくなってしまった。それで、母さんは交通事故を起こしたってことにして、お前には本当のことを話さないようにしたようだ。幼いお前には理解できないと思ったのだろう。まあ、今になっても本当のことを話していないのは不思議だが・・・。話を元に戻そう。そこで、このゲームの開発はいったん中止となった。が、数年経って、このゲームは今までどおり機械を操作して遊ぶ普通のゲームとなって売り出された。しかし、削除されたプログラムの一部が残ってしまっていたのだろう。試作品で父さんが入ったことによって、似通ったDNAを持つお前が残留プログラムに反応してお前をゲームの中に引き込んでしまったようだ。まあ、残留プログラムがバグとして作動するのは何か大きな衝撃でもない限り、ありえないと思うのだが・・・。草太には迷惑をかけた。手紙で悪いが、謝らせてもらいたい。一応、草太がゲームの中にいる時に会いに行ったんだが、お前は熟睡しててどんなに騒ぎ立てても起きなかったからな。この世界では紙というものは希少だから、書きたいことはたくさんあるが、この辺にしておこう。じゃあ、元気でな、草太。』

草太、しばらく手紙を見つめる。

草太    父さん、俺、父さんが果たせなかったこと、代わりにやりとげるよ!



閉幕