『IN THE 芸夢』
作:璃歌音


登場人物
・唯(ゆい) 女。ゲーム好きの中学2年生。
・レイム(れいむ) 男。唯がゲームの中でであった魔術師。現実世界の年齢で言うと36歳くらい。
・ギニュ(ぎにゅ) 女。レイムの弟子。現実世界で言うと10歳くらい。
・ランダ(らんだ) 女。ゲームの案内人だが、プログラムミスで呼び出さなければ出てこない。現実世界なら240歳くらい。
・異喰鬼(ことぐいのおに) ゲームとしてはバグを排除するプログラム。誰にも知られないモンスターとして生きている。
・母(はは) もちろん女。唯の母。
・ナモナイモンスター(なもないもんすたー) 名も無いモンスター。弱い。ことごとく弱い。とてもおとなしい。


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開幕

父の部屋。辺りにはゲームソフトが山積みになっている。
唯が激しくゲームをやっている。

唯 いけ!いけ!おりゃ!死ね!うりゃ!うわ、うそ!やだやだやだやだ!あーもう!

負けた感じの効果音。ゲームオーバー。
唯、立ち上がり、ゲームの山へ近づく。

唯 次はどれをやってみようかなー。ん?なんだろこれ?あ、これお父さんの会社のやつだ。

一本のソフトを手に取る。
と、母の声がする。唯は母に応えるというより、独り言のように話す。

母 (声のみ)唯!お父さんのゲームばっかりやってないで、勉強しなさい!
唯 これだけ色々あったらやらずにはいられないよー。なになに?「実際にゲームの中に入って冒険できる!新感覚のRPG!」…すっごい!おもしろそう!

唯、早速ゲームを始める。
すると、どこからともなく機械的な声が聞こえてくる。

ゲーム 新世代RPGの世界へようこそ!リアルな冒険をお楽しみください!!

暗転

暗闇の中、唯が舞台の真ん中に立つ。

ゲーム それでは、冒険を始めます。あなたの名前と性別を登録してください。
唯 ゆ、唯です。性別は女。
ゲーム プレイヤー、ユイ。職業をナイトかウィッチのどちらかから選んでください。
唯 うーん?…ナイトで!
ゲーム プレイヤー登録が終了しました。それでは、冒険をお楽しみください。

暗転

照明がつくと、舞台はジービー渓谷に。
唯が倒れているのを、レイムとギニュが覗き込んでいる。

ギニュ 死んでるんですかね?
レイム いや、呼吸はしている。生きてるだろう。
ギニュ 寝てるんですかね?
レイム そういうわけでもなさそうだ。気絶してるんじゃないか?

唯、いきなりがばっと起きる。

ギニュ あ!起きた!
レイム 起きたな。
唯 うわ!すっごい!ホントにゲームの中だ!!
ギニュ うん、ここはゲイムノナカ王国だよぉ。
唯 うわ!あなた誰!?
レイム 私はレイム。ウィザードだ。
ギニュ その弟子、ギニュだぁ!
唯 どうも、唯といいます。あの、ウィザードってなんなんですか?
レイム ? 貴女は外国の方か?ウィザードなど、どう説明すればよいのやら…。
ギニュ 簡単に言うと、魔術師だよぉ。この国のいろんなところにいる、危険なモンスターと、魔法によって戦う人たちのこと。女の人の場合は、ウィッチって呼ばれてるね。
唯 ああ、魔術師ね。なるほど。
レイム あなたは?
唯 え?
レイム あなたは?
唯 は?
レイム あな
ギニュ (遮って)ししょうはね、あなたの職業を知りたがってるんだよぉ。
唯 あ、ああ、えっとぉ、「ナイト」らしいんですけど…。「ナイト」ってなんなのかわかんないんですよ…。
レイム ? 貴女はがいこ
ギニュ (遮って)簡単に言うと、騎士だよぉ。この人たちは、モンスターと魔法じゃなくて剣術で戦うの。
唯 ああ、騎士ね。なるほど。…って、あたし武器もないし、第一どうやって戦っていいかもわかんないのに!
レイム 戦闘なら私が教えてやろう。武器は予備のものがあったはずだ。
唯 ? 魔術師なのに?
レイム 魔術師だってある程度の戦闘は可能だ。
ギニュ あちしも教えたげる!
唯 あ、ありがとうございます。
レイム ところで、武器も持っていないのに何故こんなところで倒れていたのだ?
唯 …? さあ?(とぼける)
ギニュ ししょう!この人、あの「キオクソーシツ」ってやつですよ!きっと!
レイム そうかも知れないな。しばらく様子を見てみよう。
唯 …あの、ここってどこなんですか?
レイム プテレスタウンのはずれ、ジービー渓谷だ。モンスターは少ないから野営に向いている。
唯 (ひとりごと)うわ、地名聞いても全然わかんないや。
レイム ギニュ、ユイ殿に武器を。
ギニュ りょーかい!

ギニュ、持っていた小さな鞄をごそごそと探っている。

唯 あ、唯でいいですよ。…って、こんな小さな鞄に武器なんて入ってるんですか!?
レイム 容量拡大魔法をかけてあるからな。
唯 へぇ…(わかってない)。

ギニュが鞄から剣をひっぱりだす。

ギニュ あった!これなんかどうですか?
レイム うむ、いいだろう。ユイ、持ってみろ。

レイム、唯に剣を渡す。
が、唯は剣が重すぎて取り落としてしまう。

唯 お…、重…。
レイム やはりな、全く基礎ができていない。まずは剣の素振りだ。

レイムは近くにあった岩に座る。
ギニュ、唯に近づいて練習を手伝う。

ギニュ このへんを持ってみてぇ。
唯 あ、持ち上げやすい!
ギニュ でしょぉ?そしたらね…

ギニュ、鞄から自分の剣も取り出し、構えてみせる。

ギニュ こうやって構えて。
唯 う、うん。

唯、なんとか真似しようとするが、なんとなくぎこちない。
レイムが立ち上がる。唯の後ろに回って、剣を持ち直させる。

レイム こうだ。

固まるレイム。なにやら唯を見て驚いている。

唯 どうかしました?
レイム いや、なんでもない。もう少し足を開いて。
唯 は、はい。こう、ですか?

唯、レイムに教わったようにする。

レイム うん、そんな感じだ。
ギニュ ユイ、まず喋り方が硬い硬い!別にそんなかしこまらなくていいいよぉ。ししょう、いいですよね?
レイム ああ、別に構わない。
唯 はあ、じゃあ、お言葉に甘えて。
レイム よし、素振りをしてみよう。
唯 素振り?

唯、野球の素振りをする。

レイム ……ばか。
唯 へ!?だって、素振りしろって!
レイム 剣持たされて野球の素振りするやつがあるか!!
唯 うぐぐ……。

ギニュ、レイムの服をひっぱる。

ギニュ 「やきゅう」って、なんですか?
レイム んー、なんでもない。気にするな。ユイ、剣の素振りは…こうだ。

自分の剣をとりだし、素振りをしてみせる。

唯 あ、なるほどぉ。てい!

唯、素振りを真似してみるが、なんとなく情けない。

レイム 違う!もっと腰を入れろ!!
唯 こ、腰を…入れるぅ??

暗転

二時間後……
照明がつく。

唯 ふぅ…。疲れた…。
ギニュ 結構素質あるよ、ユイ!
レイム ふむ・・・なかなかやるじゃないか。
唯 どうも♪

すると、岩陰からナモナイモンスター(以下ナモ)が現れる。

ナモ なも!なも!
ギニュ お!ナモナイモンスターだぁ!とってもおとなしくて、ことごとく弱いのに、もらえる賞金は意外と高いんだよぉ!
唯 いい練習台になるね♪よーし
レイム (遮って)やめろ!
唯 ……へ?
レイム 無用な争いはするな。私は殺生は嫌いだ。

レイム、去る。
ギニュはナモナイモンスターをなでている。
ナモナイモンスターは気持ちよさそうにしている。ギニュを襲ったりする様子はない。
唯はおろおろしている。

レイム (袖から)早く来い!
ギニュ はいはいっと。

ギニュ、袖に歩いていく。
唯は一瞬取り残されるが、すぐに追いかける。

唯 ま、待ってよ!

取り残されるのはナモナイモンスター。

ナモ なもぉ…

暗転
照明がつくと、三人が歩いてくる。先頭はレイム。それに慣れた様子でギニュがついていき、少し遅れて唯。舞台を歩きまわるうちに岩を動かすなどして、明転。ジービー渓谷の別の場所という設定で。

唯 ちょっと!どういうこと?なんで戦っちゃいけないの?
レイム 武器は自分の命を守る為のものだ。無用な戦いは避けなければいけない。
唯 それじゃあ、賞金とか全然手に入らないじゃない!
ギニュ そ。だからあちしたちはいっつもびんぼーなの。
唯 もう、信じらんない!

唯、近くの岩に座り込む。困った様子で唯を見やるレイム。

レイム ユイ、そう怒るな。私の言うことは間違いではないと思うんだがな…。
唯 まあ、そりゃそうだけどさ…。
ギニュ あちしも詳しいことは教えてもらえないんだけどさ、なんかいろいろあるみたいだから、わかったげてね。
唯 うん……。(とりあえず落ち着く)
ギニュ もう暗いから寝る時間だよぉ♪

ギニュ、鞄から寝袋をとりだし、レイムに渡す。自分のぶんもとりだす。

唯 ……あれ?
レイム どうした?ユイ。
唯 あたし、そういうの持ってないや…。
ギニュ おおおおおおおおおおおおおお!!!!
レイム (すかさず)うわびっくりした!
唯 ギニュ!おどかさないでよ!
ギニュ こんなところに予備の寝袋が!いやぁ、こんなこともあろうかと、特売で買っておいてよかったですよぉ。
レイム なにがこんなときもあろうかと、だ。「(ギニュの口調を真似て)いつか三人目のおともだちができるかもしれないから買いましょうよぉ!」ってだだこねたくせに。
ギニュ お、おともだちなんて言ってないですよぉ!仲間って言ったんですよぉ!
レイム どうだか。
ギニュ もうあちしは寝ます!

ギニュ、寝袋にもぐりこむ。

唯 じゃあ、あたしも寝よっと。

唯も寝袋に入るが、レイムは座ったまま。

唯 レイムは寝ないの?
レイム いくらモンスターが少ないといっても、見張りは必要だろう。
唯 そっか。じゃあ、あたしも見張りする。
レイム いや、いい。明日も早い。寝ておけ。
唯 う、うん…。

唯も横になる。
たちまちいびきをかき始める。

レイム この寝つきの良さ…。やはり…
ギニュ あのぉ、自分の娘を寝つきの良さで判断するっておかしくないですか?
レイム ギニュ…。わかっていたのか。

ギニュ、起き上がる。

ギニュ わかりますよぉ。そんな“愛しい我が娘よ!遂に再会できたの言うのに、父と明かせないなんて!れ・みぜらぶる!ああ無情!”って顔してれば。
レイム そんな顔した覚えはないぞ。お前本当に子供か?実は呪いをかけられて子供の姿に変えられた中年のおばさんなんだろう?
ギニュ まーた、ご冗談を。
レイム わりと真面目なんだが…。それに「レ・ミゼラブル」はそんな話じゃない。
ギニュ で。説明していただけますよね?ししょう。
レイム まあ、仕方ないだろうな。話すとしよう。唯もこれだけ熟睡してることだし。
ギニュ いいから早くしてくださいよぉ!
レイム 前にも話した通り、私は現実世界から来た人間だ。
ギニュ ああ、この世界の外側にある世界から来たっていうあれですね。まだよくわかってないんですけどね。
レイム まあ、こちら側の者に説明して理解してもらうのは難しいだろうな…。それはいいとして、その現実世界は、この世界とはなにもかも違う、魔法よりも科学の発展した世界なんだ。
ギニュ なるほど。ぱれれるわーるどってことですか。
レイム 惜しい。パラレルワールドだな。…そして、話はここからがやっかいになってくる。
ギニュ あちしの頭をフル回転させて出来るかぎり理解してみますから!
レイム うーん。…現実世界にはテレビゲームというものがある。
ギニュ てれびげーむ??
レイム 詳しくは説明できないが、空想上の世界を模擬体験して遊ぶおもちゃとでも言おうかな。実はこの世界は、そのゲームの中の世界なんだ。
ギニュ はぁ。確かにここはゲイムノナカ王国ですけど…?
レイム いや、地名の話ではない。なんと言ったらいいか…。単刀直入に話そう。この世界は、現実世界の人間に作られた世界なんだ。
ギニュ (絶句)
レイム だから、ゲイムノナカ…ゲームの中と呼ばれているんだ。…しかも、このゲームは……私が作った。
ギニュ ……ししょうが?
レイム ああ。私は現実世界でそのゲームを作る仕事をしていた。ある日私は、今まで誰も作ったことのないゲームを完成させた。
ギニュ …どんな?
レイム 実際にゲームの中に入り込み、本当に自分が冒険しているように感じられる、というものだ。
ギニュ 今まではどういうものだったんですかぁ?
レイム んー、とても説明できん。ゲームの中と現実世界の間に、大きな壁があったとでも言おうか…。
ギニュ はあ…。えっと、書物を読んでいるような感じですかね?
レイム ああ、そんなところかな。
ギニュ それで、どうしてししょうがこの世界に?
レイム うん。今までにないゲームを作り上げ、自分で試してみたんだ。だが、まだ試作品の段階だった為に、現実世界に戻ることができなくなってしまった。
ギニュ ほおお…。それで、ししょうがこの世界にとどまることになったわけですね?…じゃあ、ユイはどうして?
レイム 試作品は二つあった。もう一つ、自宅に保管してあったんだ。きっと唯はそれを見つけて、プレイしてしまったんだろう。
ギニュ なるほどぉ。んーと、一ついいですかぁ?
レイム なんだ?
ギニュ どうしてししょうは、ゲンジツセカイに戻れなくなっちゃったんですかぁ?
レイム それなんだがな、私のミスのせいなんだよ。…ゲームにはバグというものが生じることがある。
ギニュ ば、ばぐ?
レイム 人間が作ったものだからな、ミスはよくあることだ。そのミスから世界に歪みが起き始めたりする。それがバグだ。そのバグを排除するためのプログラムがあったんだが、しまったことに別の世界から入ってきた私を異物と認識されてしまい、そのプログラムに現実世界とのつながりを断ち切られてしまった。
ギニュ で、帰れなくなっちゃた?
レイム そうだ。現実世界では死んだことにでもされてるんだろうな。
ギニュ ぷ。
レイム わ、笑うな!普通、こんな話聞いて笑うか?
ギニュ すみません。(半笑い)
レイム 私の場合はもうどうしようもないが、唯までこの世界に拘束されるようなことになってはいけない。だから、唯に私の素性を明かすことも出来ない。唯のことだから、私が父親だと分かったら長々とこちらの世界に居座りそうだからな。あまり長居していると異喰鬼に嗅ぎつけられてしまう。
ギニュ …ことぐいのおに??
レイム バグを排除するプログラムは、この世界では異喰鬼というモンスターとして生きているんだよ。
ギニュ 聞いたことないですよぉ、そんなモンスター。
レイム この世界では知っている者はいないだろう。いや、ランダなら知っているか。
ギニュ ランダ?
レイム このゲームの案内人をする女性だ。プログラムのミスで全く出てこないが、呼び出すことは可能なはずだ。彼女なら、唯を現実世界に戻す方法もわかるかもしれないな。
ギニュ じゃあ、今すぐ聞いてみましょうよ。
レイム いや、今呼び出しても、ランダに来てもらえるのは明日の昼前だろう。ランダはなんというか・・・のんびりしているから。
ギニュ りょーかいです!ししょう!

暗転。
翌日。照明がつくと、三人が朝食を食べ終わったところ。

ギニュ ごちそーさまでした!!(大声。超、大声。)
唯 ご、ごちそうさまでした。
レイム もう少し、剣術の訓練をしておいたほうが良いな。
唯 え?今日もやるの…?
レイム 鍛錬は毎日やったほうがいい。ギニュ、相手になってやれ。
ギニュ あいあいさー!!

ギニュ、唯に剣を渡し、自分のものもとりだす。
唯は鞘から剣を抜くが、ギニュは鞘をつけたまま。
それを見て自分の剣も鞘に戻そうとする唯をギニュが止める。

ギニュ だいじょーぶ。万が一にも唯の剣が当たることはないから♪
唯 な、なめられたものね。

ギニュ、数歩下がる。

ギニュ どっからでもかかってきていいよぉ♪
唯 よーし。とりゃあああああ!!

唯、ギニュに突進するがギニュはひらりとかわす。
唯がめちゃくちゃに剣を振り回すが、ギニュはそれを踊るようにかわしている。というか、踊っている。後半は踊っているギニュに唯がとびかかってはかわされ、唯がよろける、といった状態になってしまう。
唯、あきらめてへたり込む。

唯 もう嫌!!
レイム ギニュ、少しは手加減してやれ。
ギニュ すいませーん♪なんか楽しくなっちゃって。
レイム (太陽を見て)そろそろだな…。ギニュ。

レイム、ギニュに目で合図。ギニュは言葉は発せずに応える。
ギニュ、空中に視線を向け、

ギニュ あ、ちょーちょだ!!

ギニュ、走り去る。
唯、追う。

唯 ちょ、ちょっとギニュ!それ蝶じゃなくて蛾だよ!ねえギニュ〜!

レイム、唯が走り去るのを待ち、ふいに立ち上がり、近くの岩をどける。

レイム この辺かな。

岩の陰には老婆(ランダ)がうずくまっている。
ランダ、ゆっくりとした調子で話し始める。

ランダ ぬおお。見つかってしもうたか。
レイム わからないはずがないでしょう。私がプログラミングしたんですから。
ランダ それもー、そうじゃーなー。
レイム それで、唯のことですが。
ランダ 今日の正午じゃ!
レイム ……は?
ランダ 今日の正午に、扉が開く。
レイム と、扉…ですか。
ランダ わしがー、開けるようにー、してー、おいたー。その扉からー、元の、世界にー、戻―、れるぞよー。
レイム あ、それはどうも。
ランダ じゃーがーなー。奴らが近づいとるからのー。なんていうかのー、ヤバイのー。
レイム 異喰鬼…ですか?
ランダ そうじゃ。ユイとやらの存在を嗅ぎつけたらしいのー。
レイム 唯は私が守ります。
ランダ 頼もしいのー。
レイム …あの、扉というのは、どこに現れるのですか?
ランダ どこじゃったかのー。きっと、この渓谷のどこかじゃと思うんじゃがのー。
レイム なんですかそんな曖昧な。
ランダ すーまんーのー。最近、物忘れが激しゅーてのー。ぬほほほほほほ。(笑)
レイム …まあ、なんとか探してみますよ。
ランダ ではのー、わしはー、帰るぞーよー。
レイム …ありがとうございました。

ランダ、去る。
レイムは近くの岩に座り、考え込んでしまう。

レイム うーむ…。

すると、袖からギニュと唯の叫び声が。
二人が舞台に駆け込んでくる。

レイム どうした!?
ギニュ あんぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ、うにょにょーうおうおう!
レイム まともに話せ!!(汗)
唯 なんか、よくわかんないけど、ものすごーく怖いものに、襲われた…気がする。
レイム 気がする。って、なんだ!!

唯、「わからない」という風に首を振る。
突然、舞台が薄暗くなる。おどろおどろしい感じが出せると凄く嬉しい。

レイム 鬼が来た…。
唯 オニ!?
ギニュ 昨日話してた、異喰鬼ってやつですね。
レイム そうだ。やつらの姿は見えない。特殊なオーラに身を包んでいるからな。
唯 なに!?オニってなに!?

どこからともなく恐ろしい息遣いと異喰鬼の声が聞こえてくる。(ハリー・ポッターのヴォルデモートのように)

異喰鬼 …お前、礼司か。
レイム やめろ!
唯 れい…じ?
異喰鬼 ……何の因果かな。二年前はお前、今度はその娘か。
レイム やめろおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!

唯、混乱。
レイムは鬼の力で動けなくなってしまう。

ギニュ ししょう!
唯 娘?娘ってどういうこと?
レイム うう……、や、やめろぉぉ…。

と、唯が見えない力で捕らわれてしまう。

唯 きゃあ!!
レイム ……ユイ…!

ギニュが唯に駆け寄り、鬼から助けようとするが、突き飛ばされてしまう。

異喰鬼 我らはお前に作り出された不自由な存在。お前に定められた通りの行動でお前に復讐してやれた時は嬉しくて仕方がなかった。仲間が犠牲になったことなど、他愛もないことに思えてくるわ!…ふふふ、より辛い目にあわせることができるとは、なんという幸せ!!!!!

レイム、体を無理矢理動かし、立ち上がる。b
レイム や、やめろ…。
異喰鬼 礼司…。お前に我らを止める力はない。お前は既に、この世界の駒の一つと化しているのだからな。自業自得と言うやつだな!!
レイム その名前で呼ぶな!!

鬼が唯と現実世界とのつながりを絶とうとする。(なにかが起きているとわかる程度で)

唯 いやあああああ!!
レイム ユイを…唯を放せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!

レイムの魔力、最大パワー。
辺りがまばゆい光に包まれる。
唯が、突然解放される。

レイム はあ…はあ…。
ギニュ ししょう…、鬼は…?
レイム ……。手加減など、できなかった。
唯 …殺しちゃった、の?

レイム、頷く。

レイム どんなに恐ろしいものだろうと、悪しきものだろうと、命あるものを殺めた後は、嫌な気分になるもんだ。
ギニュ でも、ユイが危なかったから
レイム (遮って)それでも!……それでも、やつらを殺さずにユイを助ける方法はあったはずだ。………余裕が、余裕がなかった。あの時と同じだ。何も成長してないんだ。私は。
ギニュ あの時…。ししょうが鬼に襲われた時ってことですか?
唯 ねえ、その異喰鬼ってなんなの?
レイム ユイは…、知らなくていい。
唯 どうして?

レイム、黙って首を振る。

ギニュ その、二年前も、鬼を殺して…しまったんですか?
レイム ああ。今でも思い出すさ。命を奪った時のあの恐ろしい感覚…。二度と味わいたくなかった。私は…どうしようもないな……。

沈黙。

レイム ユイ。…急げ。もうすぐ扉が開く。
唯 扉?
レイム 元の世界に戻る扉だ。正午に開く。
唯 元の世界って…。
ギニュ ランダさんに聞いたんですか。
レイム そうだ。
唯 なんだかわからないけど、その扉はどこにあるの?
レイム …そうだった。それが分からないんだった……。
ギニュ えええええぇ?

と、どこからともなく扉が現れる。

ギニュ って、あれじゃないですか?
レイム (顔を上げる)…あ。
唯 あれで、元の世界に戻れるって言うんですか?
レイム そうだ。早くしないと、別の鬼がやって来る。もう私には力が残っていない。もうユイを守れない。そうなったら二度と現実世界に戻れなくなる。
ギニュ だってさ!ユイ!
唯 え、で…でも。
レイム 早く行け!
唯 ……嫌。あたし行かない。
レイム …唯、何言って
唯 (遮って)一人では帰らない。お父さんと一緒に帰る。
レイム …え?

唯、レイムの手を掴み、扉へ駆け込んでいってしまう。
一人取り残されるギニュ。しばらく呆然としてから振り返り、

ギニュ ししょうのとっておきの干し肉食べちゃおっと。

暗転。

暗闇の中、唯とレイムの二人が歩いている。

レイム いつから分かってたんだ?
唯 最初から。
レイム なに!?
唯 うそ。異喰鬼とかいうのがお父さんを本当の名前で呼んだときまではよくわかんなかった。
レイム ……。唯の現実世界とのつながりの糸につかまってゲームから出てくることになったか。
唯 …?よくわかんないけど、お父さんが帰ってきて良かったよ。
レイム 俺は、死んだことにでもなってるんじゃないのか?
唯 植物人間って言ったっけな?病院でずぅっと寝てるよ。
レイム ふっ、一応、肉体は残ってるってわけか。

暗転

父の部屋、若しくはサス。
唯がゲームの前で座り込んでいる。すると、袖から母の声が。

母 唯!唯!!

母、部屋に入ってくる。

母 今、病院から電話があってね、お父さんの意識が戻ったって!!
唯 うん。知ってる。
母 え?(怪訝そうに)
唯 いや、なんでもない。行こ、お母さん。
母 う、うん。
唯 もう、お父さんったら、二年間も家族をほったらかしにして!病院に行ったらひっぱたいてやる!!
母 唯。意識が戻ったっていっても、まだ体調は万全じゃないのよ?
唯 わかってるよ!冗談だって!(笑)

暗転。